僕の名前は「ツトム」っていうんだ | 今日のしっぽ村

今日のしっぽ村

東日本大震災を機に発足した犬猫保護団体。
2019年台風19号で被災した犬猫保護施設。

能登半島地震災害支援活動へのご支援をお願い申し上げます。


僕の名前は「ツトム」って言うんだ。

みんなボクのことをツトム君って呼んでるよ。

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ボクは仔犬の頃から飯舘村に住んでるんだ。

とっても自然が豊かなところで
ご主人と一緒に
とても幸せに暮らしていたんだ。


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でも6年前のある日、
突然村から人が消えたんだ。
ご主人も居なくなったんだ。

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時々ご主人や、ボランティアのお兄さん、お姉さんがご飯をくれたり、散歩に連れて行ってくれるけど、ボクは誰も居なくなった村で、独りぼっちでずーっとご主人が帰って来るのを待ったんだ。

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雪の日も、嵐の晩もボクは待ってたよ。 
前の家は雨漏りがひどかったんだ。

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ある日ずぶ濡れになっているボクを見て、しっぽ村のお兄さんお姉さんが、僕に大きな犬小屋を持ってきてくれたんだ。とても嬉しかったよ。
真っ白な家。ありがとう。



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年老いて、段差が登れなくなったボクのために、スロープも作ってくれたんだ。

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今年の3月まではボクの家の前を何台ものトラックが通りすぎていったんだ。

荷台には真っ黒い袋が何個も積まれていたよ。

ボクの庭にも作業員が大勢入ってきて、庭の土を掘ったり、落ち葉なんかを集めては黒い袋に入れていったよ。

なんでこんなことをしなきゃならないのかな?
でも、これが原因でボクが独りぼっちになったのかな〜って、そんな気がしたんだ。

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ボクの家の周りにもこの黒い袋の山積みがたくさんできたんだ。

そこは以前は豊かな水田が広がっていたところだよ。

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飯舘村の中には、立ち入りができなくなった地域もあるみたいなんだ。

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この春、ボクのご主人は古い家を壊して、
家を新築したんだ。

ピカピカの立派な家だよ。

4/1に避難指示解除になったら、飯舘村に戻って来るはずだったんだ。

やっと6年ぶりにご主人と暮らせるようになるはずだったんだ。

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でもね。ボク聞いたんだ。ご主人とボラさんが話しているのを。
詳しくは分からないけど、どうしてもやむにやまれぬ事情があって、まだしばらくは飯舘村には戻れないそうなんだ。

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その頃からかな。ボクの身体がおかしくなってきたのは。
急に痩せてきたんだ。あばら骨も見えてきたんだ。
大好きな散歩だって行きたいんだけど、身体が言うことをきかなくてね。

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後ろ足が変なんだ。
ナックリングって言われたけど、足先が丸まってうまく歩けないんだ。
以前はこうやってちゃんと脚を地面につけたんだけど、

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今はこうやって丸まっちゃうんだ。
大好きな散歩もできなくなっちゃったんだ。

もう自分ではどうしようもないんだ。

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うんちもね。気がつくと、真っ白な家の中でうんちをするようになちゃったんだ。

ボラのお兄さんお姉さんがいつも小屋の中を掃除してくれたよ。
ごめんね。汚しちゃって。
でも、もう自分じゃどうしようもないんだ。 

もう自分では。

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そんな時ボラさんが、東京から友人を連れて来たんだ。

Oさんと言って、老犬の介護看取りを 
ライフワークにしている人なんだって。

Oさんは1月にも老犬を看取ったばかりなんだって。

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ボクを引き取りたいって言って、わざわざ来てくれたよ。

ボクが育った飯舘村の環境を見たいって。


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Oさんはボクを見て直ぐに気に入ったみたい。

一緒に暮らそうって。


ご主人に書類を記入してもらったんだ。
きっとご主人も苦渋の選択だったと思うよ。 

これでボクは飯舘村を離れて、Oさんの子になったんだ。

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独りぼっちの日々は終わりなのかな

今日から身体を伸ばして眠れるのかな

雨に打たれなくていいのかな

冬の寒さに凍えなくていいのかな

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さようなら、飯舘村

ボクの故郷。

ボクはこの美しい風景を忘れないよ

青い空

美しい雲

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ボクを仔犬の時から育ててくれたご主人、

今まで本当にありがとう。

クルマの中ではボクはよい子だったよ

粗相もしなかったし。

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5時間のドライブのあと、Oさんの家に着いたんだ。

奥さんとともに優しく迎えてくれたよ。

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Oさんの家には今までのボクの先輩の骨壺が沢山並んでいたよ

みんな大切にされてたんだね。

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新しい家には先住犬のメイちゃんがいたんだ。

すぐに仲良しになったよ。

メイちゃんもガリガリの状態で、この家にもらわれて来たんだって

これからよろしくね。


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Oさんパパ、ママ。これからよろしくお願いします。

暖かいベッド、
美味しいごはん、
散歩のひととき、
ボクを呼ぶ声、
仲良しで楽しい家族、
穏やかな時間、、、

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Oさんパパ、ママの笑顔が
ボクに「そうだよ」と、優しく伝えてくれている。



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ボクは新しい家族との約束を交わしたよ
最期までずーっと一緒。
素敵な約束をボクにありがとう。

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ボクは幸せだよ。
ここに来て。とても幸せ。
目を閉じればいつでも飯舘村の美しい風景が浮かぶんだ。

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その時が来るまで。
最期までずーっと一緒にね。
約束だよ。
もう独りぼっちじゃないよね。


ツトム