(あらすじ)※Amazonより
大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中にはなしかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗はー「違う羽の鳥」
調理師の職を失った恭一は家に籠もりがちで、働く妻の態度も心なしか冷たい。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人からもらったという。隼からそれを奪い、たばこを買うのに使ってしまった恭一は、翌日得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れるがー「特別縁故者」
先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。
稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話。
※ちょっとネタバレしています。
◆◇
第171回直木賞受賞作&あもる一人直木賞受賞作である。
あもる一人直木賞(第171回)選考会の様子はこちら・・
変な作品読まされるんじゃないか、と不安にさせる作家さんがいる一方で、絶対的な安心感のある作家さんもいる。その一人が一穂さんである。
前回の候補作は長編だったが(「光の中にいてね」)、一穂さんはやっぱり長編より短編の方でよりその本領を発揮するなあと思った。
かなりヘビーな内容も、文字数の限られた短編できっちりおさめてくる技術はとにかく見事の一言。短編に収めるために内容や表現を大胆に削っているのにも関わらず、その仕上がりは自然で、物足りないわけでもなく、むしろその読後感には重みすらある。
すごく軽いのにちゃんと重い。
ただ賞レースにおいて考えると、短編集は全ての作品の完成度をある程度は揃えないといけないというところに難しさがあると思っていて、最終的に私の中で直木賞に挙げたはいいが実際はどうなるか!?とその点を多少危惧していた。
というのも
ウー⚪︎ーイーツにまつわる犯罪を書いた「ロマンス☆」
集団自⚪︎を描いた「さざなみドライブ」
この2作がなあ…
どうだろうかなあ…
この2作がもう少し頑張っていれば、絶対一穂さんを激推し(魔のあもる推し)するんだけどなあ…
と思っていたからである。
いやしかし待てよ。3歩歩くと忘れる鳥頭あもちゃん、再読したら「あれ?やっぱりイイじゃん!」ってことになるかも。
と正式に候補作に挙げられた際に期待して再読したところ、やっぱり感想は変わらなかったのであった笑
「ロマンス☆」の書き振りがイマイチな内容に対してなかなかのハイテンション(タイトルについてる「☆」からもわかる笑)で、こちらがどういうテンションで読めばいいのか最後までムムムだったし、「さざなみドライブ」は冲方丁氏の「十二人の死にたい子どもたち」がちょっとチラついちゃうのが気になった。
とはいえ、この2作品を除けば本当によく練られた作品が揃ったと思う。
しかもその練られた感を全く見せない自然さがこれまたすごい。
再読したことで残りの作品の凄さを再認識できたのは良かった。最初は気づかなかった絶妙なテクニックにも気づけたし。
この作品は「犯罪小説集」と銘打った短編集であるが、まず最初の作品(「違う羽の鳥」)がSFチックというかスピリチュアルというか、不思議系の作品でその強気な姿勢に好感度爆上がり。この最初の作品で読者の好みが分かれると思うが私は好きだった。曖昧な結末にもちゃんと納得できたし。
「憐光」はれっきとした(?)重い犯罪なのにその恐ろしいほどの軽さに、きっと読者は恐怖する。そしてなぜか優しく温かい気持ちになってしまう不思議な作品。すでに亡くなっているのにその子の幸せを祈らずにはいられない。
「特別縁故者」も「祝福の歌」も素晴らしい作品だった。ノリは軽いのにちゃんと重い。軽すぎるとせっかくの重いテーマが台無しになってしまうが、その絶妙なギリギリのラインを踏み越えないいい感じの匙加減が、一穂さんの個性でありセンスだと思う。この絶妙なラインを是非ともその舌で味わってもらいたい。くぅ〜。
あもる一人直木賞選考会の記事の中でも書いているが、もしかしたら受賞作ナシになるかもしれない、とも思っていた。
一穂さんは嫌いじゃないし、この作品も受賞に値しないとは言わないが、ちょっとパンチがない、と感じたから。そして小粒であるのは否めないから。
ただこういう優しい小さな作品が受賞する回があってもいいかもなあ、と受賞してよかった気がする。
未成年の妊娠やウクライナ情勢にコロナ禍…などなど大きさはさまざまであるが世界や日本の社会問題をこの小さな短編集にギッチリ盛り込んでいるにも関わらず、ちゃんとお茶碗サイズに収まっているのがすごい。
しかもその1つ1つの事件がちゃんと一穂さんの味付けで仕上げられている。
簡単に書いたけれどこれってとても難しいことだと思う。自分の色を出せるってすごいこと。
派手な料理は1つもないけれど、どの料理も家庭的でいつ食べても胃に優しい味。
ふふって笑えたり、ジーンとしたり、小さく心が動かされる。
ちょっと血迷ったムムムな2作品はきっと温かい家庭料理コースに味変を、と刺激強めのスパイス料理を挟んできたに違いない!…ということにしておこう。
「コロナ禍」という異常事態に作家さんがどう向き合ったか、というのは読者としても大変興味深いところであり、今までなかったマスク姿だったり、ソーシャルディスタンスだったりをどう日常的な当たり前なものとして描くのか、今までにない難しい描写であったと思う。
一穂さんはそのコロナ禍を上手にちゃんと扱えた作家さんだと思う。
新コロ初期、作家さんは作品を書くのも大変だったろうなあ。当たり前のことが当たり前じゃなくなるっていう。
今だから言える、そう言う事もあったよね〜ってさ。
当時は大変だったよなあ。
ワクチンだって打たないといけないし、そのワクチンの予約取るのも至難の業でさ〜。
全国で感染者が出る中で岡山県は感染者数0で頑張ってたのに(頑張ってたから?)、感染者が出たらエライ大事件みたいになってたしなあ。
(ちなみに「感染者0大会」決勝戦は岩手と鳥取だったよね〜。岡山は確か準決勝だか準々決勝敗退だった気がします笑)
その他アレコレアレコレアレコレ…。
まだ4年前のことなのになんだか懐かしい。でも二度とゴメンですな。