2部作合計4時間半をいっきに鑑賞。

この映画『セデック・バレ』、昨年の大阪アジアン映画祭2012で公開され、観客賞を受賞した作品。


台湾では2011年に公開され、第48回金馬獎で「最優秀作品賞」「最優秀助演男優賞」「最優秀オリジナル音楽」「最優秀音響効果」「観客賞」の最多5部門を同時受賞。


日本では4/20に一般公開された。すでに話題十分の映画だが、やはり地方での公開は遅れ、この夏に初見という人も多いはず。私もその一人。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

とにかくスゴイ映画だった。


感動とかそういうんじゃない。映像美とか圧倒的迫力とかで形容もできない。


1930年10月27日。日本統治時代の台湾の山深い村(台中州能高郡霧社=現在の南投県仁愛郷)で起こった原住民セデック族による抗日暴動を描いた作品。


台湾原住民による強烈な日本への憎しみが描かれるが、反日映画ではない。

いたって冷静に描かれた原住民の誇りは、ときに勇ましく、ときに野蛮だ。

そう、野蛮というのは部族同志の対立による首狩りの風習も描かれていて、セデックを美化しすぎているわけではない。

この映画を観て、未開の台湾社会が良かったなどとは、漢民族であろうが台湾人であろうが少数民族(原住民)であろうが、思える人はいないだろう。


日本人の描かれ方についても、悪い日本人もたくさん出てくるが、極悪非道というわけではない。よい日本人は少ししか出てこないが、それでも、抗日暴動によって日本人家族もろとも惨殺される理由は感じることができない。

ちなみに史実である霧社事件では、日本人140人が殺害された。


そうした実話にもとづく抗日の物語を描いてはいるのが、反日映画ではないし、かといって原住民賛歌でもない。


でも、そこにこの映画の魅力があるんだろう。


監督・脚本・編集は、大ヒット映画『海角七号』で、日本統治下の時代をノスタルジックに描いたウェイ・ダーション(魏徳聖)。


海角七号を撮った人だから、日本が嫌いという監督ではないだろう。だからこそこの映画が撮れたのではないか、という気もする。


日本人も犠牲になったが、蜂起した側の台湾原住民も1000人が日本軍の反攻にあって死亡した。

日本人相手に戦う間も、部族同志の抗争も続いていて、民族同志で殺し合う。

救いようがない話と言えば、その通りである。


ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ

しかし、見るべき映画である。

映画チラシには、「価値観が乱される四時間半」とあるが、まさにその通り。


今回、一中華映画ファンとしては、『海角七号』に出ていた田中千絵が本映画にも出ていることや、原住民の血を引いているビビアン・スーが出ていること、安藤政信が熱演であること、などなどにも触れたいのだけれど、映画の余韻があまりに大きくて、そうした些末なことが書けないでいます。

それほど、スゴイ映画です。繰り返しますが、感動や映像美、迫力がスゴイのではなく(もちろんそれらも台湾映画史上最高の仕上がりなんだけど)、映画の作品力がスゴイんです。

長い上映時間にもめげず、そうした作品も味わいたい人はぜひ見ることを強くおすすめします。