反時代への意志
先日「秘密の花園」を含む7つのカズモ演劇DVDを見て、
そのレビューめいたものをe+のサイトに載せましたところ、
カズモ専務取締役にして、プロデューサー、ディレクターの
川村尚敬さんから、ご丁寧なる御礼のメールを頂戴しました。
その川村さんが、カズモのサイト
http://kazumo.jp/creator/
で、「プロデューサーズノート」という時評を書いておられます。
深い含蓄と鋭い問題提起に満ちて、
いずれの文章も読みごたえがあります。
その中の一つ、
プロデューサー・ノート37「続・NHK問題への視点-公共放送のかたち-
http://kazumo.jp/creator/kawamura/kawamura37.htm
において、「秘密の花園」の映像が、
今だったらNHKで放映できなかったかもしれない可能性
について言及されておられます。
ちょうど、わたくしは「放送禁止映像大全」(天野ミチヒロ著、
三才ブックス)という本を読んでいて、
世間から葬られた映像群を丁寧に検証し弔い続ける著者の
偏愛的パワーに圧倒されると共に、世の中には、
モノゴトの表面しか見ないで、クレームや圧力で
「ことなかれ」を他人に強いる勢力の多いことに、
強い憤りを覚えていたところでした。
モノゴトの表層だけしか見ない、それどころか表層すらしっかり見ずに、
ある種の短絡的な共同幻想に盲従しながら大事なものを迫害して、
すっかり「良いことをした」つもりになっている人の、いかに多いことか。
というより、年々増えている気がします。
思うに、日々情報が大量にあふれる中で、
そういうディジタル思考の判断をしなければ、やってゆけないのでしょう。
自分自身、ときおり、そういう面もあるかもしれません。というか、
ディジタルな思考それ自体を駄目だといっているのではありません。
ただ、ビット数の少ないディジタル思考を振り回されては困るな、と。
モノゴトの深層を見ようとせず、眼の前の状況を疑おうとせず、
自分自身の判断も検証しようとしない、そういう情報ビット数の少なさが、
最近世の中および身の回りでやたらとはびこっているように
感じられるのです。タチが悪いのは、そういう少ない情報ビット数は、
エモーションに流されやすいということなのです。
(これらは、自分自身についても色々あてはまる気もしちゃうのですが)
とどのつまり「官僚的振る舞い」とは、
そういう思考に基づくものだと思ってます。
「官から民へ」というスローガンこそここ数年叫ばれてはいますが、
その一方で、民の中にも官的発想が浸透してきている気がします。
わたくしが勤務している、この会社も油断をすると現場レヴェルで
そういう現象が随所随所垣間見られますし。
また、2chなどたまに見ても、名も無き市民がそういう傾向をよく見せる。
とにかく、これが現代というものなのでしょう。
まあ、こういうことを書くのは自分が年寄になった証拠だとは思います。
しかし、保守反動に転向する気はさらさらありません。
ただ、反時代的スタンスを維持し続けること、これは自分にとって常に、
もっとも大事なことであります。
そして同時に、花田清輝の、
「無知から謙虚さは生まれてこない。本当の謙虚さは、
知識の限界をきわめることから生まれる」という言葉も
忘れてはならないと考えてます。
といいつつ、なかなか謙虚になれない自分がいるわけですが・・・。
映画版「SHIROH」
映画版「SHIROH」現在、渋谷シネクイントで
絶賛上映中なわけですが、
わたくしも御多分に漏れず、「SHIROH」には
ガツ~ンと打ちのめされたクチであります。
帝劇で2回見て、映画も既に2回見ております。
近頃のブロードウェイミュージカルなど軽く凌駕する、
日本ミュージカル史上の金字塔的大傑作だと思っています。
「SHIROH」は、帝劇で見れなかった人も、
とにかく映画版だけでも見ておかないと、
これは演劇ファンとして相当にまずいでしょう。
入場料もお手ごろですから、だまされたと思って、
とにかく見に行って欲しいですな。
映画版を観た人は悉く「泣いた泣いた」と感想を言うんですね。
しかも最近では「どの場面で泣けるか自慢」みたいなことが
ちょっとばかり流行りつつあるようです。(以下少々ネタバレあり)
「戦闘が始まる際に、モニターに聖戦に立ち上がるアラブ民族が
映し出されると泣けちゃう」、・・・とかね。
そして、誰もが涙なしで聴けないと声高にいうのが、
リオ(大塚ちひろ)が空中で歌う圧巻のメロディなのですが、
わたくしなどは、彼女が歌う前のピアノの前奏を聴いただけで
もう早くもウルウル泣けてきます。
ピンパンピンパンピンパンピンパン・・・。
ああ、ちひろタン、おお(嗚咽)・・・。
あと、「SHIROH」のタイトルが現れるところがまた感動的。
十字架が空中に上昇し、ピカーっと光る荘厳な映像。
これにまた、じゅわっときちゃいます。
最近では、ほとんど冒頭近くのところですが、
高橋由美子が琵琶のバチ持つ手を高らかに振り上げるのを
見ただけで、早くもグッときてなりません。魂が打たれます。
もう、超カッコよすぎです。
山田寿庵=高橋由美子は、歌があまりにもうまく、
それに比例するように泣かせどころも多いのですけれど、
わたくしにとって、究極の「どこで泣けるか」は、
高橋由美子の乳が、
お蜜(秋山菜津子)によって、鷲掴みにされる場面でしょうか。
そんなところで泣くなんて、アホでしょか。
ご免なさい。御免状。吉原御免状。。。
それにしても、その秋山菜津子も、ほんとに見事です。
中川晃教シローさまの腕の中で、洗礼を受け、
「マリア・・・。もったいないよ」と呟き、
涙が頬をツラーっと伝わった途端に息絶える。
その場面は、ため息がでるよな絶品演技ですよね。
そして、こういう細かさもスクリーンでないと確認できない。
終盤近く、大塚ちひろが中川晃教シローさまを救済に来るあたりの
オルガン音だけが響き渡るところも、胸にしみるよなあ。
オルガンを聴くのが好きでオルガン音をおかずに飯が5杯くえるという
e+営業1部の芝野裕仁君などは、これを聞いたら卒倒するかも。
いやあもう、「SHIROH」のことはいくら語っても語りつくせません。
そして、あと10回くらいは映画館で見たいものです。
わたくしもすっかり上川隆也ファンになってるし。