「棺はとても綺麗でしたね」
照子は明るい口調でそう言った。私はどうやら無意識に悲しい表情を表に出していたようだ。私はどうも嘘をつくのが下手らしい。
「ええ、今もあの子は棺の管理を続けているんですよ。100年間ずっとです」
「強い子ですよね、あの子は」
「ええ、本当に」
照子は私をじっと見つめている。
「どうかしたんですか?」
「アウター、あなた、髪を切ったんですね」
「ああ、これですか。そうです、似合いませんか?」
「似合ってますよ、でも、、」
「でも、なんです?」
照子は何も言わない。ただ黙って私を見ている。
照子はきっと、私が髪を切った理由に気がついたんだろう。でも私の口からそれを照子に話すわけにはいかない。そして照子もそれを理解しているようだ。
私は妹を守りたい。そして、照子。あなたのことも守りたい。その為に私は自分が犠牲になることを決めた。
この街の影はみんな私が背負う。全てを受け入れよう。そして私はこの街と運命を共にする。
その代わり、妹と照子にはこの街から出て行ってもらう事にするんだ。
嵐の時代はもう終わる。今度の嵐を乗り切れば、きっと青空の世界が私たちの前に現れる。その世界には太陽が必要だ。それが照子。
そして、妹には、アスタルテにはこんな薄暗く狭い世界ではなく、広く美しい世界で生きてもらいたいんだ。
「アスタルテは今、アイドルをやっているんですよ」
「アイドル?」
「照子のかわりに住民の皆さんに笑ってもらうんだって言って、毎日毎日、街の皆さんに声をかけ続けています」
「それがアスタルテの選んだ生き方なんですね」
「そうです。それに、人前で歌ったり、踊ったりもしていますね」
「それって、私のかわりにやっているんですよね?私はそんなことした覚えはありませんけど、、」
「照子は古いんですよ。考え方が固いんです」
照子はムッとしたように頬を膨らませる。古風というか、なんというか、照子は見た目は若いのだけと考え方が古すぎる。真面目すぎると言ってもいいだろう。もう少し遊び心があってもいいのに。ちょうど今、外ではしゃいでいるであろう希のように。
「アスタルテの事は分かりました。それで魚はどうしたんですか?」
「魚は私に賛成してくれましたよ。そもそも管理者に魂の実を与えてはどうかと提案してくれたのが魚なんです」
「魚が、ですか?」
「ええ、私は迷いました。照子に禁止されていましたからね。でも、私たちだけで街の復興は不可能である事は分かっていましたから、実行しました。街が死んでしまうよりはいいと考えたんです」
「魚の目的は街の復興だけではありませんよね」
「ええ、魚が管理者の力を求めたのは、魔法使いの呪いと戦うためです」
「アウター」
「はい、なんでしょう?」
「魚は魔法使いを殺した後、自ら死を選ぶつもりなのでしょうか?」
「それは私にはわかりません。本人に聞いてください」
「では、質問を変えます。アウター、魚は私を恨んでいましたか?」
「それも私にはわかりませんよ、照子。本人に直接聞いてみてください」
照子はまた顔を膨らませた。ちょっと意地悪しすぎただろうか。魚は照子の事を恨んでなどいなかった。それは私も知っていた。だから教えてあげてもよかったんだけど、もう一つの質問が引っかかった。
魚は自ら死をえらぶつもりでしょうか?
本人に聞いたわけではないが、おそらくその通りだろう。魚はきっと魔法使いを裏切った時から、自殺する事を決めていたはずだ。彼の目的は魔法使いの存在をこの世界から消滅させることなのだから。