カセットデッキ 『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part3 | アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々
 “カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part2” の続きです。

“Part2” の最後に「・・・ここで大問題が!!」と書いたのは、
3年前の引っ越しで電源周波数が50Hz(ヘルツ)から60Hzに変わった
事によって生じる問題のことです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c01
このデッキのモーターは『交流4極ヒステリシス・シンクロナス
モーター』というタイプのモーターで、その名の通り電源周波数に
シンクロ(同期)して回転し、その回転速度は電源周波数によって
決まります。
電灯線の周波数は電力会社によって厳密に管理されているので、
このタイプのモーターの採用は当時においては最も正確で安定
した回転速度が得られる方法だったと思われます。

問題は、電灯線の周波数が東日本の50Hzに対して西日本では60Hz
なので、このモーターの回転速度が25回転/秒から30回転/秒に
変わる事です。
引っ越し前から判っていた事だけど、「まあ、何とかなるだろう」
と考えていたのが「何ともならないかも」という気がしてきました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c02
このデッキの取扱説明書には次のように書かれています。
「本機は、お買い上げいただいた地域の電源周波数に合わせて
ありますので、電源周波数の異なる地域でご使用になる場合には、
モータープーリーを変える必要があります。その場合はご転居先
の最寄りの営業所、または特約店、お客様相談センターにご相談
ください」

しかし、ここには35年間!という大きな時間の壁があります。
取扱説明書の最後のページを見ると、「テープデッキの補修用
性能部品の最低保有期限は6年です」と書かれています。

“最高保有期限”が書かれていない事を拠り所に、メーカーの
営業所(サービスセンター?)に電話で問い合わせてみました。

部品の在庫管理の端末から製品型名『 D-3500 』と入力して
もらったら、驚いた事に一応データは存在するとの事!
しかし、データの中身は「在庫は“Eリング”1個のみ」。
やはりダメでした。

対策を検討するために、現用のモータープーリーを調べる事に
しました。

先ずルーペとカメラを駆使してプーリーの外し方を調べました。
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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c03
ファンとプーリーの間に、モーターのシャフトに向けて黒い金属が
ねじ込まれていて、その頭に六角の穴が見えます。
ちょっとレアな“六角穴付きボルト”です。 しかも極小サイズ!

私が昔乗っていた名車(迷車?)『SUZUKI GR650』 にはこのタイプの
ボルトが多用されていて、その整備のために購入した六角レンチ
セットをまだ保管していた事を思い出して、引越しの段ボールから
引っ張り出してきたけど、こんな極小サイズは有りませんでした。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c04
急遽ネットで極小サイズの六角レンチセットを探して購入。
1.5mmの六角レンチでボルトを緩めてプーリーを外しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c05
プーリーにはゴムベルトの残骸が残り、ファンの羽根の裏には
埃がたまっています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c06
プーリーの直径は『 20mm 』です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c07
プーリーを取り外したモーターと大径プーリー兼フライホイールです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c08
モーターの周辺は埃まみれだったけど、モーター自体は綺麗です。
シャフトに光沢があるし、固定子巻線の被覆も輝いています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c09
プーリー兼フライホイールの直径は『 100mm 』です。
この中心のシャフトがシャーシーを貫通してデッキ上面側に
伸びていて、テープを駆動するキャプスタンになっています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c10
デッキ上面側のカセットトレイ周辺です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c11
ヘッド周辺にズームイン。
左から、テープシフター、消去ヘッド、録再ヘッド、ピンチローラー、
そして、その上がキャプスタンです。
録音/再生時には、ピンチローラーがキャブスタンに押し付けられ、
その間に挟まれたテープがキャプスタンの回転によって駆動される
ので、テープ速度はキャプスタンの外周と回転速度で決まります。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c12
キャプスタンの直径も測ってみました。
『 3.1mm 』?
狭い所にノギスを斜めに突っ込んでいるので誤差がありそうです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-c13
本体をキャビネットから取り出して測り直しました。
『 3.0mm 』
このノギスの分解能は0.05mmなので小数点以下2桁目は微妙です。

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測定結果をまとめると:
・モータープーリーの直径:20mm
・大径プーリー兼フライホイールの直径:100mm
・キャプスタンの直径:3.0mm

50Hzの場合のテープ速度を計算してみます。
(1)モータープーリーの回転速度=25回転/秒
(2)大径プーリーの回転速度=25回転/秒×(20mm÷100mm)=5回転/秒
  (=キャプスタンの回転速度)
(3)テープ速度=キャプスタンの外周×回転速度
       =3.0mm(直径)×3.14(円周率)×5回転/秒
       =47.1mm/秒
テープ速度の規格値は『 47.5mm/秒 』なので、ほぼ合っている?

キャプスタンの直径を『 3.025mm 』とすると:
 テープ速度=3.025×3.14×5≒47.49mm/秒
ほぼ規格値と同じになります。
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早い話が、60Hz電源でのモーターの回転速度は50Hz時より20%
速くなるので、テープ速度を50Hz時と同じにするにはモーター
プーリーの直径を50Hz時の『 1/1.2 』にする必要があります。
したがって、60Hz用のモータープーリーの直径は、
20mm÷1.2=16.666・・・mm となります。

この結果も考慮にして対策案をまとめると、
(案1)東日本へ引っ越す。
(案2)50Hzの電源装置を入手する。
   DC-ACインバーターやUPSで対応可能か?
(案3)どこかで現用(50Hz版)のプーリーを削ってもらう。
(案4)どこかで60Hz版(直径16.67mm)のプーリーを作ってもらう。
(案5)同型カセットデッキ(60Hz版)のジャンク品をリサイクル
   ショップやネットオークションで捜す。
(案6)このデッキを断捨離する。

とりあえず、一番穏やかで巻戻し動作不良の解決も期待できる
(案5)を採用する事にしました。

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この続きは“Part4” へ・・・

<参考リンク>
オーディオの足跡>Lo-D/HITACHI>プレーヤー>カセットデッキ>D-3500
オーディオの足跡(TOP)
スズキ・GR650 - ウィキペディア
『レアな鈴菌 GR650』

カセットデッキ 『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part1
カセットデッキ 『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part2