以前、神嘗祭の初穂曳に参加した時の二見輿玉神社(伊勢)
今月、10月15日夜から17日朝にかけて、伊勢の神宮で神嘗祭が行なわれます。
神嘗祭とは、天皇が祭主となり天照大御神様に収穫の感謝の報告をする祭り、つまり収穫祭です。
伊勢には全国の農家から各県の神社庁を通じて奉納された稲が外宮と内宮の内側にある内玉垣の柵に、穂を下にして懸けられます(懸税:かけじから)。
以前、私が参加した稲刈り体験の稲も奉納され作られた懸税↓感激しました。
この懸税の中には、皇居で天皇陛下が育てられた稲もあります。天皇陛下の稲は、根が付いたままの懸税となっています。令和元年は即位式、及び大嘗祭まえであったため、天皇陛下の懸税は根が切り取られていました。
これは上皇陛下の頃の懸税の写真を撮った写真。
神宮の神嘗祭は、年間1500もある神宮の祭典の中でも最も重要なもので、雄略天皇の夢の中で天照大御神のお告げがあり、天照大御神の食を司る神として豊受大御神を丹波の国から外宮に移し祀ったことから、祭典は外宮・内宮の順で行われます。
十五日の午後十時から外宮では「由貴夕大御饌」、十六日の午前二時から「由貴朝大御饌」が、また十六日の午後十時と十七日の午前二時から今度は内宮でそれぞれ「由貴夕大御饌」「由貴朝大御饌」が行われます。
そして、この十七日には天皇陛下が伊勢に遥拝され、その後、皇居の賢所にて賢所の儀をされます。
「由貴」というのは、この上なく貴いという意味で神に召し上がっていただくために三十種にのぼる多種多様な珍味が供えられます。その中でも最も重視されるのが鮑(あわび)で、延暦の儀式帳にも志摩国から献上された鮑を机の上に置くことが規定されていたほどです。三十品目は柏の葉でできた窪手と呼ばれる角型の容器や枚手と呼ばれる小皿に盛って供されますが、新穀で作った蒸し飯をはじめ、やはり新穀で醸造した黒酒、白酒なども供されるのです。
初めてこの神嘗祭について知った時、由貴という名前の女性はなんて素敵な名前を頂いたのだろうと考えたものです。
ところで子供の頃の私はなんで日本には収穫祭がないんだろうと考えてました。西洋の児童書ばかり読んでいたので、収穫祭というのをよく目にしていたからです。だからなんで日本にないんだろう?とずっと思ってたのです。しかし、古代から稲に稲魂が宿ると神聖視してきた日本に収穫祭がないはずはなかったのです。事実、戦前までは神嘗祭の10月17日と新嘗祭の11月23日は国の祭日として休日でした。昔は祝祭日には学校に行き、その日のいわれを教わりその後に地域の神社にお参りをしたそうですから、そういうことを知らないはずはありませんでした。ところが戦後、神嘗祭は休日ではなくなり、新嘗祭は勤労感謝の日となりました。そして、その後も変わることなく続いてきた神嘗祭も新嘗祭も学校で教えられなくなりました。
そう、今でも神嘗祭はもちろん新嘗祭の時も、日本中の神社ではお祭りが行われています。行事に出ていないところでも、実は奥でお祭りをされているところが多いと、某神社に勤めていた方から聞いたことがあります。せっかくですから、この時期、15日から17日までの間に、近くの神社にお参りしたいものだと思います。
今年の神嘗祭は15日が日曜日ですので、15日だけでも神社にもお参りしやすいのではないでしょうか。お近くの神社にお参りする、あるいは伊勢に遥拝するのでもいいかと思います。
命の元は食べ物です。その食べ物に感謝しなくなったから飽食の時代となり、大食いを奨励し、飲食店では多くの食べ物を無駄にしても平気になってしまったのではないのか、と考えています。古来からの日本人の感覚でいえば、食べ物を棄てるなんてもったいないことはありえないことです。
現在、幼稚園や小学校他、多くの場所で西洋の収穫祭ハロウィンの行事が行われています。町内のイベントでも行う所がありますが、お遊びのイベントもいいですが、日本本来の収穫祭である神嘗祭や新嘗祭があり、食べ物への感謝をしてきたという事を教えることはとても大切なことです。
そしてその時には、「いただきます」と「ごちそうさま」も同時に教えるべきものかと思います。
たなつもの百(もも)の木草(きぐさ)もあまてらす
日(ひ)の大神(おおかみ)のめぐみ得えてこそ
朝よひに物(もの)くふごとに豊受(とようけ)の
神のめぐみを思へ世の人
この二首は本居宣長作の食物への感謝の歌で、以前は食前食後に唱えたものだそうです。現在も神職の方々は唱えており、伊勢の神宮会館等、神社関連の施設の箸袋にはこの歌が記載されていることがよくあります。
「たなつもの」とは、棚に盛った食物とか、田根(種)つ物、すなわち五穀を指すもの。百の木草は色々な生き物を指すのです。これらのものは、太陽の恵みがないと成長できません。日の大神こと天照大御神は、日本の古代からのありがたさの表れです。
また豊受の神とは食事を司る神で、伊勢にお鎮まりになった天照大御神(内宮)の食事の神として迎えられて御鎮座されたのが下宮です。「うけ」「うか」とは、食物を指した言葉です。稲荷神社の御祭神は「宇迦之御魂」で、この宇迦も食物のことです。
生活が大地に根付き太陽の恵みを仰ぐことから深い信仰が始まったといいます。世界各地の古代信仰がそうです。神話から続く世が続く世界で唯一の我が国、日本で、食事前の「いただきます」と食後の「ごちそうさま」が自然への感謝の言葉としてあるのは当たり前ということです。
それを用意してくれた人々への感謝もあるというのはあくまでも後付けで、本来は両方とも自然への感謝なのです。
それぞれ、一拝一拍手して歌い、その後で食前は「いただきます」、食後は「ごちそうさま」となります。
神嘗祭、新嘗祭の日だけでもお食事の時には、ぜひこの二首を唱えていただき、お祭りに感謝いただきたいと思います。
神職で歌手でもある涼恵さんはこのたなつものの和歌を盛り込んだ歌を歌われています。日本の原風景である瑞穂が編みこまれた素晴らしい歌詞です。
お米を食べることは日本人の身体にもあった健康的な食生活を促します。また、お米を食べることは、ただそれだけで誰もが国を守る第一歩ができる食事でもあります。さらに、古来からお米を食べ続けた我が国では、お米を食べるということはご先祖様と同じ食の体験を共有するということでもあるのです。
そして、万葉集では東人も歌い、記紀では神様の時代から続いてきた、つまりそれほど大昔から続けられてきた収穫のお祭り。そのように長い期間続けられてきた生きたお祭りがある国なんて、そうそうありません。そのような、少なくとも2千年は続いているだろうお祭りを、味あわないなんてそれこそもったいない、と思うのです。
竹田恒泰さんは、「神無月は、神嘗月だ」と語っていました。
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