そんな傷口に、過去の自分がこれでもかと塩を揉み込んでくるという大惨事に見舞われたのはもう1か月半も前のことでしたね。→『過去の私に逃げ道を塞がれる。』
→あもる一人直木賞(第163回)選考会の様子はこちら
もう二度とあんな目には遭いたくない、とこのまま半年後の選考会まで冬眠(夏だけど)して傷口を癒そうと思っていた私だったが、今回から新しく選考委員に加わったしをんちゃん(三浦しをん氏)がどの作品をどのように選評したのか、だけがやはり気になって、自分の傷口を自らかっさばく覚悟(いちいち大げさ)で選評を読むことにした。
で、読んで結論から言いますと・・・
読んでよかった!!
傷口が一気に癒えた!
だって私、別に三振なんてしてなかったんだもん!!・・いや、三振はしてるんですが(笑)
なんか損して得取る、みたいな気分になりました。
うんうん、三振はしたけれどやはりあもちゃん、自信を持って第163回の私の選考結果も世界中にお知らせできます。
あとはそうそう、林のおばちゃん(林真理子氏)の選評のおかげで今回の選考会がどのような形で行われたのか、がわかった。
「コロナ禍の中で選考会は、いつもと違い、広い座敷でアクリル板越しに行われた。」
そうである。
留置場の面会室みたいなあのアクリル板を挟んでの激論だったのだろうか?
お料理は出たのかのう。それについては触れてかったが、料亭でやったからには出たのだろう。折詰弁当とかかなあ。・・料理ばかりが気になる〜。
ところで今月号(合併号)は直木賞発表特集であるので、受賞者である馳星周さんの自伝エッセイが掲載されており当然、じっくり読み込んだ。
そして馳さんの作品をあまり読んでいない私は改めて思った。
馳星周さんの文章って私と合わないんだな。
と。
とても上手であったし、ちゃんと最後まで読ませてくれたのだが、あまり心が動かないというか。
そんな私ですら馳星周さんの受賞作『少年と犬』に高評価を与えたのだから、よっぽど完成度が高かった、とも言えるかもしれない。
また、5名の作家さん(東野圭吾/村山由佳/青山文平/北上次郎(評論家)/大沢在昌)が「馳星周とわたし」というテーマでお祝いエッセイを寄せていた。
馳星周さんの人となりやプロフィールを知らない私は、北上さんのエッセイで馳さんが作家デビューした後もしばらく書評を書いていたことを初めて知り、さすがに自分の「不夜城」の書評は書かなかった、というエピソードにウフフと笑った。
そして最後の大沢さんのエッセイにドキーっとした。
「(略)初候補であれば、天にものぼる心地になる。落選したあとのつらさは、作家ではない予選委員にわかりっこない。
さらにいえば、外野から文学賞の結果をあげつらう商売もあるが、文句をつけるなら選考委員になって文学賞を与える側に回ればよい。落ちた人間には何の慰めにもならない。
選考委員は、憎まれ役だ。受賞した人間は実力だと思うし、落選した人間は「あいつが落とした」と恨む。したがって軽い気持で選考にあたることは決してない。(略)」(125頁)
ドキーッッ(笑)
なんか、私、言われてます!?
・・・あ、でも文句言ってるだけで商売にしてるわけじゃないから!!!!!
一応「あもる一人直木賞」ってのも授賞してますし・・要らんって??
大沢さんのお怒りはごもっとも・・な部分もなくはないが、ひと昔前は候補作を全く読んでなくて、実際読んだ別の選考委員に「どういう話だった?ざっと説明して〜」と聞いていた選考委員がいた、って噂を耳にしたことがあるんだけどな〜。大沢さんはそういう選考委員じゃないのだろうけど。
(その頃は直木賞候補作が発表されてから1週間後に選考というハードスケジュールだったから、本物の選考委員たちも大変だったと思いますよ。私もそりゃもう大変だった。仕事も家事も放棄して読みふけるという苦行!!!)
M−1でも審査員が一番世間から選考結果についてやいやい言われて、貧乏くじをひかされているような大変な様子は知っているし、直木賞の選考委員たちが大変なのは重々承知。
そんな色々を理解した上でのモンクイストあもちゃんであることを、どうぞ皆さん、ご承知おきくださいね。
で、話は直木賞選評に戻り、本物の選考委員がいかに候補作を読んだのか、が選評として載っていたので簡単にまとめたい。
※ざっくり◎○△×で分けたが、選考委員の微妙な表現については私のさじ加減である。
(選考委員は掲載順)
・浅田次郎 「雲を紡ぐ」 △
「じんかん」 ○
「能楽ものがたり 稚児桜」 △
「銀花の蔵」 △
「少年と犬」 ◎
<浅田次郎氏選評についてのあもちゃんの感想>
年をおうごとに浅田氏に賛同できる内容が少なくなって来た・・昔は好きだったんだけどなあ。
作家の手に合った作品が「幸福な受賞」とやらで、受賞作「少年と犬」はこのさき生み出される作品の基準としてふさわしい。とのことで「少年と犬」が激推しだった模様。
あとは全て批判的だが、唯一「じんかん」だけは多少よかった、という感じ。
候補作の中で異色の「能楽ものがたり 稚児桜」については澤田さんの実力は高く評価しているものの、出典の謡をほとんど知らないので評価するすべを持たなかった、とのこと。
苦悩の様子がうかがわれる(笑)
・宮部みゆき 「雲を紡ぐ」 △
「じんかん」 ○
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 ○
「少年と犬」 ◎
<宮部みゆき氏選評についてのあもちゃんの感想>
宮部さんが犬好きだってことはよくわかった(笑)
もう最後に号泣したそうです。・・・え〜。私、最後で、むむ!?ってなったんですが。
宮部さんも浅田氏と同様、「少年と犬」に完敗とのことで超絶推しで、次点が「じんかん」「銀花の蔵」の二作だったよう。みんな「じんかん」推すね〜。
家族小説ということで「雲を紡ぐ」と「銀花の蔵」を比較したとき、宮部さんは「銀花の蔵」が描写力や人物造形等で上回る、と判断した模様。
ちなみに「雲を紡ぐ」はNHKの朝のテレビ小説にピッタリ、と言っていて、私も朝ドラみたい、という感想を書いていて、そこは同じだったのだが、その親しみやすさと明るさが宮部氏には欠点として映った模様。
候補作の中で異色の「能楽ものがたり 稚児桜」については、澤田さんの短編の巧さは宮部氏も高く評価しており、澤田さんの能への造詣が深いことは理解するものの、この短編集は文学賞云々の固いことは抜きにして軽やかに楽しまれるべき作品、とのことで、これまた選考に苦悩されたご様子。
・北方謙三 「雲を紡ぐ」 ×
「じんかん」 ◎
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 △
「少年と犬」 ◎
<北方謙三氏選評についてのあもちゃんの感想>
オジキのそのブレない姿勢はもはや直木賞のテッパンとも言える。
相変わらず今村氏を推しますなあ。「少年と犬」と「じんかん」の2作を推したそうです。
俺はすんごく推したのに!!!
わずかに及ばなかった心残りはいまも胸から消えない!!
らしい。
って、どんだけーーーーー!!!
あと、北方のオジキ、私と真逆で伊吹さんの作風がどうも気に入らないっぽい。こりゃ、前途多難だ。
そして例の「能楽ものがたり 稚児桜」については、
うん、よくわからん。
これを読んだからって能の鑑賞に興味を持った、ということにもならんかった!
と潔く「わからんかった」と書いていた。
そりゃ、ソープに行け、とか言う人にはわからんやろなあ。
・桐野夏生 「雲を紡ぐ」 ○
「じんかん」 △
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 △
「少年と犬」 ◎
<桐野夏生氏選評についてのあもちゃんの感想>
ここにも犬好きがいた(笑)
ただ、上記3人に比べて「少年と犬」を激推しした様子はなく、伊吹氏の「雲を紡ぐ」に対しても概ね高い評価を与えていた感じ。欠点が「少年と犬」の方が少なかったから、という消極的評価といった印象を受ける。
そして例の「能楽ものがたり 稚児桜」については、他の選考委員同様知識がないので、タイトルの下に書いてある能の演目を調べながら読んだ、らしい。
私と同じ読み方してる!!
やっぱり選考委員であるからには最低限それくらいはしてほしいところ。
で、そういう読み方をしたけれど、残念ながら能のストーリーの方が面白く感じられた、らしい。そりゃまあ、歴史が違いますから・・とはいえ、北方のオジキと違って能に関心を持った、まではいかないまでも、能に面白みを感じた、というのは、能の企画ものとして短編集を書いた澤田さんとしても大満足の結果、とも言えよう。
・伊集院静 「雲を紡ぐ」 ?
「じんかん」 ?
「能楽ものがたり 稚児桜」 ?
「銀花の蔵」 ?
「少年と犬」 ◎
<伊集院静氏選評についてのあもちゃんの感想>
ここにもまた犬好きが一人。犬好きな伊集院氏は、これまでにも馳さんの犬に関する随筆やらに涙腺を熱くさせられていたそう。
ま、それはどうでもいいんですが、馳さんのことにしか触れてないんですけど。
選考委員の選評って受賞作だけに触れればいいんでしたっけ?
かろうじて、「じんかん」と「雲を紡ぐ」に関しては表紙のデザインと章題について触れられていたが、残り2作については全く登場せず。
受賞作以外は問題外ってことで理解していいのかな。
それならそう書いて欲しい。ま、それはそれでクソ文句言うんですが(笑)!
こんなにヤル気ないなら私が代わりに選考委員になろうかなあ。そんでもって高級料理をつつきあるくんだ♪
・角田光代 「雲を紡ぐ」 △
「じんかん」 ◎
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 △
「少年と犬」 ◎
<角田光代氏選評についてのあもちゃんの感想>
最終的に「じんかん」と「少年と犬」を推したそう。
「雲を紡ぐ」は後半になるにつれきれいに話しをまとめすぎ、「銀花の蔵」は冒頭の不気味さが生かされてない、とのことであった。
で、角田さんも「能楽ものがたり 稚児桜」には悩まされたようで、能楽に無知な私はよい読者ではなく、短編小説としてとらえると物足りないが、演目が明記されているので能と切り離して読むことは作者の本意ではないのだろう、とのことであった。どう読んでいいのやら・・といった感じか。
・高村薫 「雲を紡ぐ」 ○
「じんかん」 ◎
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 ◎
「少年と犬」 △
<高村氏選評についてのあもちゃんの感想>
受賞作「少年と犬」について「ハードボイルドとしても動物物語としても終始平板、深みに欠ける」となかなかの酷評であった。いいよいいよ〜。
そんな高村氏が実際何を推したのかは書いていなかったが、「銀花の蔵」「じんかん」を推したと思われる。エンターテインメントとして面白さは群を抜いて「じんかん」がよく、人間を描くという点では「銀花の蔵」がよかった、らしい。
久々に「人間を描く」という言葉が出ました!
これがないと直木賞って感じがしないよね〜。
「雲を紡ぐ」はこぢんまりとまとまった愛らしい小説、とするも、予定調和の域を出ずご都合主義と紙一重のファンタジーに見える、とのこと。私は伊吹さんのこの作品を推したが、この指摘はわからなくもない。ただそこが伊吹作品のいいところなのよ。
そしてご注目の「能楽ものがたり 稚児桜」だが、
「世に知られた謡曲を題材に借りた短編集」
と書いていて、他の選考委員と違い、謡曲を多少なりともご存知の様子。それゆえ「乙巳の変すら現代風の人間ドラマに作り替える作者のいつもの手法ゆえに、どの短編も、謡曲のパロディにもパスティーシュにもなれなかった。」となかなか手厳しかった。でも澤田さんはパロディでもパスティーシュでもないものを作ろうとしたんだと思います。
高村氏は最後に「能の世界を往還する生者や死者は、そもそも小説の描く人間とは重なるところがないのではないか」と疑問を呈しているが、そこに澤田さんは挑戦したんだと思うんです〜。
それがうまく機能していない作品もあったが、概ね成功していると私は思ったんじゃ〜。
だからこそ、シリーズ化してほしいんじゃ〜!!
・林真理子 「雲を紡ぐ」 ◎
「じんかん」 ×
「能楽ものがたり 稚児桜」 ×
「銀花の蔵」 △
「少年と犬」 ○
<林氏選評についてのあもちゃんの感想>
腹が立つことに毎度毎度、林のおばちゃんと順位が同じなんじゃ。正直嬉しくはない(笑)が、伊吹さんを推してくれていたことは素直に喜びたい。
他の選考委員が激推しだった「じんかん」については、長い!とのこと・・。
確かに長いがその長さ自体は気にならなかったけどなあ。今回「じんかん」が「少年と犬」とW受賞にならなかったのは林のおばちゃんが強く反対したからに違いない、と思われるが、あの私の中で悪名高き大河「せごどん」の原作者に言われたくはない、とツッコまれること間違いなし。
澤田さんの「能」については今度は短過ぎる、ゆえに天平や平安の雅な香りがしない。とのこと。だって、あの作品、そういう作品じゃないんだもん・・とか言っちゃだめ?
雅な香りがしないかわりに、天平や平安の妖しい感じは十二分に出ていたと思うが。
「銀花の蔵」は面白く読んだが途中から息苦しく、受賞作「少年と犬」については、構成や文章の巧みさはさすがであるが、各章のテイストが似通っていていちばんに推さなかった、とのこと。
で、いよいよお待ちかねのしをんちゃんの選評であります!!
・三浦しをん 「雲を紡ぐ」 ◎
「じんかん」 ◎
「能楽ものがたり 稚児桜」 △
「銀花の蔵」 ○
「少年と犬」 ○
<三浦しをん氏選評についてのあもちゃんの感想>
しをんちゃんは、「雲を紡ぐ」と「じんかん」を推したそうです!よくやった!←何が?
「雲を紡ぐ」を推してくれていたことに私はやれやれ、ホッであった。しをんちゃんは「銀花の蔵」を推すかな〜と思っていたのだが、好みは私と同じなのね!!!(「じんかん」も推している事実はとりあえずおいといて。)
ちなみに「じんかん」は前半が好きなんだそうです。私も〜。同じこと書いてる〜。前半ピークって(笑)
そんなしをんちゃんの推しの作品の話より、澤田作品に対する選評が大変タメになった。
しをんちゃんは「浄瑠璃」に大変詳しい作家さんなので当然謡曲にも詳しいであろう、とは思っていたのだが、文字数が制限される中、こうも大変キッチリとした選評をお書きになるとは・・と感動でむせび泣いちゃったね。ウソだけど。
私も「似たような話が2作並んでる」と書いたが、しをんちゃんも「各短編の読み心地が似ていて、一冊を通してのメリハリにやや欠ける」とのことであった。
「あらゆる芸能のなかでも、能は死者の声を聞き鎮魂することに特化したつくりだと思うが、本作は能特有のカタルシスが弱い感があり、では能の抹香臭さを皮肉る方向性かと考えるも、そうとも言いきれない気がして、本歌取りの必然性がもうちょっと欲しかった。」(34頁)
と書いてあり、私は澤田さんの小説世界から本歌取りの奥行きを感じていたのだが、しをんちゃんはもう少しぐっと強くその必然性を欲したらしい。
ちなみに受賞作の「少年と犬」だが、もちろん受賞に異論はない、とのことで、これまた私と同じ。「犬とは卑怯な・・!」と思うも・・という表現にしをんちゃんらしさが出ていて、憎めない選評であった。
選考委員の選評を読んで思ったのは、今回はとにかく候補作全てが読み応えがあって、なかなかレベルの高い回であった、と感じていた模様。
私もレベルの高さはともかくとして、全体的に同じような完成度で困ったくらいであった。
私の中では一番だった伊吹さんの作品もけして推されていなかったわけでもなく、いやいやそれどころかイチオシしていた選考委員も何人かいたとわかって、私の傷も癒えていくわけであります。
そんでもって、選考委員には犬好きが多いと知り、同じく犬好きのあもちゃん、今までよりは若干彼らに親しみが湧くのであった。
そして三浦しをん氏のこと。
半年前、直木賞選考委員にしをんちゃんが加わると聞いて嬉しかった反面、
大好きなしをんちゃんが変な選評したとき、私、しをんちゃんに食いつけるかなあ。
正直言ってできる気が全くしないなあ。
情がわいてつい手ぬるいこと言いそう・・
と心配していたのだが、今回は変な選評でなかったし、私とほぼ同じ感覚だったし(じんかんについては見えてません)、選考委員らを悩ませた澤田作品については大変タメになる選評を書いていて、しかもちょっと個性だしてくるあたりもバランスがよくて、大変満足なものであった。よかったよかった。
というか、澤田作品が候補に入っていることでしをんちゃんの選考委員としての存在が輝いた回であったとも言える。
いやはや、選考委員も大変だなあ・・って今更だけど。
私ももっともっと勉強して、しをんちゃんに負けないように頑張るぞ!←誰と張り合ってんの。
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