Part5では、再生中にテープ速度が急減速する不具合の対策として
テープ走行系のプーリーやアイドラーを全て清掃し、必要な箇所には
潤滑剤を注脂したけど、ほとんど効果が得られませんでした。
唯一、モータープーリーとキャプスタンプーリー間の平ゴムベルトを
交換後、正常動作の継続時間が5~10分間程度から約30分間に延びた
けど、その後ふたたび5分程度に戻ってしまいました。
再生動作を約5分間継続すると突然減速し、その後電源を落として
約5分間休ませた後、ふたたび電源を入れて再生動作を開始させると
約5分間正常に動作して減速、また5分間休ませて正常動作、・・・・
の繰り返し。
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相変わらずフルヌード状態でテストしています。
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カセットの奥、テープカウンターの手前の丸いのがモーターの背面です。
減速の原因は、やはりモーターの劣化か?
2号機からモーターを移植してみようかなと思いながら、ふと気がついた
のは、このモーターは交流モーターなので進相用のコンデンサが使われて
いるはずで、そのコンデンサの方がモーターより劣化しやすいのではない
か?という事でした。
70年代前半頃に製造された扇風機のコンデンサが火を噴いて火災が発生
したニュースを見たことがあるけど、このデッキも70年代中頃に製造され
た製品なので、同じような種類のコンデンサが同じように使われている
可能性があり、動作不良だけでなく安全性の方も気になるところです。
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モーターの左奥、シャーシーの縁に並行して取り付けられている大きな
円筒形のコンデンサが進相用のコンデンサかと思われます。
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コンデンサにズームイン!
“NCC”は、コンデンサメーカー『松尾電機(株)』の商標。
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コンデンサの仕様を調べるためにカバーをめくり上げました。
"MPT":メタライズド・ペーパー・?。いわゆる『MPコンデンサ』。
絶縁オイルを含ませた紙の両面に金属を蒸着して電極を形成して、
それを円筒形に巻いて両側からリード線を出した構造らしい。
経年劣化で絶縁不良を起こす可能性が高いけど、蒸着金属の電極は
薄いので、短絡した場合はその部分が昇華して絶縁性を回復すると
いう自己回復作用があるので安全が期待できるとか?
"H":製造年月を示す記号でしょうか?
"1μF":静電容量は1マイクロ・ファラッド。
"+15%、-0%":静電容量許容差。 一般には"±5%"とか"±10%"という
ように+と-は同じ数値だけど、経年劣化による静電容量の
減少等を憂慮した装置メーカーの要求に対して、部品メーカ
ーが出荷品の選別で対応した結果でしょうか??
交換用部品の調達が難しい!
"250VAC":定格電圧(耐圧)は『交流250V』。
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ところで、このコンデンサ周辺の薄茶色のパラフィン状の物質は何なん
でしょうか?
このコンデンサから漏出した液が固まった物なのか?それともコンデンサ
を支持する目的で製造時に流し込まれた"詰め物"でしょうか?
前者だとしたら、このコンデンサは完全に"アウト"だと思われます!
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モーターからの配線がこのコンデンサに繋がっていることを確認しました。
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モーターから黒、赤、黄色の3本の配線が端子板の3端子に接続され、
両端の端子間にコンデンサが接続されています。
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端子板の左側2端子から、黒、赤2本の配線が、VUメーターの裏を経由して、
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シャーシーの左端に縦に実装された回路基板を経由して、左VUメーターの
下に実装されたトランスに接続されています。
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トランス周りの視界?が悪くて、トランスの引き出し線がほとんど目視
できないけど、テスターで部品間の接続関係を探りながら回路図を作成
してみました。
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電源プラグからモーターまでの推定概略回路図です。
モーターの赤と黒のリード線間(=トランス出力)の電圧を測定したら、
約120Vでした。 思ったより高い電圧です。
Part3 に書いたように、このデッキは『交流4極ヒステリシス・シンクロ
ナスモーター』を使用しています。
このタイプのモーターでは、90°間隔で配置された4極の固定子コイルの
うちの向かい合った2極のコイルに対して、残りの向かい合った2極より
90°位相の進んだ交流電流を流して回転磁界を発生させる必要があり、
この90°位相の進んだ電流を得るために進相用コンデンサを接続している
ものと思われます。
したがって、この進相用コンデンサが故障すればモーターは正常に回転
しなくなる可能性があります。
進相用コンデンサを交換してみることにしました。
一応、現用品のメーカーである『松尾電機(株)』のホームページを覗いて
みたけど、現用品と同じ製品は既に無く、代替に使えそうな製品もなかっ
たので他のメーカーを捜した結果、『(株)指月電機』の『金属化ポリエス
テルフィルムコンデンサ』の"Type TME"シリーズの中に適当な仕様の物が
見つかったので、それを使用する事にしました。
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<Part Code:UD630105K>
・静電容量:1μF
・容量許容差: ±10% (現用品は"+15%、-0%"なので-側が微妙?)
・定格電圧:直流630V
(交流の定格が規定されていないけど、250Vrms程度と想定。
交流での使用を禁止しているコンデンサもあるので要注意です)
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指月電機の『金属化ポリエステルフィルムコンデンサ』は、一般に『メタ
ライズド・ポリエステルフィルム・コンデンサ』と呼ばれている物で、
ポリエステルフィルムの両面に金属を蒸着して電極を形成して、それを
円筒形などの形に巻いて両側からリード線を出した構造、つまり『メタラ
イズド・ペーパー・コンデンサ』の"絶縁オイルを含ませた紙"がポリエス
テルフィルムに置き換わった構造のコンデンサのようです。
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秋葉原の『(株)千石電商』のネット通販サイト『せんごくネット通販』
から3個購入しました。
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コンデンサを交換する前に、現状のトランス出力(赤-黒リード線間)と、
コンデンサ端子間(黄-黒リード線間)の電圧を測定してみました。
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(赤-黒間) (黄-黒間)
P-On直後 120V 195V
P-On5分後 120V 95V
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トランスの出力電圧が約120Vで一定であるのに対して、コンデンサ端子間
の電圧はパワーオン直後の約195Vから約4分後まで徐々に低下して、
約5分後には急速に95Vまで低下しました!
テープが急減速する時間と一致しています。
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コンデンサを取り外すためにデッキの背面を手前に向けて、コンデンサの
カバーを開いてみました。
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コンデンサのリードが端子にしっかり巻き付けられていたので、ニッパー
でリードを切断してコンデンサを取り外しました。
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凄いことになってます!
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取り外したコンデンサをテスターでチェックしてみます。
"×10kΩ"レンジでコンデンサを接続すると、一瞬"300kΩ"辺りまで振れて
すぐ"5MΩ"辺りまで戻りました。
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約1分後です。
この程度の容量のコンデンサでは、正常であれば既に"∞(無限大)"に
戻っているはずだけど、まだ"10MΩ"辺りを指しています。
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約2分後です。
まだ"∞(無限大)"に戻らず、"20MΩ"辺りを指しています。
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新しい『メタライズド・ポリエステルフィルム・コンデンサ』です。
接続した直後に一瞬"500kΩ"辺りまで振れて、2~3秒で"∞(無限大)"に
戻りました。
これが正常な挙動です。
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新しいコンデンサを取り付ける前に、カバーを清掃しました。
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コンデンサのリードを適当な長さに切断して、モーターのリード線と
同じ色の熱収縮チューブ(通称:ヒシチューブ)を被せました。
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ハンダ付け完了。
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後ろ姿がスリムです。
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デッキの向きを戻しました。
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この状態で、トランス出力(赤-黒リード線間)の電圧と、コンデンサ端子
間(黄-黒リード線間)の電圧を測定します。
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テスターを接続して、電源を入れました。
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ヘッドホーンでモニターしながら『テストテープ』のA面先頭から再生を
開始しました。
1曲目の『コーヒーショップで』が正常に再生されています。
問題の約5分のポイントを無事に通過して、最後の曲まで正常に再生され、
テープエンドでオート・ストップしました。
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素早くカセットを裏返して、B面先頭から再生を開始しました。
1曲目の『みずいろの手紙』が正常に再生されています。
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B面の約5分のポイントも無事に通過しました。
A面先頭から通算約40分間、正常に再生されています。
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B面の最後の曲まで正常に再生されて、テープエンドでオート・ストップ
しました。
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カセットを外して、電源を落としました。
この間の、トランス出力(赤-黒リード線間)の電圧と、コンデンサ端子間
(黄-黒リード線間)の電圧の測定結果は次の通りでした。
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(赤-黒間) (黄-黒間)
P-On直後 122V 207V ←(スタート)
5分後 123V 205V
10分後 126V 207V
20分後 126V 206V
30分後 124V 202V
32分後 124V 203V ←(A面エンド)
40分後 125V 203V
50分後 127V 205V
60分後 128V 206V
64分後 125V 202V ←(B面エンド)
P-Off 0V 0V
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トランスの出力電圧は「122V~128V」、そしてコンデンサ端子間の電圧は
「202V~207V」の範囲内の僅かな変動で、急激な電圧低下は発生しません
でした。
以上の通り、パワーオン後の一定時間経過後に再生中のテープが急減速
する不具合は、モーターの進相用コンデンサの故障が原因だったようです。
製造後35年以上も経てば、部品が劣化するのはやむを得ない事です。
機能や性能が低下するだけでなく、破裂、発煙、発火などによって火災に
至る事もあり得るので、要注意です。
使わないときは、スイッチを切るだけでなく電源プラグをコンセントから
抜いておくのが無難かも知れません。
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元通りにビニルテープでコンデンサのカバーの隙間を塞いでおきます。
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束線バンドも元通りに戻しました。
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キャビネットに収めて完成です。
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『テストテープ』で最終確認します。
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A面、B面を通して全曲正常に再生できました。
しかし、全曲を通して高音が伸びきらず、あべ静江さんの透き通った歌声
が少し籠もって聞こえます。
再生回路の部品も劣化しているのか? それともテープ走行系の問題か?
次はその辺を追求してみます。
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この続きは“Part7”(近日公開予定)へ・・・
<参考サイトへのリンク>
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>プレーヤー>カセットデッキ>D-3500
カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part5