羊と鋼の森 ~ 422Hz ~ 444Hz | 愛唱会ジャーナル

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宮下奈都「羊と鋼の森」(文藝春秋 2015.9, 第10刷 2016.4)を読んだ。

 

版元による内容紹介 ≪ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか-。ピアノの調律に魅せられた一人の青年が、調律師として、人として成長する姿を、温かく静謐な筆致で綴る≫

 

 

当方にしては珍しく純文学的な小説を読んだものだ。積極的に選んだ結果ではない。偶々余暇をのんびり過ごそうと手近に見掛けた本を手に取っただけだ。

 

主人公の独白のような心理描写や追想、空想などは時に哲学的観念論あるいは独善的な思想の吐露のようでもあり、退屈するので飛ばし読みになる。

 

それでも最後まで読み通したのは、随所に散りばめられた著者の音楽に関する薀蓄に啓発されたからだろう。

 

演奏における標準音、いわゆる“ラ”の音の振動数は普通440Hzと了解されているが、昔はこれより低かったのが漸次高い音が好まれるようになり、今は場合によって442Hz、444Hzを窺う情勢だそうだ。

 

モーツァルトの頃は422Hzの“ラ”で演奏されていたとか。今は約半音高いのだそうだ。

 

楽器は多少ピッチが上がっても機械的に対応できるからいいが、歌い手には厳しい試練だ。高音域では半音上げるのにヒーヒー悲鳴を上げることもある。標準音の上昇はどこまで続くのか。

 

音階の間隔を律する方式に現在一般的な平均律は便利で使い勝手が良いと、ピアノの調律もこれによるのが普通のようであるが、和音にとっては不利な面があり、演奏技術で工夫することもあるそうだ。

 

平均律の不利は転調において覿面にあらわれるが、優秀なピアニストはペダル操作で音の濁りを押さえることが出来る(と著者は述べる)。

 

当方のような素人には、平均律も純正律も聴き分けられないと思うのだが、世の中のクラシックファンはどの程度感知しているのだろうか。

 

なお、表題にある“羊”は、ピアノの絃(こちらは“鋼”)を叩くハンマーのフェルトが羊毛で出来ていることから来ているそうだ。