ロシアの政治経済を専門にされ、国際アナリストとして大活躍中の北野幸伯氏の最新刊

 

プーチンはすでに、戦略的には負けている 戦術的勝利が戦略的敗北に変わるとき』 ワニブックス 4月22日

 

をご本人から頂き拝読した。

 

今回の本は、そのタイトルから分かるように、プーチン大統領がウクライナ侵攻を行う事でロシアの国益にとって「戦略的」に大きな過ちを犯したことを指摘したものである。

 

 

(Amazonの詳細欄より以下転載)


三年目を迎えたウクライナ戦争。
現下、ウクライナ軍は要衝からの撤退を余儀なくされ、ロシア軍優位な戦況にある。
さらに、プーチンは2023年3月17日、大統領選挙で圧勝し、5選目に突入した。
それでもプーチンのロシアは「戦略的な敗北」に陥ると著者は言う。


ウクライナ戦争後のロシアは、

「国際的に孤立した」

「『旧ソ連の盟主』の地位を失った」

「中国の属国になった」

うえに、最も恐れていた「NATOの拡大」も招いてしまったからだ。

本書はロシアがなぜそういう窮地に立つことになったのかを、「戦術的思考」の勝利が結果的(戦略的)には大失敗に終わった歴史上の例を挙げると同時に、プーチンの履歴と思考経路を基に考察していく。
さらに、我が国と我々にとって、将来に向けてどのような思考が必要になるのかを、明確に提示する。歴史に学んで未来を拓くための重要な指南書である。


【著者プロフィール】
北野幸伯(きたの・よしのり) 
国際関係アナリスト。1970年生まれ。
19歳でモスクワに留学。1996年、ロシアの外交官養成機関である「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)を、日本人として初めて卒業(政治学修士)。
メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」(RPE)を創刊。アメリカや日本のメディアとは全く異なる視点から発信される情報は、高く評価されている。
2018年、日本に帰国。
著書に、『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』(草思社)、『隷属国家日本の岐路』(ダイヤモンド社)、『日本人の知らないクレムリン・メソッド』(集英社インターナショナル)、『日本の地政学』『黒化する世界』(ともに育鵬社)などがある。

 

(転載終了)

 

 

上記のプロフィールを見ればお分かりの通り、北野氏はロシアの政治経済を現地で分析してきた日本有数のロシア通である。

その北野氏が、「プーチンのウクライナ侵攻は戦略的には大失敗だった」と述べている。

 

この本のタイトルにある「戦略的」という言葉が重要で、

「戦術的」という言葉と次のような違いがある。

 

短期的・部分的なことを「戦術的」とよび、長期的・総合的なことを「戦略的」と呼ぶ。

 

この違いを北野氏が本書で述べている例えで解説すると、

 

「AさんとBさんという仲が悪い二人がいた。

ある日、AさんがBさんを襲撃しボコボコにした(Aさんの戦的な勝利)。

しかし、その後、BさんはAさんを傷害罪で訴えた。

その結果、Aさんは逮捕され、刑務所に入れられ、仕事も失った(Aさんの戦的な敗北)」

 

このように、実際の戦闘ではAさんはBさんに勝利したが、長期的に見れば行動に見合わない様々な不利益をAさんは被ることになった。

 

この観点からするとプーチン・ロシアはウクライナの4州を支配しているように「戦術的」には勝利しているが、「戦略的」には敗北しているという。

「戦略的」に誤りであったとする理由は以下の通り。

 

(Amazonの詳細面より転載)

 

ウクライナ戦争後のロシアは、

「国際的に孤立した」

「『旧ソ連の盟主』の地位を失った」

「中国の属国になった」うえに、

最も恐れていた「NATOの拡大」も招いてしまったからだ。

 

(転載終了)

 

他にも、

「自国の若い兵士に多数の死傷者をだしている(欧米側の推計では約30万人~50万人の死傷者)」

 

「徴兵を恐れて数百万人が国外脱出をした」

 

「兄弟国家であり一定数の親ㇿ派がいたウクライナ(戦争前は最大野党の生活党は親ロ派だった)を完全に反ロシア国家にしてしまった」

 

「北朝鮮のような異常な独裁国家を頼らざるを得ない状況に追い込まれた」

 

「戦争に対する言論弾圧を強化することで全体主義化し、民主主義からの西側批判という立場の利点をなくしてしまった」

 

「国際決済取引網であるSWIFTから排除され、国際貿易に著しい支障をきたした」

 

「資源や製品を輸出する欧米という最大の顧客を無くした」

 

このように戦略という長期的・大局的な観点から見ると、プーチン・ロシアのウクライナ侵攻は明らかに誤りであったと指摘できるだろう。

 

ちなみにこの本では、もしウクライナ侵攻を行わなかった場合、ロシアには殆ど不利益がないことも詳細に解説している。

つまりウクライナに侵攻しなければロシアの存続が脅かされる事態になった、というロシア政府の言い分は誤りであることを様々な事例をもとに伝えている。例えば殆どありえないことだが、最も懸念されていたウクライナのNATO加盟がすぐに実現した場合でさえロシアにはそれほど脅威にならない理由など。

詳しく知りたい方は本を購入してください。

 

また北野氏は「善悪」と「勝ち負け」を別にして考えていかなければならないという。

 

例えば「戦前の日本は悪いから負けたのだ」、という左派を中心とした意見。

これは誤りである。

善悪ではなく弱かったから日本は負けたのだ。

 

一方で、戦略的には善悪を無視することも難しい。

何故なら、国際法を一方的に無視したり、極悪非道な事をすれば、長期的にはその国家の信頼を損ねるからである。

その一つの事例として北野氏は2003年のブッシュ・ジュニア政権におけるイラク戦争を述べている。

米国はこの国際法を無視した戦争を強行したことによって国際的な信頼を損ねたと。

 

私はこれに911同時多発テロ(米国政府の自作自演テロ)も加えたいと思う。

この自作自演テロとその後のアフガン戦争、イラク戦争の悪事が、その後に世界中で暴露されてきたために、世界における米国の威信と信用は地に落ちた。

 

この事は世界だけでなく米国内の政治不信をも高めている。

その不信感の表れがトランプ現象(最近では若年世代から最も支持を得ているロバート・ケネディJR現象)であり、2021年に起きたトランプ支持派による米国の連邦議会襲撃事件であった。

 

現在の米国では、世論の約4割が

「連邦議会は秘密結社(ディープステート)によって管理されている」

と述べる状態になっている。

これは米国支配層のディープステート・秘密結社権力にとって戦略的な痛手であろう。

 

プーチンのウクライナ侵攻も同じである。

国際法や国際的な世論を無視して、ウクライナに侵攻したために、国際的な信用を大きく損ねてしまったのだ。

 

善悪と勝ち負けは別物だが、長期的に見た場合、善悪を無視する行動をとることは、戦略的には痛手となる事が多いのである。

 

つまり、戦略的に行動するには、

国際的に許容されるという点での善悪と、

勝ち負けというパワーの面からの

両方の観点からバランスをとった行動をしなければならない。

 

プーチン・ロシアはウクライナ侵攻によって、長期的な戦略的観点から見れば

侵略によって自国と他国の住民に殺し合いをさせているという「善悪の面」において痛手を被り

自国に様々な不利益をもたらしているという「勝ち負けという面」において痛手を被っている。

 

つまり実行するべきではなかった愚かな行動だったという事である。

 

北野氏も以前の本では、ロシアの政治経済を独立させ、経済成長させたとしてプーチン大統領を評価していた時期がある。

この本では、プーチンに対する批判だけではなく、ウクライナ侵攻前までにプーチンがナショナリストの英雄として、ロシア国民だけでなく世界中から支持されるようになった経緯も詳しく書かれている。

 

2000年に大統領に就任して以来、ロシア経済とマスコミを支配していた新興ユダヤ財閥を取り締まり、経済成長を実現させ、暴走する米国や国際金融資本に対抗するために反西側連合を作りあげた。

また西側の権力や体制の様々な悪事をRTやスプートニクなどの国営メディアを通じて世界に発信し、西側市民にも大きな影響力を与えた。

 

以下、北野氏の新刊より転載

P135

というわけでプーチンは「ユダヤ陰謀論者」「ロスチャイルド陰謀論者」「アメリカ陰謀論者」「国際金融資本・グローバリスト陰謀論者」の英雄になったのです。

 

 

私もプーチン・ロシアをウクライナ侵攻前までは評価していた。

 

中国や北朝鮮のような全体主義・独裁国家ではなく、強権的とはいえ、まがりになりにも民主主義国家として西側の秘密結社の権力の覇権と戦う存在だったからだ

 

しかし、2021年のウクライナ侵攻で私は評価を大きく変えた。

西側権力に対するという点での姿勢には変化がないが、その方法がウクライナ侵攻では、お門違いの悪手であるからだ。

 

いくら西側支配層の覇権との戦いを掲げたところで、この行動はロシア帝国の復活を目論むロシア・ナショナリズムの暴走に見えてしまう。

 

このように戦略的なミスをしてしまい、不毛な殺戮戦争の泥沼にロシア・ウクライナを陥らせてしまった。

 

ウクライナ紛争を通じた西側の挑発に乗って戦略的に敗北する自滅的な行動を選択してしまったのだ。

 

この一連の流れは「魔術的思考」という観点で読み解くべきだろう。

 

私は戦略的思考を考えるうえで重要な要素として「魔術的思考」という観点をあげたい。

哲学者・犯罪研究家のコリン・ウィルソンの著作で紹介されていたものだが、

魔術的思考とは、

「その人間または集団にとっては強烈なこだわり(執着)を持つものだが、他者には理解(共感)されにくいもの」

という他者からすれば論理的な飛躍や過剰なこだわりを感じさせる思考の一つの癖を表した言葉である。

 

これは、犯罪者の動機によくみられる思考だという。

自分がこだわりを持っていても、他者には共感または理解されないために、そのこだわりを実現する行為が結果的に犯罪になってしまうという事だ。

 

この魔術的思考は、実は多くの人が持っているものであるが、大抵は一つか少数の側面でしか表れてこない。それ以外では、その人間は正常で論理的である。

 

魔術的思考を多数持っていて、それを行動に移した場合、その人間は日常生活を送れなくなるからである(すぐに刑務所か精神病院に収監されるだろう)。

 

この「魔術的思考」と「戦略的思考」がどのように関りがあるのかというと、相手を戦略的に陥れたい場合は、相手が持つ魔術的思考を刺激することが極めて有効だという事である。

 

歴史的に見てもこの魔術的思考を刺激する事で、相手を孤立化させたり、戦争を誘発させたりする事例は多くある。

 

・極右などがもつ国や民族に対するこだわりを基に、国際的な秘密権力の陰謀を述べる人々を差別主義者と糾弾し孤立化・排除してきた。

 

・日本の満州に対するこだわり(米国はここを刺激する事で、日本を挑発し真珠湾攻撃を行わせた)

 

・イラクのサダム・フセインのクウェートに対するこだわり(アラブ・ナショナリズムによる侵略)

 

・ロシアのウクライナに対する歴史的なこだわり(ここを刺激する事でプーチンのウクライナ侵攻が起きた)

 

・中国政府の台湾に対するこだわり(独立を阻止するためには、戦争をも辞さない)

 

 敵対勢力のどこに魔術的思考(その勢力にはこだわりがある所だが、他者には理解されにくい所)があるかを分析し、そこを刺激すれば、その魔術的思考を暴走させることが出来る。

 

その行為は他者から理解されにくいものであるので暴挙と判断される。

 

人間の普遍性を研究し追求してきた西側の権力は、敵対勢力の魔術的思考の部分を刺激して暴走させ、孤立化させるのが上手いのである。

 

プーチン・ロシアがいくらウクライナとロシアの歴史的に特別な関りがある事を強調した所で、支持されるのはロシアのナショナリストだけであり、国際社会からは理解されにくい。

 

現在の日本で考えると、「閣僚の靖国参拝」や、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼ぶところに日本の保守派が抱えている魔術的思考が表れている(左派の場合は9条への過剰なまでのこだわり)。

日本人の保守派にとっては、日本のために戦って戦死した人々を祭り、アジア解放のための戦争だったという観点からの呼び名を使いたい、という考えである。

しかし、そのこだわりは、他者(国際社会)からは反発をかいこそすれ、共感や理解されるものではない。

 

日本政府がこぞって靖国参拝を行い、大東亜戦争という呼び名を使用すれば、中国、ロシア、北朝鮮のような仮想敵のみならず、米国、韓国、ベトナム、オーストラリア、フィリピン、欧州諸国なども含めた国際社会からの反発は必至である。

 

中国などが日本を攻撃したい場合は、その部分を必ず突いてくるだろう。

 

プーチン・ロシアが、第二次大戦前後のウクライナ・ナショナリスト(彼らはソ連から独立するためにナチスと協力した)をウクライナ政府が英雄視していることをもとに、現在のウクライナをナチス呼ばわりするのと同じ要因になる。

 

同じように日本の保守派の魔術的思考に基づき、日本政府が靖国参拝や大東亜戦争という呼称を使う事は、日本が戦前の軍国主義者を讃美し、その復活を目論む軍国主義政権であると中国などが述べる口実を与える。

 

これは国益という戦略的観点から見れば危険な事であり、慎むべき事である。

なぜ自衛隊の「大東亜戦争」呼称は“利敵行為”にあたるのか?右派の甘えと精神的コスプレ 日本存立を脅かす重大脅威に - まぐまぐニュース! (mag2.com)

 

 

北野氏はこの本で、「戦略的観点」と「戦術的観点」の違いを認識することは、日本および個人の将来にとって極めて重要であることを力説している。

 

この本の最大の目的は、反プーチンでも反ロシアでも西側讃美でもない。

 

戦術的には勝利しているが、戦略的に自滅的な行動をとったプーチン・ロシアのウクライナ侵攻。

この事例を反面教師として、戦略的な観点をもって適切な日本の国家の運営を行い、

良い人生を生きてほしいという北野氏の現実的なメッセージにある。

 

まさに国際社会を分析し続けた北野氏のリアリズムの塊のような本であり、一時の感情に流されやすい日本人にとって重要な視点を与えてくれる必読書である。

 

私としては、ウクライナ侵攻前のロシアに戻ってほしいと切に願っている。

邪悪な事も行う西側の秘密結社権力の暴走に対抗する民主主義国家として、ロシアには存在意義があったからだ(米国のネットの監視体制を告発した元NSAのスノーデンの亡命などはその一例)。

 

そうするには、ウクライナへの侵略を止め、占領した4州を返還し、プーチンは責任を取り辞任し、政権批判や戦争に反対して逮捕された政治犯達を釈放し、公正な選挙を行い、西側とは違う自立した民主ロシアを作り上げていくべきである。

 

以下は北野氏の新刊に対する解説動画

 

 

 

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