12月12日 昼
あもん達は少し時間でできたという事で食事に行くことにした
昨日の夜からまともな食事をしていないあもん家であった
あもんは夜勤明けからの病院行きであったので、約2日間、おにぎりかパンしか食べていない
葬社の周りには食べ物屋さんがたくさんあったので、どれかと迷っていたが
コータがしきりにあもんの事を『ヤキニク~!』と呼んでいたので
きっと焼き肉が食べたいのだと思い、焼き肉屋さんに行った
それより、母はサンドイッチぐらいしか食べていなかったので、あもんは気を使った
しかし、焼き肉屋で定食をモリモリと食べたのはアイカぐらいであり
アイカは大人一人前では足りないのか、バァバの牛肉を貰っていた
こいつスゲーなと思っていたら『鶏肉全部、あっくんにあげるね♡』と言いながら
あもんが焼いていたあもんの牛肉も口に運んでいた
『ヤキニク~!』と叫んでいたコータはウインナー3個と焼き肉2枚しか食べなかったらしい
ちなみに、アイカは同級生と比べてかなりふっくらであり、コータは同級生と比べてかなりチビである
あもん達が食事をしている間に安置室で待ってくれていたのは、母兄姉たちであった
彼らはもう山口へ帰る予定であったが、食事がまだだったあもん家を気遣って留守番をしてくれていたのだ
あもんはせめてのお礼として、彼らを広島駅まで車で送ることにした
車の中では久々に広島に来たという御一行が、新しくなった広島駅界隈に驚いてばかりであった
広島駅界隈はここ数年で躍進的な開発事業が続けられていた
あもんが驚いたことと言えば、母の姉があもんのおばあちゃんにそっくりになっていたことだった
母姉はもう80歳近くである
あもんが幼き頃に記憶しているおばあちゃんと同じ年ぐらいであろう
おばあちゃんはもう先立っているが、あもんはおばあちゃんの声と顔を今でも鮮明に覚えている
『そうかね~』と言うおばあちゃんの笑顔と声を鮮明に覚えているのだ
ちびっ子だったあもんは多分、おばあちゃんに訳の分からないことを言い続けていたのであろう
何を言っているのか分からないおばあちゃんはとにかく『そうかね~』と分かってあげてくれたに違いない
ちなみにおばあちゃんがあもんにくれるお菓子はやはり、黒飴や羊羹などであまりグぐグッとはくるお菓子は少なかったが
おばあちゃんがくれるお菓子で大好きになったのが“ルマンド”であった
今でもあもんの好きなお菓子のひとつである
そんなおばあちゃんそっくりになっていた母姉に会ったのは何年振りかを覚えていないぐらいだった
多分、最後に会ったのは、あもんが小学生ぐらいの頃だったであろう
母姉が嫁いだ家に遊びに行き、その家にいたおばあちゃんがあもんを可愛がってくれていた記憶が残っている
そのおばあちゃんは目が全く見えなかった
目が全く見えなかったのに、誰からも介護されず普通に暮らし
手探りであったが、あもんと普通に遊んでくれたのだ
『おばあちゃん、すげーーな』とちびっ子あもんは強く思ったのであろう
その光景が今でも映像となって思い出すのであった
時間通りに葬社の担当者は現れ、ひと通り父と家族に挨拶をした後に、相談となった
『それで、菩提寺さまには連絡されましたか?』と担当者はあもん家に尋ねた
『えっつ?していませんけど?』
『お坊さんって、そちらが段取りしてくれるんじゃないのですか?』
『はい。宗派が分からない方や菩提寺を御存じない方にはご紹介もできますが』
『もし、ご存知であれば、菩提寺様にご連絡をするのが礼儀です』
『失礼ですが、宗派はご存知でしょうか』
『はい。浄土宗です』
『そうですか、浄土宗ならなおさらです。菩提寺はご存知でしょうか?』
『ワシ、知っとるで~』と答えたのは民ちゃんだった
『えっつ?知ってたの?』
『親父やお袋の葬儀の時、来てくれた寺じゃ』
『ワシも詳しいことは知らんが、電話番号だけは控えて来たっちゃ』
民ちゃんはクリーンヒットを打った
『このお時間ですと、当夜のお通夜は会場的に無理かと思われます』
『そして、お寺さんの御都合がいい日がお通夜と告別式となります』
『それでは、菩提寺様に連絡お願いできますか?』
『そうか、明日がお通夜としたら、明後日が葬式か』
『ん!!明後日は友引じゃ!葬式はできんど!』
『ええっつ!そうなの!』
『はい。そうなりますね。最近では気になさらない方も多いですが。。。』
結局、民ちゃんの進言によりお通夜を明後日にした
これによって、あもん達にはお通夜までの時間が一日できた
民ちゃんはその後、山口県の菩提寺に連絡しその日はお坊さんの都合が悪かったが
菩提寺から広島の浄土宗のお寺に連絡をしてもらい、代理でお経を挙げてもらえることとなった
菩提寺の段取りによる代理である為、宗派的にも何も問題はないらしい
『それでは、打ち合わせは明日でも十分間に合いますから、明日の朝にしましょう』
『ご遺族様はお疲れでしょうから、今晩はゆっくりお休みください』
『はい。ありがとうございます』
徹夜明けだったあもん家は安心をしてゆっくりする時間が出来たのであった
民ちゃんもあもん家として付き合ってくれていたので、今日はあもん家に泊まることを提案したが
寝ていなかっにもかかわらず、民ちゃんはひとり車で山口まで帰って行った
思えば、民ちゃんはこの日、サイクルヒットを打っていた