Part5 から取り組んでいた“再生中にテープが急減速する”という不具合は、
Part6 でモーター電源の進相用コンデンサを新品に交換した事によって、
完全に直りました。
しかし、『テストテープ』の再生において“高音域がクリアに出ない”という
新たな問題が顕在化しました。
このデッキを購入してから1年余り経った頃(1976年末?)、今回と同じように
高音域が出なくなって、購入した電器店経由でメーカー修理に出したところ、
「ヘッドの高さと傾きを調整しました」というメモが貼り付けられて修理から
戻ってきた事を思い出しました。
普通の使い方で1年程度でヘッドの高さや傾きが変化してしまうのは欠陥では
ないか?と思ったけど、調整用のビスとナットをロックする塗料のような物が、
購入時の緑色の薄い物から、修理後は白い漆喰(しっくい)状の物に変わって
いたので、調整と同時に多少の補強対策を施してくれたようでした。
その後は、念のためヘッドになるべく衝撃を与えないように、停止するときは
必ずPLAYボタンの上に指を添えてダンパー効果を与えたり、使用後は必ずアジ
マス調整用ビスと、そのロック用の白い塗料?の状態をチェックしたりして、
慎重に扱うように心掛けた効果もあってか、その後問題は再発しませんでした。
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2つの黄色の円内のナットがヘッドの高さを調整するナットで、赤色の円内の
ビスがアジマス(ヘッドの傾き)を調整するビスのようです。
高さ調整用ナットはロック用の白い塗料?が元の状態を維持しているけど、
アジマス調整用ビスのロック用の白い塗料はビス側とベース側の境目に亀裂
が入って分断されているようです。
今回の修復作業中の試聴で何度も再生と停止を繰り返したので、その衝撃の
繰り返しによって徐々にビスが緩んでしまった可能性があります。
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時計ドライバーセットの+ドライバーでビスを回してアジマスを調整します。
とは言っても調整用の専門的な『テストテープ』を持っている訳ではないので、
いつもの『しーちゃんテストテープ』を使用します。
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ビスの回転量を確認するために“ルーペ付きアームライト”を使用します。
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いつもの『テストテープ』のA面をセット。
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カバーを開けたままPLAYボタンを押して再生開始。
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ヘッドホーンでモニターしながらビスを回してアジマスを調整。
本来の位置より緩んでいると思われるので、右に回転して締めていきます。
ビスの頭に残った白い塗料を目印に回転量を把握して、回し過ぎないように
注意します。
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“ルーペ付きアームライト”の倍率『×1.75』は少し不満なので、
倍率『×3/×4/×5』のルーペを併用しました。
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“4分の1回転”ほど締め込んだ所で、あべ静江さんの透き通った歌声が
クリアに出るようになりました。
やはりアジマスの変化が原因だったようです。
念のため、アンプに繋いでスピーカーから音を出してみます。
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スピーカーから音を出すだけではなく、少し厳しいテストになるけど、
D-3500による『テストテープ』の再生出力と、その『テストテープ』の
ダンピング元のLPレコードを聴き比べることにしました。
Part5 に書いたように、この『テストテープ』は約35年前に、このデッキと
レコードプレーヤー『DENON DP-1700』を使用して、あべ静江のファースト
アルバム『みずいろの手紙/コーヒーショップで』をラジカセ用にダビング
した物です。
先日復活させたレコードプレーヤー『DENON DP-1700』は今も健在だけど、
その後“ご隠居さん状態”になっているので、今回は『Lo-D HT-500 MKⅡ』
を使用しました。 ネットオークションで入手した中古品です。
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D-3500をアンプに接続して電源を入れました。
なお、写真の2段目はDATデッキ『Lo-D DAT-8000』、一番下は先日修理した
カセットデッキ『Lo-D D-800』で、いずれもネット・オークションで入手した
中古品です。
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『テストテープ』のA面をD-3500にセットしました。
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LPレコード『みずいろの手紙/コーヒーショップで』のB面を
レコードプレーヤー『Lo-D HT-500 MKⅡ』にセットしました。
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先にカセットの再生をスタートさせてイントロの終わりでポーズ状態にして、
次にレコードに針を降ろしてイントロが終わったところでカセットのポーズを
解除してカセットとレコードをほぼ同期させて再生しながら、アンプのファン
クションスイッチをカセットとレコードに交互に切り換えて聴き比べました。
あべ静江さんの歌声はカセットとレコードでほとんど同じように出ているけど、
伴奏のシンバルの音がレコード側では明瞭に聞こえているのに対してカセット
側では全く出ていない事が判りました。
このテストで気づいたことですが、1曲目の『コーヒーショップで』と7曲目
(LPのA面1曲目)の『みずいろの手紙』では、曲全体を通してシンバルの音が
連続的に出続けています。 "通奏低音"ならぬ"通奏シンバル"?
現状のD-3500では、このシンバルの音が全く再生できていません!
アジマスの調整が不十分だったようです。
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アンプとの接続を外して再び単独で、ヘッドホーンでモニターしながら
シンバルの音が最もクリアに再生できるようにアジマスを調整しました。
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アジマス調整ビスを“1回と4分の3回転”ほど締め込んだ所で、シンバルの
音が最もクリアに再生できるようになりました。
先に“4分の1回転”締め込んであるので、合計“2回転”締め込んだことに
なります。
この状態で、『テストテープ』以外のテープも再生してみます。
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このテープは1975年11月28日に、FM放送から録音したものです。
このデッキを購入したのが1975年11月20日なので、約1週間後に録音したもの。
当時のFM雑誌『FMレコパル』の番組表の切抜きが挟み込まれています。
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ケースから取り出したカセットのA面です。
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Dolby On
ドボルザーク/交響曲第9番ホ短調「新世界から」
PM 8:05 75.11.28 NHK-FM 横浜 FMコンサート
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と鉛筆書きの汚い文字で記されています。
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正常に再生されています。
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クロムテープが自動認識されて『CrO2(70μs)』のインジケーターが
点灯しています。
(自動認識と言っても、カセットハーフの識別穴を検出しているだけですが)
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同じカセットのB面です。
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Dolby On
〔シンセサイザー音楽特集/富田勲〕
75.11.28 PM 7:15 NHK-FM 横浜 サウンド・オブ・ポップス
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と記されています。A面と同じ日にA面より先に録音されています!?
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B面も問題なく正常に再生できました。
試聴した結果、A面、B面とも高音域が若干劣化している感じがするけど、
35年前に録音したものとは思えないほど良好な音で再生されました。
この際、ヘッド周りをクリーニングしておきます。
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オーディオテクニカ製『ヘッド&ピンチローラークリニカ AT6037』です。
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そして『ふんわりだから 気持ちいい 大阪でつくっためんぼう』です。
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先ず、赤い液『ヘッドクリーニング リキッド』を綿棒に浸けて、ヘッドと、
キャプスタン、テープガイドなどのテープ走行系の金属部品をクリーニング
しました。
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次に、緑の液『ピンチローラークリーニング リキッド』を綿棒に浸けて、
ピンチローラーをクリーニングしました。
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乾いた綿棒で拭き取って、クリーニングは終わりです。
ふたたびアンプに繋いでレコードと聴き比べます。
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今度は『DENON DP-1700』を“ご隠居さん状態”から現役に復帰させました。
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D-3500に『テストテープ』のB面をセットし、DP-1700に『みずいろの手紙/
コーヒーショップで』のLPレコードA面をセットして、同期させて再生しな
がらアンプのファンクションスイッチを切り換えて、聴き比べました。
『みずいろの手紙』の伴奏のシンバル音は、D-3500でもDP-1700に近いレベルで
再生できるようになりました。
とは言っても、この『テストテープ』は“ど・ノーマルテープ”を使用して
いるので、やはり高音域の特性はLPレコードより相当劣ります。
<D-3500の周波数特性>
クロムテープ :20~20,000Hz
ノーマルテープ:20~15,000Hz
クロムテープを使用すれば D-3500本来の性能が発揮され、LPレコードの性能に
より近づく事ができると思います。
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次は市販のミュージックテープを再生してみます。
“あべ静江+高木麻早+南こうせつとかぐや姫”という珍しい組み合わせの
ミュージックテープです。 ドルビーは"OFF"。1976年頃購入したもの。
(パッケージの画像は著作権と肖像権に配慮して、アップを控えます)
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問題なく良好な音質で再生できました。
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これも市販テープだけど「ミュージックテープ」とは言い難い『ストレス解消
カセットテープ:北アルプスからのメッセージ』です。
1988年頃、会社の帰りに立ち寄った本屋でたまたま見つけて買ったもの。
北アルプスの渓流のせせらぎ、登山者の足音、ウグイスなどの小鳥のさえずり、
虫の音、雷鳴と夕立の雨音などの自然音と、シンセサイザーによるオリジナル
曲の演奏(6曲)が収録されています。ドルビーは"ON"です。
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広い帯域とダイナミックレンジが必要とされるコンテンツだけど、
非常に良好に再生できました。
これで、試聴は完了です。
<まとめ>
当初は「ゴムベルトを交換して、60Hz用のモータープーリーを入手して交換
するだけで修復できるだろう」と安易に考えて着手したのですが、モーター
プーリーの入手に予想以上の期間を要し、また進相用コンデンサの劣化故障
という予期しない不具合の調査に手間取って、ずいぶん長期間の修復作業に
なってしまいました。
しかし、何とか実用的に使えるレベルに修復できたので満足しています。
これで、30年以上前にFMエアチェックなどで録り貯めたカセットテープを
当時に近いレベルで再生する事ができます。
また、試聴に使った『テストテープ』がアジマス調整にも有用であることが
判ったので、今後このデッキや他のデッキのメンテナンスに役立ちそうです。
酷使したのでテープの一部は相当傷んでしまったけど、まだ当分使えそうです。
以上で D-3500の修復作業はひとまず終了します。
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<参考サイトへのリンク>
アジマス - Wikipedia
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>プレーヤー>カセットデッキ>D-3500
カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part6
レコードプレーヤー 『 DENON DP-1700 』 の復活
あべ静江オフィシャルブログ「みずいろの手紙」
あべ静江オフィシャルサイト
-完-