スワン | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

 

 

 

↑Amazonやら楽天の表示形式が変わったようです。扱いに慣れるまで時間がかかりそう(汗)

 

(あらすじ)※Amazonより

首都圏の巨大ショッピングモール「スワン」で起きたテロ事件。死者二十一名、重軽傷者十七名を出した前代未聞の悲劇の渦中で、犯人と接しながら、高校生のいずみは事件を生き延びた。

しかし、取り戻したはずの平穏な日々は、同じく事件に遭遇し、大けがをして入院中の同級生・小梢の告発によって乱される。次に誰を殺すか、いずみが犯人に指名させられたこと。そしてそのことでいずみが生きながらえたという事実が、週刊誌に暴露されたのだ。被害者から一転、非難の的となったいずみ。そんななか、彼女のもとに一通の招待状が届く。集まったのは、事件に巻き込まれ、生き残った五人の関係者。目的は事件の中の一つの「死」の真相を明らかにすること。彼らが抱える秘密とは? そして隠された真実とは。圧倒的な感動。10年代ミステリ最後の衝撃!

第41回吉川英治文学新人賞受賞作
第162回直木三十五賞候補作

 

◇◆

 

第162回直木賞候補作である。

そんなあもる一人直木賞(第162回)選考会の様子はこちら・・

 →『あもる一人直木賞(第162回)選考会ースタートー

 →『あもる一人直木賞(第162回)選考会ー途中経過1ー

 →『あもる一人直木賞(第162回)選考会ー途中経過2ー

 →『あもる一人直木賞(第162回)選考会ー結果発表・総括ー

 →『ホームラン速報(第162回直木賞)。

 →『本物の直木賞選考会(第162回)ー結果・講評ー

 

冒頭から無差別大量殺人事件を匂わせる不穏で妙なテンションがものすご〜く私の気を重くした。裏を返せばそれだけ上手に描かれていたとも言えるのだが、とにかく気が重くて気が重くて仕方なかった。『悪の教典』もそうだったが、こういう大量殺人という題材が私、ものすごく苦手なんだよね・・

苦痛で仕方ないよう・・と我慢して読んでいた。のだが・・

なんか途中から面白くなってきた!!!

 

無差別殺人事件自体は最後まで気分の悪い事件であったが、事件後の被害者たちの刻々と変わっていく様子や周囲の環境について、ありえない・・と一言では片付けられない何かがそこにはあった。

今は動画サイトで色々な動画を見ることができ、そして動画を撮影することができ、それを全世界に広めることが簡単にできるようになった。SNS上などでえん罪事件が起きたり、とある内容がネットで取り上げられおもしろおかしく書かれ、そのことで悩まされる人がいる、なんてニュースも頻繁に見かける。

この作品は無差別大量殺人事件の被害者(生き残り)であるにも関わらず、ちょっとしたことからネットや世間から叩かれ、いわゆる「炎上」をして、周囲から冷ややかな目で見られたり、腫れ物を扱うように対応され、それでも強く生きていく女子高生を中心とし、その他の被害者たちのその後の人生について「祈りと救済」の物語である。

 

大事な人を失った被害者、目の前で殺人事件が起こり逃げるしかなかった被害者・・らのその後の「人生」について描く、とか言うと胸が苦しくなりそうな感じもするのだが、そこをミステリー形式にして突き詰めていくのは大変興味深かった。

無差別大量殺人事件が起こっている最中、とある場所で起きた事件。本当はそこで何が行われていたのか。

 

このいずみという少女をめぐる事件の真相が明らかになった瞬間!

 

私「へー・・・」

 

この瞬間がこの作品の一番のピークなのだが・・・へー。みたいな。

蓋を開けてみれば大した真相でもなく、確かに真相については予想もつかない内容ではあったが、それを知ったところで特に驚きもなく、あ、そうなんだあ・・みたいな。

 

また別のところ(お茶会の目的)では、おばちゃんが心筋梗塞で倒れていた、というだけのことかと思っていたのだが、実はそうではなかった!

・・・という展開ではあったのだが、結局、でもやっぱり心筋梗塞〜(汗)

そもそもモンスタークレーマー的な激烈なおばちゃんが、おじちゃんに怒鳴られたくらいで心筋梗塞・・そりゃまあ、周囲でドンパチやってる異常な状態で心筋梗塞くらい起こりそうではあるが、その原因を究明したいかどうか・・と言われると・・弁護士使ってまで・・

いやいやそんなことありえへんやろ!?みたいな・・・

 

あとは「黒鳥」の女子高生がやっぱりひどくね?!とか、性格わる〜。とか。あ、これはただの私個人の感想なんですが笑

 

・・という物語のそもそものところを指摘されちゃうと、まあ、本当にぐうの音もでないし、そこを突かれると物語そのものが崩壊しちゃうんですけどね。

そりゃまあそうなんですけどね。私もそうは思うんですけどね。

 

でもでも細かいところはさておいても、とにかくおおらかな目で私は読みたいと思える作品であったのだ。

いやいやそんなバカな!

と思っちゃうような設定なのに、なぜか身近な話しとして読むことができる不思議な感覚。

というのも、ラストシーンで主人公の女子高生がショッピングセンター(貸切)の中をバレエのステップで駆け回るのだが、そのシーンがものすごくステキだったのだ。

バレエやったことないけど、大きくジャンプしては長い長い廊下を走り抜ける細っこい彼女のしなやかな身体がまるで目に浮かぶようであった。

このシーンの文章のスピード感がすばらしい。まさにスワン(白鳥)が羽ばたいているようであった。思わずうっとりしちゃって、ここまでながながくどくど(言い方)綴られてきた大量殺人事件なんてどうでもよくなった瞬間。

 

ただそうは言ってもこの作品をみんなに推したいかと聞かれれば、さほど・・ではあるのだが、それでもラストの躍動感溢れる文章がすばらしかった。あの力強さと勢いをもってすれば、次の作品、次の次の作品でもきっと良い作品が書けるはずと思っている。

ジャンルがジャンルなので今後も好き好んで読んでいく作家さんではないと思うが、こういう機会に(あもる一人直木賞選考会)こういう作品を読めたことをありがたく思っている。

 

 

最後に、直木賞選考会を終え本物の直木賞選考委員の選評が出ているので一部を抜粋しておく。

 →参考記事『栄冠は私にずっと輝く。

 

◇角田光代氏

無差別殺人事件の被害者を加害者に転換していく、匿名の正義の不気味さは印象深かった。(略)ラストの銃弾二発の衝撃も、そのあわただしさにのまれてしまう気がして、それはそれでもったいないと思った。

 

◇宮部みゆき氏

題材・展開・主人公たちのキャラクター、オチのつけ方、全ての典で優等生的に上手なミステリーですが、私にはまったく共感できませんでした、単純に年代差と性差のせいなのかもしれませんが、少し考えてみたいと思います。

 

◇桐野夏生氏

(略)少しずつ嘘を吐いていると設定ならば、登場人物が多過ぎる。もう少し整理されたら、わかりやすくなるのではないか。ちなみに、二発しか発砲できない手製ガンを、どんどん棄てながら進むという発想は面白かった。

 

◇浅田次郎氏

これはわかりやすすぎた。面白くわかりやすいという、すぐれた小説の二大条件をクリアしているのだから、実は最も筋のよい作品と言えるのだが。

 

(・・え?これって選評?と私は何度も読み直してしまった。特に言うことはないってことなんでしょうか・・?)

 

◇林真理子氏

のっけから緊迫感をたたえた文章が続く、すぐれた筆力だ。しかし長い時間をかけて解明したわりには、真実がたいしたことがなくてかなり落胆した。もうひとつ惜しいことは、ある男性の身元がわかるハイライトシーン。ここはざわざわとした恐怖と驚きが欲しいところであるが、成功しなかった。が何度でも言うが、この作者のドキュメンタリータッチの文体は本当に素晴らしく、今後の活躍が期待できる。

 

◇北方謙三氏

緻密な描写に感心しながらも、撃った方のことがなにも描かれていないのが、とても気になった。なにか満たされない思いに、つきまとわれた。それを小説の根幹にしていない、ということだろうが、大量殺人は、極限状況に追いつめられた人間の、行動と心理分析のための道具立てにすぎないのであれば、私の小説観とは合わないのだ。どこかで、本質をそらされた気もする。模造拳銃のようなもので、次々に人を打っている人間の解析がきちんとなされていれば、私にはリアリティのある作品になったという気がする。作りもの、という印象が拭いきれず、茶会と称する集まりの人間の描写が、強いものを伝えてこないのである。

 

(北方のオジキよ〜。この作品は撃った方のことがなにも描かないことが小説の根幹なんじゃ〜。そういう理不尽で不穏な始まり方でこの作品は始まるんじゃ〜。私の小説観と合わない、って選考委員が言うちゃいけ〜ん。好き嫌いで選考するのは私だけでええんじゃ、本物の選考委員は小説そのものを選考しなはれや。とぶつくさ読んでいたが、最後のお茶会の人間の描写が強いものを訴えてこないというのは同感。)

 

◇高村薫氏

最後に明かされる事件の真相は、冒頭の襲撃シーンであえていくつかの主語が隠され、誰が誰かわからない描き方をされたために生じた不明と混乱が、最終的に整理されただけに過ぎない。そのため、被害者の側の個々のエピソードで小説をけん引することを余儀なくされ、結果的に初めの殺戮ゲームのインパクトもどこかへ行ってしまう。

 

(高村氏の小説手法からの選評ってすごく参考になる。私もこういう選評が書きたいものである。私が言いたかったことはこういうことなんです〜。)

 

◇宮城谷昌光氏

「瀬名川シティガーデン・スワン」でおこなわれた無差別殺人を底辺に置いて、被害者・目撃者・関係者などの話を組み立ててゆくという趣向は、いかにも作為的で、作者の計算からはみだしてくるものがないだけに、おもしろみがすくない。

 

選考委員の選評を全体的に眺めた感じ、腹はたつが(笑)私の嫌いな林のおばちゃんの選評が一番私の感覚に近かった。あとは高村氏の選評はとてもよいと思いましたな。

 

 

どうでもいいけど、この大量殺人事件の舞台となった巨大ショッピングモールの「スワン」だが、越谷レイクタウンをモデルにしてるんだろうな〜と勝手に想像。越谷レイクタウンには1度しか行ったことないが、名前といい、フロアの構造といい、立地条件といい、そっくり。もしこの作品を映画化するなら撮影場所は越谷レイクタウン1択でしょうなあ。

今は新コロで経済が滞っているが、新コロが終息した際にはこの作品を映画化してその舞台となり、小売り業界の星として大復活を遂げてほしい。・・って別に傾いてるわけじゃないけど。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

Twitterをほそぼそやっています。

ブログ更新のお知らせが主ですが、時々ヒソヒソしています。

@amoru_kun