先日紹介した「和歌で読み解く天皇と国民の歴史」ですが、中途半端でしたのでその続きです。

 

この著書では、皇室の二つの家訓が何度も登場します。それは「天壌無窮の神勅」と「神武建国の詔」です。この二つについてはこのブログでも何度か取り上げていますが、この二つが皇室の家訓としてあったから、皇室が長く続いてきたと書かれています。これは皇室が貧窮した時代にも、また幕府に抑えられた時代にも天皇と皇室を支えてきたものだと。これはやはりここで何度も取り上げている「FULL POWER」に書かれていることとも通じています。つまり皇室が長く続いてきたのは、その背景に長く続いてきた歴史とその皇統の歴史を伝えてきたことによる精神的支えがあったから、ということです。そしてこれをまた、民、国民も支えにしてきていたということなのです。なぜなら、天皇=我が国であるからです。ただし、大昔の一般の民衆はそこまで詳しくは知らなかったでしょう。しかし支配層は知っていました。最近地元の歴史などを追っていて、実は大昔から日本の津々浦々まで色んなことが知られていたんだということをよく考えます。なにしろ、縄文文明が連綿と続いてきた列島ですからそれも不思議はないわけです。

 

この家訓が一つではなく二つあったことはとても重要です。この二つあることにより、天皇が独裁政治を行わない国となり、長く国民から支持される国となったのです。

 

「天壌無窮の神勅」とは簡単にいえば、天照大神がその孫である瓊瓊杵尊に鏡と勾玉と剣を渡して、地上に降りて平和に統治し、子孫が治めること、と鏡を天照大神として祭ることを告げたものです。つまりこれにより、皇室が日本を連綿と治めてきたわけです。

 

「神武建国の詔」とはさらにこれを補完して、「天皇は国民全体のための政治を行います。それが私の先祖のご命令なのです。私はここに都を造って一つの家のように仲の良い国を造りますから、みなさん協力してください。」と宣言したことをいいます。

 

そしてこれを天武天皇の時代に体系的に記録したのが古事記と日本書紀です。ここには皇室だけではなく出雲神話など、皇室以外の神話も記載されています。これを他家の神話を盗んだとかなんだとかと言う人がいますが、世界の歴史をみれば多民族・他地域の神話を抹殺するのが当たり前であることが普通ですから、日本は古来からこうした融合を行ってきた国であるという証ともなっており、著者は「日本神話の体系性は他神話を排除せずに取り入れた結果である、と評価する視点も持って研究すべきではないか」と、書かれています。

 

以下、本書から印象的な文をあげていきます。以下の文にはセットで天皇の御製や言葉が挙げられています。御製については本書で味わっていただきたいと思います。

 

・古い日本神話に端を発した「国王が国民のために祈る」という伝統を古代・中世・近世の天皇が受け継ぎ、さらに二十一世紀の天皇にいたるまで連綿と受け継いでいるという事実は、世界に類を見ない驚くべき奇蹟なのではないでしょうか。

 

・防人の歌の中には防人であることを誇りに思い、忠実に任務を遂行しようとする気持ちを詠んだ歌が複数あります。しかもそれらを詠んだのは天皇の身近にいた人たちではなく、地方の無名の人たちです。つまり天皇や権力者のご機嫌を取る必要のない人たちが辛い防人の仕事を誇る歌を詠んだのです。

⇒これについては東日本大震災の時の自衛隊の方々の心を例に、これが国を守ること説明されています。つまり自然ない愛国心です。

 

・日本の歴史はこのように「天皇の二つの家訓」を知る階級が次第に庶民階級へ下ってゆき、その結果、天皇を敬愛して「二つの家訓」を実現しようと願う日本人民の数が増加していく歴史でもあるのです。

 

・このように日本の歴史上最も困窮な状態におちいった天皇たちは「天壌無窮の神勅」と「神武建国の詔」を信じることによって堂々と室町幕府と渡り合い、さらに日本の国の分裂を防ぎ止めたのです。

⇒これは戦国時代の三天皇のことですが、こうした事を私達は知ることによって困難に立ち向かう術を習得できるというものではないでしょうか。こうした難関から、自ら逃げた天皇は御一人もいないということは特筆すべきことの一つです。

 

・孝明天皇は「貿易を行うことは、昔から互いに信じあわない国に許すと、国体にも関係することであるから、たやすく許すことはできない」と語っています。

⇒これは現在、何度も裏切られ、また他国を裏切っているのを目の当たりにしている国と今までと同様の取引を行っているのが理解できないということが沢山あります。孝明天皇は先見の目があったのだといえますが、今からでもこうした事を考えてほしいものです。

 

・孝明天皇はこの詔のなかで、世界全体が穏やかに治まって萬方(四方の国々)の災難が亡くなることを願っているのです。これは孝明天皇が単に日本の平和だけを願っていたのではなく、夷国を含めた世界全体の平和を願っていたことを示しています。

⇒竹田恒泰氏の著書にもありましたが、本書を読んでも孝明天皇の印象が随分変わるのではないかと思います。

 

・「一家族としての日本国家」が天皇と国民に意識されるようになったのは、日本が西洋列強のアジア侵略に直面して、「これは危ない。一つの強い国家を作らなければ侵略されてしまう」という危機感を持ち始めた幕末以降のことです。

 

・なんと「天皇家の二つの家訓」は天皇の自由を制限して国民の自由を拡大しているのです。

 

・千五百年以上の伝統を持つ天皇の権威が、たかだか七十五年の歴史しか持たない今の憲法(しかもメイド バイGHQ)の権威を圧倒し始めた。これが新時代「令和」が始まった時の「天皇と国民の関係」であったのです。

 

・東日本大震災の前日まではNHKや多くの新聞・テレビが「自分の生活が第一である。国より個人を優先する」という言葉を広めていました。それが震災の次の日からは、NHKをはじめとするあらゆるメディアの論調が「周囲の人と助け合おう。国や社会が壊れたら元も子もない」に変化したのです。元々世界中のすべての人間には、「家族を大切にするように自分の国を大切にしたい」という自然な意識が潜んでいます。

 

・どの国も誇り高い国民は、たとえ戦争に勝っても降伏した敵を虐待するようなことはしません。これも世界共通です。

 

・このように「自分の国を愛する自然な気持ち」が健康に育つならば、敵兵が感謝して世界が尊敬する様な結果をもたらします。

⇒これは日露戦争後の捕虜の厚遇の話からです。後にドイツ兵も厚遇しこれは以前「バルトの楽園」という映画になりました。

 

・日本人が「日本の中心は天皇である。日本に天皇がいて何が悪いか」と中国・韓国を含む外国の人たちに堂々と(威張るわけではなく)主張できるようになったとき、はじめて日本人はまともな思考のスタートラインに立ったと言うことができるのです。そもそも日本が千年以上も外国から侵略されずに繁栄を続けた背後には、歴代天皇の苦闘といってもよい努力がありました。

 

 

最後に、恒例の目次紹介です。見出しも全て入れましたのでより本書の内容がわかりやすいと思います。この目次を見ると本書への興味が物凄く湧くのではないかと書いてます。

 

プロローグ

 今の高校生と三十年前の高校生の違い

 なぜ織田信長は天皇を滅ぼさなかったのか

 天皇存続の理由は学者にも分からない

 天皇と国民の関係を説明する


序章 天皇家の二つの家訓
Ⅰ 親しく国を治めた天皇の天皇意識
第一章 飛鳥時代まで

第一節 親子でもないのに「お父さん」と呼ばれた応神天皇

 吉野の人たちが天皇を「お父さん」と呼ぶ

 国民と共に豊作と繁栄を喜ぶ天皇

第二節 三年間無税にして御所が雨漏りした仁徳天皇

 聖の帝、仁徳天皇

 仁徳天皇の歌*

第三節 謙虚だったのに国民から誤解された雄略天皇

 矛盾する雄略天皇への評価

 雄略天皇は謙虚で繊細な天皇であった

第四節 大旱魃のとき神に祈って雨を降らせた皇極天皇

第五節 神に祈って疫病を治めた崇神天皇

 疫病で国民の半分が死亡

 疫病の終息と神への感謝

第六節 国家と国民のために神に祈る天皇


第二章 奈良時代

第一節 花や季節を愛でて国民と共に楽しむ天皇

 天皇を囲む花見の宴

 現代につながる花見の宴

第二節 防人の歌・・・辛い任務に歎き苦しむ

第三節 防人の歌・・・国防の任務を誇りに思う

第四節 防人の歌・・・辛い任務を歎きながらも国防の任務を誇る

 揺れる防人の心

 決断した自衛隊員の心

第五節 山上憶良の「貧窮問答歌」

 貧窮問答歌の内容

 『万葉集』に天皇批判の歌はない

第六節 「海ゆかば」の歌は天皇を恋慕う歌

 「海ゆかば」の歌とは

 「海ゆかば」は軍歌ではなく恋闕(れんけつ)の歌

第七節 大伴家持の揺れる武士道

 大伴家持の卑怯・軟弱な歌

 文弱な詩人・大伴家持にもあった恋闕の心

 

第三章 平安時代

第一節 「天皇」も「国民」も歌に詠まなかった平安の歌人

第二節 天皇を敬愛する権力者たち

第三節 神であり人間でもある天皇

 神々しい天皇

 居眠りする天皇

 親しい人間である天皇

第四節 のちに自分の行為を恥じ入る天皇

 枯れた御所の梅の花

 のちに自分の行為を恥じ入る天皇

第五節 平安時代は「神武建国の精神」が衰弱した時代

 「寛平の御遺誡(ごゆいかい)」

 衰弱した「神武建国の精神」

第六節 奈良・平安時代に天皇批判の歌が無い理由

 『日本書紀』には天皇を批判した言葉がある

 和歌は「批判」を嫌う

 ほんとうは「天皇批判」の歌も作られていた?

 「天皇を批判する歌」は初めから無かった

第七節 奈良・平安時代に国民の生活を思う御製が無い理由

 和歌には痛切な心情や崇高な美を詠め

 「承久の乱」を経て、国民の困苦が天皇の痛切な悲嘆に


Ⅱ 権力を失った天皇の天皇意識
第四章 鎌倉・室町時代

 突然、民を思う御製が出現した『新古今集』

 続出する「民の生活を案じる御製」

 権力なき天皇は存在意義なし?

第一節 「天皇の国民を見る目」の激変

 天皇は権力の行使よりも責任を担う人

 金も権力もない現実の天皇

第二節 権力を失った天皇の天皇意識

第三節 金と権力が無くても天皇が真の統治者

 神代の昔から天皇が統治者

 天皇は国のためなら戦う王

第四節 鎌倉・室町時代の「国民の天皇を見る目」

 天皇を尊崇し、時に利用して権力者


第五章 皇統の危機を救った二つの家訓

第一節 足利義満の横暴による皇統の危機

 足利義満の「太上天皇」称号の要求

 義満、女院の称号を要求

 止まぬ義満の皇位要求

 皇位後継者問題による皇統の危機

第二節 権威が落ちた時に天皇を支えた「二つの家訓」

 祖父・父・子の三天皇

 貧しく権威が落ちても、日本の統治者は天皇

 国が乱れて国民が苦しんでいるのは私の責任

 仏に個人の救いを求める

 皇祖神に国家の救いを求める

 無力な自分が天皇でいて良い理由は「神勅が約束したから」

 神勅は今も生きて国を平和にしている、神勅を信じよ

 世界を平和に導く神勅を仰ぎ伝えよ


第六章 江戸時代

第一節 「幕府に屈服」から「幕府への介入」へ

 幕府に組み伏せられた天皇

 天明の大飢饉と「御所千度参り」

 天皇の本務は政治を清らかに進めること

第二節 「幕政への介入」から「幕政を指導」へ

 「幕府は頼りない」と孝明天皇

 優美と武を保持する孝明天皇

第三節 国民の天皇を見る目

 天皇の責任をなくした徳川家康

 「二つの家訓」を実現しようとした勤王の志士たち


第七章 孝明天皇の「攘夷」は国民のため

第一節 孝明天皇は頑固な攘夷論者ではなかった

 欧米の態度を調べてから攘夷を決心

第二節 孝明天皇は外交にも「神武建国の理想」を求めた

 日米和親条約に不安を感じた孝明天皇

 安政の大獄に怒った孝明天皇

第三節 孝明天皇は「戦え」と言ったのではない

第四節 孝明天皇は世界平和を願った

 信じあえる国同士でないと国交は開けない

 孝明天皇は世界の平和を願っていた


Ⅲ 国民と共にある天皇と国民の意識
第八章 明治時代

第一節 「大家族国家」を目指してできた中央集権国家

第二節 明治天皇の天皇意識・・・大家族国家の父としての天皇

 大家族国家の父としての自覚

 「二つの家訓」を継承しようとした明治天皇

第三節 国民の天皇を見る目・・・天皇否定論の登場

 最初の天皇否定論者は幸徳秋水

 ルソーは「時代遅れ」と思われていた

第四節 天皇を神のように崇め、父親のように慕った国民

 福沢諭吉の尊王論

 内村鑑三の天皇敬愛

 国民全体が天皇を神と崇め、父と親しんだ


第九章 大正時代

第一節 明治天皇と変わらない「天皇意識」と「国民を見る目」

 明治天皇と同じ天皇意識 

第二節 明治天皇と微妙に異なる「天皇意識」と「国民を見る目」

 さまざまな大正天皇の御製

 国民の心の分裂を憂える大正天皇の御製

第三節 国民の天皇を見る目・・・「二つの家訓」への冷笑と信頼

 「二つの家訓」を冷笑する一部知識人

 「二つの家訓」を信頼する多数の国民


第十章 昭和時代

第一節 敗戦までの昭和天皇の天皇意識

第二節 昭和天皇と特攻隊員

 「天皇の発言」と称する、情報源なき記事の氾濫

 『昭和天皇独白録』

第三節 特攻隊員たちは昭和天皇をどう見たか

 出身回想によって微妙に分かれる「天皇を見る目」

 東大でマルクス経済学を学び特攻隊員になった佐々木八郎

第四節 「人間宣言」による「昭和天皇の天皇意識」に変化はなかった

第五節 「二つの家訓」に関する昭和天皇の意識も不変

第六節 敗戦までの国民の天皇意識

 右翼と左翼の対立

 津田左右吉の君民一体論

 美濃部達吉「国家の最高の源泉は天皇」

 沈黙する一般国民

第七節 敗戦以降の知識人は天皇を全否定

第八節 敗戦以降の一般国民は天皇を無視・冷笑

 「天皇なんて戦犯よ」

 戦後の本格的な天皇敬愛論者


第十一章 戦後に分裂した天皇意識……敬愛か侮蔑か

第一節 昭和天皇の地方巡幸

 天皇が全国を回って国民を激励

 「天皇制打倒」と「天皇陛下万歳」

 広島で市民五万人が「天皇陛下万歳」

 ふたたび「打倒天皇制」対「天皇陛下万歳」

 昭和天皇の嬉しそうな笑顔

第二節 戦後の時代を「バカの時代」と罵った三島由紀夫

第三節 戦後のバカ者の出発点・・・『きけ わだつみのこえ』

 戦争については「日本がすべて悪い」

 世界中の職業軍人は異常な人間ばかり

 「バカの絶叫」

第四節 偽善と詐術が拡散した昭和・戦後

 偽善の出発点も『きけ わだつみのこえ』


第十二章 平成時代

第一節 昭和天皇と変わらない天皇意識

第二節 昭和天皇の意識を一歩進める天皇意識

 「国民の自由」を強く願う天皇

第三節 令和の若者たちの「天皇観の保守的転向」

第四節 国民全体の「天皇観の保守的転向」


エピローグ

 国民の意識を変えた東日本大震災

 外国に向って開かれた愛国心と皇室敬愛

 

以上

*上記本の中で仁徳天皇の歌とあるのは実は、平安時代に藤原時平が仁徳天皇になりきって詠んだ歌。本書にはその指摘がなかったことをここに書いておきます。

 

復刻版初等科国史には、美しい言葉で神武天皇の建国の物語が記されています。

 

 

 

 

 

 

これ重要↓

 

 

 

 

 

🌸🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎