パワーアンプ 『 Lo-D HMA-8500 』 の修理 | アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々
 先の“カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復” で 60Hz版D-3500の
ジャンク品をネットオークションで捜していたとき、“Lo-D”で検索した
結果の中に『 Lo-D HCA-8000 』というプリアンプ(コントロールアンプ)
の中古品を見つけて、落札しました。

その数日後、今度はパワーアンプ(メインアンプ)『 Lo-D HMA-8500 』の
中古品を見つけて、落札しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c01
着荷時のプリアンプ(コントロールアンプ)『Lo-D HCA-8000』です。
30年近く前('82年頃)に製造された製品の割には綺麗な外観です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c02
着荷時のパワーアンプ(メインアンプ)『Lo-D HMA-8500』です。
これも30年近く前の製品にしては外観が非常に綺麗です。

バックに写っているのは、1975年に新品で購入して長年愛用してきた
プリメインアンプ『Lo-D HA-610』です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c03
プリメインアンプ『HA-610』を、『HCA-8000』+『HMA-8500』に入れ替え
て、正常に動作する事を確認しました。

そのまま『HCA-8000』+『HMA-8500』を常用アンプとし、長年愛用して
きた『HA-610』は“ご隠居さんアンプ”として保管することにしました。

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それから3ヶ月ほど経って、いつものように『HCA-8000』の電源を入れ、
次に『HMA-8500』の電源を入れた時に異常が発生しました!

通常は、『HMA-8500』の前面パネル下部のインジケーター(緑色LED)が
パワーオンから7~8秒間“点滅”した後“点灯”に切り替わり、
ほぼ同時に内部から"カチッ"とリレーの作動音が聞こえてスピーカー
からFM放送の音声が聞こえてくるのですが、何故かインジケーターが
“点滅しっぱなし”で、リレーも作動せずスピーカーから音も出てきません。
パワーオン時のプロテクションが作動したまま解除されないようです。

何度か繰り返したけど、100%“NG”です!

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c04
とりあえず『HMA-8500』をドック入りさせて、“ご隠居さんアンプ”の
『HA-610』を現役に復帰させました。

ただし、『HA-610』はプリアンプ部とメインアンプ部を切り離してメイン
アンプ部のみを使用する事にし、プリアンプは『HCA-8000』を使い続ける
ことにしました。
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<『HMA-8500』の修理>
オークションで落札してから約3ヶ月間、まったく問題なく動作していた
ので今さら返品する訳にもいかず、また30年近く前に製造された製品なの
でメーカーに修理を依頼する事もできないので、ダメ元で“素人修理”を
試みる事にしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c05
商品に付いていた回路図からプロテクション動作を制御する“保護回路部”
を抜粋して作成した概略回路図です。
大部分は1個のIC(集積回路)“IC901”に収まっているようです。

IC内部の状態を見る事はできないので、ICの各ピンの電圧を測定して
故障箇所を推定するヒントを得る事にしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c06
本体のカバーを取り外しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c07
上面から撮影。 古い製品の割には内部も非常に綺麗です。

左端に電源トランスが2台並び、その右側とシャーシーの右端に縦に取り
付けられたヒートシンクには各々4個のパワーMOS-FETが取り付けられて
います。

その間に水平に取り付けられた“パワー基板”には8本のブロックコン
デンサを含む、パワーアンプを構成する多くの部品が実装されています。

手前のパネルの内側には、アンプの前段部や電源回路部などを実装した
“プリ基板”が取り付けられ、黒いシールドカバーで覆われています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c08
シャーシーを机上に立てた状態で、本体の底面側から撮影。
中央の緑色の大きな基板が“パワー基板”です。

“パワー基板”の手前左寄りの黄色矢印の箇所に“保護回路部”の
IC(集積回路)“IC901”が実装されています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c09
“IC901”にズームイン。 
裏面なのでICの本体は見えないけど、黄色楕円で囲んだ8本ピンの中央の
下に“IC901”と捺印されています。
右端の横にピン番号“1”、左端の上にピン番号“8”が捺印されています。

パワーオンして“IC901”の各ピンの電圧を測定してみました。
<測定結果>
① +24V
② 0V
③ 0V
④-0.7V
⑤-5.0V
⑥+80mV
⑦+8.5V
⑧ 0V
この中でピン⑧は、上記の概略回路図によると電源(+B4)に接続されており
ICの給電ピンと思われるので、『OV』という測定値は明らかに異常です。

給電ラインを遡って“パワー基板”の入口の給電コネクタで“+B4”の電圧
を測定したら『-3V』で、これも異常です。

この結果から、故障箇所は“+B4”電源を発生する“+B3/+B4 電源部”、
またはその出力を“パワー基板”に供給するための接続部にありそうな事
が推定されます。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c10
“+B3/+B4 電源部”と“保護回路部”の全体を含む概略回路図です。

回路図によると“+B4”は『12.5V』の定電圧電源のようだけど、実測値は
“パワー基板”のコネクタ上で『-3V』でした。

“プリ基板”を取り外して“+B3/+B4 電源部”を調べる事にしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c11
パネル前面のエスカッション(化粧パネル)を取り外し、メーターパネルを
外して手前に倒しました。
そして、パネル内側の“プリ基板”のシールドカバーを取り外しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c12
こんなに多くのビスが使われていました!

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c13
右側面から撮影。
パネル内側の緑色矢印の先に“プリ基板”が取り付けられています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c14
本体内側から撮影した“プリ基板”です。
中央右寄りの緑色円内に見えるのが、“+B3”、“+B4”などの電源を
“パワー基板”へ供給するためのケーブルとコネクタです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c15
“プリ基板”の取付ビスを外して“プリ基板”を少し引き上げてみました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c16
そして、緑色円内の給電コネクタのロックを外しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c17
ロックを外した給電コネクタにズームイン!

5芯のケーブルがコネクタに挿入されています。
基板の捺印文字によると、一番左端が“+B4”のようです。

その“+B4”の芯線だけが浮き上がっている様に見えます!
本来は、芯線はコネクタの接続端子の下に挿入され、コネクタの接続端子
の上にプラスチックのロックを押し込んだ時、その圧力で芯線と接続端子
を接触させる構造のはずです。

今ロックを外したときに引きずられて浮き上がったのかもしれないけど、
もし芯線が元々この位置に挿入されていたとしたら、それが原因で接触
不良を起こして“+B4”が給電されていなかった可能性があります。

オークションの出品者の説明文によると「このアンプの全てのヒューズ
抵抗は不燃抵抗に交換済み」とのことなので、製造後少なくとも1回は
内部に手が入っているので、その時作業ミスされた可能性があります。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c18
ケーブルをコネクタから引き抜きました。
“+B4”の芯線は根元が大きく曲がり、長さも他より短いようです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c19
ケーブルを引き抜いた後のコネクタです。
“+B4”端子だけが他の端子より下がっているように見えます。
端子の下に挿入すべき芯線が、上に挿入されていた可能性があります。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c20
“プリ基板”を本体から取り外しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c21
ケーブルの芯線をほぼ真っ直ぐに矯正しました。
芯線の長さも揃えたい所だけど、被覆も含めて揃えようとすると
手持ちの工具では難しそうなので、あきらめて現状のままとしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c22
矯正した芯線をコネクタの正しい位置に慎重に挿入し、ロックで
固定してから、“プリ基板”をパネルの内側に取り付けました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c23
この状態で電源を入れてみたけど、残念ながら現象は変わらず、
プロテクションは解除されませんでした。

“+B3/+B4 電源部”を更に詳しく調べる事にしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c24
“+B3/+B4 電源部”の概略回路図です。

再び“プリ基板”を取り外して、先ずトランジスタ“Q801”のB-E間、
B-C間の順方向と逆方向の抵抗値を測定し、次に“R801”と“R803”の
抵抗値を測定したけど、すべてOKでした。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c25
次に、動作中の回路の状態を観測するために“Q801”のコレクタ、ベース、
エミッタの各ピンにリード線をハンダ付けして組み込んで、各リード線の
先で電圧を測定する事にしました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c26
先ずグランド(G13)に黒色のリード線をハンダ付けし、トランジスタ“Q801”
のエミッタに青色、コレクタに白色、そしてベースには黄色のリード線を
接続しました。(写真は、その後黄色のリード線を取り外した後の状態)

念のため、“プリ基板”を組み込む前に各リード線の先端と接続先の各部品
の間の導通をテスターで確認しました。
その結果、リード線の接続はOKだったけど“Q801”のベースと“R803”、
“C809”、“ZD801”の間の導通がない事が判りました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c27
トランジスタ“Q801”にズームイン。

“Q801”のベースのリード線を取り外して、ベースと“R803”、“ZD801”、
“C809”の間の導通をチェックした結果、赤丸の箇所、つまりベースと
“R803”の間の配線パターンが断線している事が判りました。

緑色のソルダーレジストで覆われているので断線箇所の配線パターンの
状態は判り難いけど、テスターで全く導通がありません。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c28
回路図上の×の箇所が断線している事になります。
この状態では“Q801”のベースがフローティング状態なので、コレクタ-
エミッタ間は遮断状態となり、エミッタに電圧が出力されません。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c29
断線箇所を錫(すず)メッキ線で接続しようと思い、古いハンダをハンダゴテ
で溶かして除去しようとしているうちに、溶けたハンダによってベースと
“R803”が繋がってしまいました。 いわゆる“ハンダブリッジ”です。

“ハンダブリッジ”というのは一般には繋がるべきでない部品間が意図に
反して短絡してしまうものだけど、この場合は繋がるべきところが繋がった
のだから問題なし!?

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c30
敢えてブリッジを除去しないで逆にハンダを追加して、更に太くて強固な
ブリッジにしました。

ハンダは銅やアルミより導電率が低いけど、大電流が流れる所でもないし
高周波回路でもないので、おそらく大丈夫でしょう。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c31
修理した“プリ基板”を組み込みました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c32
電源を入れたら、インジケータが7~8秒間“点滅”した後“点灯”状態に
変わりました。
写真では判り難いけど、赤矢印の先の緑色LEDが“点灯”しています。

修理は“成功”です!!

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c33
パネル内側の“プリ基板”のシールドカバーを取り付けて、メーターパネル
とその前面のエスカッションを取り付けました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c34
本体のカバーを取り付けました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c35
『HMA-8500』修理中の代役を務めた『HA-610』です。 

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c36
修理の終わった『HMA-8500』を組み込んで、電源を入れました。
インジケータが7~8秒間“点滅”した後“点灯”状態に変わりました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c37
FM/AMチューナーからの音声が正常に出力される事を確認しました。

これで修理は完了です。

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《参考リンク》
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>コントロールアンプ>HCA-8000
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>ステレオパワーアンプ>HMA-8500
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>プリメインアンプ>HA-610

-完-