(あらすじ)※Amazonより
「あんた、ゴミサトシって知ってるか?」
元刑事の河辺のもとに、ある日かかってきた電話。その瞬間、封印していた記憶があふれ出す。真っ白な雪と、死体――。あの日、本当は何があったのか?
友が遺した暗号に導かれ、40年前の事件を洗いはじめた河辺とチンピラの茂田はやがて、隠されてきた真実へとたどり着く。
『スワン』で日本推理作家協会賞、吉川英治文学新人賞を受賞。
圧倒的実力を誇る著者が、迸る想いで書き上げた大人のための大河ミステリー。
◆◇
ほぼ半年前のイベントでだいぶアップが遅くなったが、次の選考会も来月に迫っていることに気づき(はい、ノロマ)、選考会の引用多めでアップしていきます。
候補作全てアップした後、本物の選考委員たちの選評(オール讀物掲載)と比較して、いつもの「たたかい終えて」・・で締める予定。
第165回直木賞候補作である。2度目の候補であった。
『あもる一人直木賞(第165回)選考会」』の様子はこちら↓
初めての候補作(第162回直木賞候補作)の1つに挙げられた『スワン』と比べてか〜な〜り、上手になっていてさらに仕上げも上々。
ただ、あれこれ揚げ足とりをしようと思えばいくらでもできるのだが、なんというか強引にでもあもちゃんの口を閉じさせて最後まで駆け抜ける暑苦しさ(褒め言葉)がこの作品にはあった。
好きなタイプの作品ではないのだが、だからってその強引さは嫌いじゃない。
とにかくまあ・・・もうむちゃくちゃなの(笑)。
スマートさでいうと前作の「スワン」の方が勝っているが、大きくて思いっきり粗野で、かつ気恥ずかしい事を書いてみたいという野望?願望?めいたものが今作から感じられる。
ゴッツゴツの岩石を思いっきり顔面めがけてぶん投げられた感じ。メリメリ~。
前半の泥臭くて、きったなくて、汗臭くて・・という世の中に背を向けた主人公のカワベの初老のジジイ感がとくによく書けていて、部屋とかもきったねえし、脂くさいし(ひどい悪口!)、読みながらゲンナリするほど。
最悪の出会い方をした元刑事のカワベとチンピラのシゲタ。
お互いの目的は別にあるものの協力し合いながら事件の真相に近づいていく様子もおもしろい。
読みすすめていくうち、主人公であるカワベらが色々なトラブルに巻き込まれるのだが、
結局もともと何が原因で始まったんだっけ・・・?
結局何のために何を探してるんだっけ・・・?
と迷子状態になる(ミステリー初心者あるある)も、
登場人物がそれぞれ、金だの保身だの一番大事なのは「自分」「自分の人生」など各々が口にしながらも、最後は実はそれぞれ大事だったのは「お互いを思う心」だった!
という結論に(なんとか)たどり着くことができた。
みんなそれぞれ心の中にお互いを信じるという純粋に輝く宝石を持っていた。
そこに至るまでの経緯や描写にご都合主義と言えなくもない部分がかなりあったが、ただただ、このきらめく宝石をこの作品で描きたかったんだろうな、という作者の信念や思いを感じとることができた。
人生を諦めていたカワベも自分の過去や周りの事件を調べるにつれ、そして若いシゲタに刺激を受けるにつれ、段々前向きに生き生きと動くようになっていた。
疑い、そして信じる。の繰り返し。
目をつぶっているだけじゃ前に進めない。全てを受け入れて、そして前へ。
とまあこんな感じで褒めるべき点も多いのだが、粗い点も同じくらい、いやそれ以上に多かった。
過去の話が出てくるたびに登場人物が増え、そして後出しネタも多くて、もう少し伏線なりを丁寧に張ってくれてれば、上記のような「ご都合主義」とか思わなかったんじゃないかと思う。
チユリがまさかの革命戦士!そして共産革命に突っ込んでいくとはね。
このことそのものにはそこまで驚いたわけでもないが、ただとにかく唐突すぎて、何かあるんだろう、くらいは思っていたが、さらにもう少し何かしら匂わせてくれていればなあ・・と思う。
しかも前半では聖女的な描かれ方してたのに、実はわりと気が強くて(それはいいとして)、文盲のセイさんを愚弄するわ、同胞の文男を罵倒するわ、えぇ〜・・・。聖女はどこへ・・・。
さらにさらに、父親キョージュや妹フーカとの複雑な?血縁関係の真相やら、キョージュとの関係。
さすがに後出しが過ぎる!!!!
少しでいいから多少の伏線なり匂わせがないとちょっと強引すぎた。
そして気になったのは重要人物の一人であるキンタ(主人公カワベの旧友)の人物像が一致しないこと。
合理主義で冷徹にことを進めて実際そういう行動を取っている傍ら、実は友情を大事にしていて・・という人物の描写をもう少し納得できるような描き方をしてほしかった。物語の核となる人物でもあるからもう少し丁寧にしてくれないと、これ本当に同じ人?もしかして裏があって別人とか!?と私、考え込んじゃったもの。
結局、何もトリック等もなく同一人物でずっこけた。
そして男子グループの中の紅一点的な存在であるフーカ。
最後の最後に現在の姿で登場するのだが、せっかく思春期男子らに粉かけるようなキャラだったのだから、そこらへんはもう少しもったいぶって書いたらよかったと思う。
前半はいい感じだったのに、後半は黒幕は彼女なのでは?アヤシイ!と思わせて〜というフリもさほどなく(すぐ違うと判明)、そして最終的に結局、この人なんだったっけ?と思われるような唐突な登場。
しかも黒幕でもなんでもなくて本当に事件と全く関わりのなかった、というオチ。
結局、この人なんだったっけ?
と最後まで疑問が消えなかったし、それならそれで、過去にはあれだけときめくような距離感で過ごした時代もあったのだから、せめて黒塗り高級車から赤絨毯に降り立つ女優レベルに恭しく扱ってあげてもよかったんだと思う。
前作『スワン』との比較で目覚ましい文章力の成長は見られたが、再度スワンのことを思い出してみると、前作同様、真相がわかったところで大した驚きがなかったのが残念であった。
それでも私はここまでの人、で終わってほしくない気もしている。
推し、ではないんだけれど。
(私なんぞに推されない方が逆に良いのだ※)
せっかく今作品で成長を見せ、手応え(私の中で)もあった。
あともう1作読んでみたい。
それでやっぱり同じような感じなら、そういう路線で行くのかな、と思うことにする。
※魔のあもる推し=私の推し作家さんはあもるのノロイ(鈍い)にかかり、直木賞受賞が遅れる、というスーパー縁起の悪い現象。