2024年6月3日~6月8日 シアタードラマシティ・星組公演
●ミュージカル・ロマン「夜明けの光芒」 脚本・演出/鈴木圭
イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの代表作「大いなる遺産」は、これまで幾度も映像化され、宝塚歌劇でも1990年に月組によって上演された、世界中で愛され続ける不朽の名作。波乱万丈の人生を歩むピップの成長譚を、新たなミュージカル作品として上演。
90年版は映像でしか見てませんが、太田哲則氏の脚本でさほど記憶に残るものではありませんでしが、重奏になる楽曲が印象に残りました。
デビュー以来、佳作を発表している鈴木氏が今回どんな感じで原作をアレンジするのか?
星組二番手スター暁千星のドラマシティ初主演、瑠璃花夏は別箱初ヒロインであります。
6月4日12時公演、15列目で観劇(劇場設備不良があり、開演が10分遅れ)。
※ネタバレ注意。
物語としては、突然掴んだ富と栄光によって、その傲慢さで失ったものに気付くまでという、逆サクセスストーリー。
時間の都合で重要な人物が、ナレ死的に台詞だけで死んだことになっているのはちょっと残念な部分はあったものの、脚本の起承転結もしっかりしていて、物語の盛り上げ方も上手かったです。主演者とヒロインもさることながら、脇を固める生徒も上手い人が多くて、見ごたえのある話になっていました。ちょっと惜しいなと思う生徒もいましたが・・・。
ダンスが売りの暁に芝居中心の作品はどうかな?と思いましたが、フィナーレでは結構踊っていたのでそこで辻褄合わせしてましたね(笑)。
カッコ内は90年月組公演時の配役。
主演の暁千星は、貧しい義兄の鍛冶屋で働くフィリップ・ピリップ(ピップ)。(剣幸)
田舎での生活に退屈しながらも、憧れの女性を想い続け、ひょんなことから莫大な遺産を譲り受けたことで、人生がガラリと変わります。月組時代の幼かったアリが、星組で堂々とセンターで芝居をしていることに、成長を感じますね。お芝居も歌もかなり安定してましたし、遺産を得たことで傲慢になっていくことを自身は気づいていない様が、なんとももどかしくて「早く気づけ!」と忠告してやりたくなりましたね(笑)。そう思わせるのは、どこか憎めない部分や幼い部分も残しつつあるからでしょうか。でもエステラへの一途な思い、義兄への恩など共感できるところを多く感じました。フィナーレではバリバリに踊っていて、いつかダンスの星組になる日も近いなと実感しました。
初ヒロインの瑠璃花夏は、ミス・ハヴィシャムの養女エステラ。(こだま愛)
ミス・ハヴィシャムが自身の過去の男性への恨みを晴らすために、復讐の道具のように冷酷に育てます。しかしその美しさ故に男性を虜にします。彼女もまた過去の生い立ちが明かされると、被害者だったことが分かっていき、自身がそれを反省し後悔していくので、最後にはただ綺麗なだけでなく、心も美しくなって行くので、魅力的なヒロインに仕上がっていました。これまでは新公ヒロインはしていたものの、脇で二番手的な役どころを務めていたので、今回のようなちゃんとしたヒロインも出来たので、役の幅が広がったと思います。元々上手い人なので、本公演でも活躍の場が多くなればと思います。
二番手格に天飛華音。ピップの闇と大地主の嫌味なベントリー・ドラムルの二役。(久世星佳)
この役が非常に効果的で、闇とピップと敵対する男というどっちも別々の生徒が演じてもいいような役を、天飛が一人で演じたのも面白かったですね。闇はピップ自身を苦しめているし、ドラムルはエステラと婚約してしまう本当に憎たらしい男で、どっちも目力が強くて、ギラギラしてましたね。最後にいつの間にかドラムルが死んでたのが残念でしたけど。
ピップの義兄で鍛冶屋のジョー・ガージャリーを組長の美稀千種。(葵美哉)
お人好しで、心優しい男を好演。最後までピップの味方でいてくれてます。なのになんであんな嫁をもらったんやろ?
その妻ジョージアナを澪乃桜季。
ピップに対しても冷酷だし、ホントにいやーな女でしたね。そりゃ死んだらすぐジョーも再婚するわ(笑)。
脱獄囚のエイベル・マグヴィッチを輝咲玲央。(汝鳥伶)
上手いなぁ・・・上手すぎる。ジャン・バルジャンのような感じで、ホンマにオッサンにしか見えん。物語のキーマンだけに、謎めいていて絡まった糸が徐々に解けて、謎が明かされる過程が面白く、宝塚でなければ彼が主演になってもいいぐらい。
弁護士のジャガーズを朝水りょう。(未沙のえる)
ここもまた上手い。全てを最初から知りつつも、ピップの動向を見ているという、いい人なんだかどうなんだか?というのも面白い。
その女中のモリーを紫りら。(京三紗)
最初からなんらかの鍵を握ってるだろうなと思わせてましたが、やっぱりそうでした。童顔な彼女が徐々にこういうちょっと中年女性も上手くなっていってます。
ピップの同居人でミス・ハヴィシャムの親戚のハーバード・ポケットを稀惺かずと。(涼風真世)
どこまでもイイ奴です。それ故に物足りなさも感じましたが、最後には結構活躍してました。早霧せいな似の風貌にスター性を感じました。
ピップの幼馴染のビディを綾音美蘭。(朝凪鈴)
ピップに片思いしてましたが、その思いは叶わず。それでもピップを思い続けて、ジョーと結婚します。可愛かったなぁ、ここまで一途に思い続けるなんて。
そしてこの物語最大の鍵の女性、ミス・ハヴィシャムを七星美妃。(邦なつき)
ちょっと貫禄不足でしたね。老け役にしても声が若過ぎました。専科を使うか、紫りらにするかした方が良かった気がします。
ほとんどの役が好演し、主演者だけでなく脇も芝居をきっちり固めていたので、思いのほか面白い作品に仕上がっていました。