金融危機への対処でアイスランドが取ったアプローチは、あらゆる場面で国民の要求を市場より優先させるというものだ。政府と銀行の取り決めにより、各世帯は債務が住宅価格­の110%を超える場合、それを免除されることになった。

アイスランド金融サービス協会(SFF)が今月公表したリポートによると同国の銀行は08年末以来、GDPの13%に相当する債権を放棄し、全国民の4分の1以上が債務負­担を軽減された。これに加え、最高裁が10年6月に外貨連動型のローンを違法とする判決を下したことで、通貨クローナの下落に伴う損失を負担する必要もなくなった。

「アイスランドの危機から学ぶべき教訓は、ほかの国が債務を削減する必要があると考える場合、この110%の取り決めがいかに成功を収めたかに目を向けなければいけないと­いうことだ」。首都レイキャビクにあるアイスランド大学のソーロルフル・マティアソン教授(経済学)はそう話す。「この救済策がなければ、住宅所有者はローンに押しつぶさ­れていたに違いない。08年には所得に対する債務の比率は240%に達していた」

◆EU加盟を望まず
このように市場より国民に配慮した政策の背景には、危機に見舞われて以来、アイスランド国民がその怒りを強硬な抗議行動を通して示してきたことがある。世界的に広がった「­ウォール街を占拠せよ」運動や、ギリシャなど欧州各地で続く財政緊縮反対デモの先駆けとして、アイスランド国民は経済破綻後、街頭に繰り出してデモを行った。09年初頭に­は抗議行動がエスカレートし、参加者らは議会や首相府に向けて投石。警察が催涙ガスを使って排除に乗り出す事態となった。

さらに経済・金融破綻をめぐり当時の政府首脳や銀行幹部の責任を問う声も強い。ホルデ前首相は危機に際して果たした役割に絡み同年9月に告発された。特別検察官は最大90­人を起訴する可能性があるとしており、当時の国内大手3銀行の最高経営責任者(CEO)を含む200人余りが刑事責任に問われる恐れがある。

国内2位だったグリトニル銀行のラルス・ウェルディング元CEOは既に昨年12月、「違法ローンを提供した」罪で起訴され、近く公判が開かれる予定。ちなみに世界金融危機­の引き金となった米国のサブプライム住宅ローン危機で果たした役割をめぐり、刑事訴追された銀行幹部は一人もいない。

デンマークのダンスク銀行の新興市場担当主任エコノミスト、ラース・クリステンセン氏(コペンハーゲン在勤)はアイスランドについて「危機の際に必要とされることの模範例­に倣った」と指摘。「要するに家計が破産すれば銀行も一蓮托生(いちれんたくしょう)だということ。銀行の金利など関係ない」と述べた。欧州連合(EU)の債務危機が3年­目に入るなか、同国では最近の世論調査の大半で加盟を望まない国民が多い結果となっている。
(ブルームバーグ Omar R.Valdimarsson)<転載終了>