文字や数字は、大変、便利である。どのようにでも、加工できる。文字や数字を使えば、あらゆるものを描くことができる。抽象化の強みである。
胃は、体内に取り入れた食物、例えば、りんごを消化する器官であるが、脳は、実存するりんごではなく、りんごにまつわる情報一切を処理する器官である。
レストランには、よく、ロウなどで精巧に作られた食品サンプルが置かれている。本物のりんごの横に、精巧に作られたりんごの食品サンプルが並べられていれば、視覚などからの情報によって、「全て本物のりんごだ」と、脳が処理、判断してしまうことは、あり得る。
しかし、胃は、りんごにまつわる情報ではなく、実存するりんごそのものを処理する器官なので、りんごの食品サンプルが、誤って、胃に放り込まれても、りんごと見なして消化することは、あり得ない。りんごと見なす見なさないは、胃ではなく脳の仕事だが。
ことほどさように、現実を正しく把握しながら考えるということは、難しい。人は、妄想に陥っても、その本人が自信家で、妄想に陥っているのではないかという疑いを一切持たなければ、妄想に陥っていることに、永遠に気付かない。
先月、阪神の三宮駅から近鉄奈良駅までの直通電車に乗ったとき、座れたので、文庫本(養老孟司さんの『唯脳論』)を取り出し、ぱらぱらと読んで、そんなことを、思った。
五感を使って確認し、他人の意見や表情も大切にして、妄想、独り善がりに陥らないように気を付けて、精進して参ります。
神奈川県横須賀市にて
佐藤 政則