あもん家の長い5日間 ⑯ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

1214日 朝

 

今日はお通夜が行われる日であった

あもんは昨晩、早くゆっくり寝られたと思う

お通夜は夜を通して故人を見守るという意味を持ち、一晩中、遺族がロウソクの火や線香を絶やすことなく見守って過ごすもの

父は今、この世でもあの世でもない世界を彷徨っている

父の足元を照らすロウソクと天への道しるべとなる線香を絶やしてはいけない

ということは、あもんでも知っていた

平穏葬社に行くと、父は安置室から親族控室に移動していた

ここもある意味旅館の様な所で、バストイレ、キッチンまである仕様である

畳20畳ぐらいの広さであろうか、ここであもん家は父と最後の夜を過ごすこととなる

 

母と姉ちゃんの喪服の着付けがあるというとで、午前中にはあもん家は集まった

あもんは朝早くから考えて作った親族代表の挨拶文をポケットに入れていた

一応、母と姉ちゃんに見せて、これでいいか?と尋ねたら、母は何故か涙ぐんでいた

多分、母はここ数日間ゆっくり寝られていないのだろうと思った

そして、全ての儀式が終わる明日以降にグッと疲れがでるのであろう

そう気づいたあもんは、明後日以降もしばらく仕事を休むことを決めた

 

姉ちゃんに聞くと、姉ちゃん一家も全員ここに泊まるらしい

ということは、アイカとコータもこの親族控室でお泊りである

さすがに姉ちゃんはママであって、今日のお泊りは普段とは違うという事をしっかりと二人に教えたらしい

あもん家では大人の言うことを半分は聞かない二人が

おそらく人生初であろう“こんな広い部屋でみんなでお泊り♪”に遭遇した時に

はしゃがないはずはないとあもんは思ったが、じぃじが溺愛しながら育った二人である

あもんが二人の遊び相手になることで、この場はそうしてあげようと思った

『いい!ばぁばは疲れとるんじゃけんね!ばぁばが“静かにしてっ”て言ったら、静かにするんよ!あと、色んな人が来るけん、だらしなくしんちゃんなよ!おとなしくしとくんよ!』と聞かしたみたいだった

 

『アイカ、じぃじへのお手紙、書いてきたん?』とあもんはアイカに聞いた

『うん。ちっちゃいけぇ、書ききれんかったよ』とアイカの書いた手紙を見てみると封筒からはみ出ていたアイカの文字があった

先日、葬社の担当者から棺の中へ入れるメッセージカードを5枚渡されたのであった

母、姉ちゃん、あもん、アイカとコータとメッセージを入れて棺の中に入れることにした

父の病室にはアイカも何度もお見舞いに来ており、そのたびにアイカは色んな物を手作りし、プレゼントしていた

その中で一番多いのがアイカの習字作品であり、習い事で習字を書いては持ってくるという事を繰り返し

もはや、父の病室はアイカ美術館のようになっていた

その中で父は“とり”とひらがなで書いたカレンダーを『これ、上手いじゃろ』と自慢してあもんに見せたことを思い出した

あもんは父の荷物からそれを持ってきて棺の中に入れようと思った

『アイカ、アイカの習字をじぃじの箱の中に入れていい?』

『なんで?』

『じぃじね、明日葬式が終わったら、火葬って言って燃えることになるんよ』

『箱の中に一緒に入れて燃やすってことはね、じぃじが天国にアイカの習字を持っていくいうことなんよ』

『アイカの字をね、天国におるじぃじの父さんと母さんに見せてもらおうと思うて』

『アイカの上手な字をね、じぃじに自慢させようと思って』

『じゃけぇ、じぃじの箱の中に入れていい?』と言ったら、アイカは大満足してウンと言った

 

棺桶の中に入ったじぃじを見て、アイカとコータは不思議と大騒ぎにはならず

昨日教えてもらったばかりの線香をつけてリンを鳴らして拝むという行為を何度も何度もしていた

コータは不器用ながらもみんなと同じことをしたくて、一生懸命リンを叩き

『うるさいよ!』とママに怒られていた

父の弟である民ちゃんが山口からやってきた

今日は家族を連れて参列してくれるみたいだ

聞けば、民ちゃんはお通夜から明日の火葬まで付き合ってくれるらしい

アイカとコータはお泊りする仲間が増えたのに気づき徐々にテンションが上がって行った

徐々に親族が集まり始め、親族控室は一杯になってきた

アイカとコータは遊び仲間がどんどん増えたのに気づき徐々にテンションが上がって行った

棺桶を式場に運ぶという事で係員がやってきた

『じぃじをどこに連れて行くん!!』とアイカが言っていたが

『先に式場でスタンバイするんよ』と言ったら何も言い返さなかった

 

『式の段取りを説明いたしますので、ご親族様は式場にお願いします』と担当者が来たので、あもん達は式場へ向かった

式場に入ると祭壇やお花の説明があり、お花の位置などの細かい打ち合わせが行われた

祭壇は贅沢にしたつもりは無いが、担当者の勧める通りにお花を多くしたら豪華に見えている

あもん達はこれぐらいで丁度よかったと納得をした

『まずは、お寺様が入場してきます。初めに説法があるかもしれません。そこからお務めが始まります』

『ちなみに、浄土宗ではお念仏は皆様も参加する形となります』

『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と唱えて頂く形となります』

『えっつ!そうなの!』

あもんは何度かお葬式やお通夜に参列したことがあるが、参列者まで唱えるのは経験したことがない

『お寺様が合図を送ってくれるので、心配いりません。しっかりと唱えてあげて下さい』

『お務めの終盤ではご焼香となります。こちらは司会者がアナウンスするので、喪主様から前へお進みください』

『まずは、祭壇に一礼してご焼香ください。ご焼香が終わると、参列者様に一礼、親族様に一礼して席に戻ってください』

『浄土宗では通常、ご焼香は1回、額に押しいただくのは軽くで結構です』

『えっつ!これも違うの!!』

『はい。浄土真宗では押しいただかないのです。抹香をつまんですぐに香炉に入れるのです。ご焼香を3回する宗派もあります』

『たぶん、皆様それぞれでご焼香の仕方が違うとは思いますが、あまり気になさらないでください。問題はありませんから。それと一礼を忘れても気になさらないでください。あまり緊張せず、リラックスしてご焼香ください』

『ご焼香が終わりますとお務めは終わりに近づいていきます。お務めが終わるとお寺様が退出されます』

『退出されたら、私が弔文を読み上げますので、それが終わると親族代表挨拶です』

『それと、喪主様とお子様は参列者様のお迎えとお見送りを入り口でして頂きます。どちらも私が声を掛けますから、お待ちください』

『流れはそんな感じです。お通夜や葬式は急な事なので、あまり格式にはこだわり過ぎず、リラックスして静粛に行うようにしてください』

『はい。分かりました』

この段取り説明にもアイカとコータは参加していた

コータは多分何もわかっていないだろうが、小学校3年生のアイカはどうなのだろう

全てが初めて見る光景で、担当者が言っていることは殆どが初めて聞く言葉ばかりのはずだ

それより先に、アイカは父の死をどう体験し感想しているのだろう。。。

あもんはふと、そう思ったが

自分がトリを務める親族代表挨拶の事で頭が一杯だった