魔女の線香
小学4年生の頃だったか
パーパーと2人で留守番していた。
その日は朝から土砂降りで
トタン屋根に打ち付けられる雨の音と
亜熱帯の木々を通り抜けた風が発する音。
まるで、へたくそな打楽器とソプラノリコーダーとの大合奏。
でも、そんなことはどうでもいい‥
なによりも、立て続けの雷の音、それも随分近い。
苦手だった。怖かった。
父親も母親もいない。
いつも鬱憤晴らしに使っていた2つ下の弟もいない。
置物みたいなパーパーだけ。
しかたない‥。
パーパーに泣きついた。
するとパーパーはいつもと変わりない様子で立ち上がり
神棚の前に座り
おもむろに線香に火をつけた。
線香の煙が漂う中
意味不明な方言で、
聞こえるか聞こえないかの小さな声で祈り始めた。
‥と
雷が止んだ。
ほんとに止んだ。
糞尿の臭いのする奥の湿った部屋で
生物としての最小限で生きている‥と感じていた。
が‥
その日からパーパーは私の中で魔女になった。
波の壁
子供のころ
台風が去った直後に近くの浜に下りるのが好きだった。
強い波にえぐりとられ地形の変わった海岸を見るのも
新鮮でよかったし
いろいろなものが打ち寄せられて
宝探しのように拾うことも好きだった。
ふと‥
沖を見るとさんご礁のリーフに打ち付けられた波が
まるで刑務所の壁のように (入ったことはないが‥)
外に出るなといわんばかりの高さで島全体を取り囲んでいた。
思う‥
いつかこの島から出て行ってやる!
いやだった‥
自分がちっぽけな存在に思えるのが
今は‥
世界とつながっているのは
この島だと感じている。
CRPS‥つらい痛み
外来にCRPSの患者さんが受診した。
痛みの大きさと痛みの続く期間を考えると
人にとってこんなにつらい痛みはない。
大学病院のペインクリニックを 受診して
絶望的になり逃げてきた。
私のやれることは技術的には少ない。
納得する医療にかかれるように
マネージメントに徹することにした。
‥そう説明した。
‥たいそう喜んだ。
痛いものは痛い
それ以上も以下もない
人には可能性がある。
人としてできることはたくさんあるはず。