ほんだながわり -8ページ目

ほんだながわり

「読んだり、観たり、行ったり」だけは、何だかやりっぱなしじゃいけないような気がしたもので…。

書店に立ち寄る回数が減ったせいで、新しい作家の登場をうっかり見逃したまま……そんなことが、この数年で増えた気がする。上田岳弘もその一人だった。先日、ふと手に取った「ブルータス 文芸誌バージョン」。何篇かつまみ読みするつもりでページをめくっていたら、『昨日だった気がする』に出会った。気づけば、目が止まらない。流れるように読み進め、勢いのままKindleで芥川賞受賞作『ニムロッド』(第160回)を購入していた。2019年に、こんな作品が世に出ていたとは。自分とほぼ同世代、作中に登場する作家や音楽への距離感も近い。それを差し引いても、この人は放っておけない──そんな確信に近いものが芽生えた。なんでこれまで誰も、上田岳弘のことを教えてくれなかったんだろう。

 

 

最近、お気に入りの柚木麻子さんの短編集。この人は、近現代だけじゃなくて、明治や大正を書いても面白いんだと驚いた。菊池寛ファンは増えるだろうな。谷崎潤一郎はダメそうだ。あしながおじさんのオマージュ作『あしみじおじさん』に梶井基次郎の檸檬の話がさりげなく登場するのもなんか嬉しい。そろそろ「Butter」を読もうと思っているのだけれど、たどり着くまでにもう少し著作を漁る事になりそうだ。

 

最近、『BUTTER』で注目を集めている柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』は、1980〜90年代の東京を舞台にした物語だ。寿司職人に恋をしたOLの視点で当時の空気を描き出すというのも面白いが、バブル期特有のきらびやかさだけでなく、その裏側にある不安や焦燥感も丁寧に描かれており、単なるノスタルジーにとどまらない深みがある。自分はまだ子どもだった頃の話ではあるが、物語に自然と引き込まれていった。行く末を知ってるとバブルってとても馬鹿っぽいけれど、渦中にいるとやっぱりわからないものなんだろうか。少し飛躍するけれど、それって戦争とかも同じなんだろうな。いまなら何でも偉そうなことが言えるってやつだ。なにわともあれ、とにかく美味い寿司が食べたくなる小説である。
 

 

国宝が公開されたのをきっかけに懐かしくなって(たぶん)再読。日比谷公園を舞台にしたシティ小説…って、そんなジャンルがあるのかはわからないけれど、当時の都市で暮らしていた人たちのリアルが詰まっていると感じた一冊だ。いま読むと、ところどころ古さも感じるけれど、何も起こらない日常のなかににじむ人の気配やさりげない情感が心地いい。そんな空気感が好きな人には、きっと刺さると思う。

 

 

ダガー賞受賞のニュースを見て、さっそく購入。パク・チャヌク監督の「お嬢さん」を思い出す。なんでもかんでもシスターフッドものでくくるのはよくないけれど、おじさんにはちょっと耳が痛いところもあるのに、ちゃんと面白く読めるお話だった。ただ物語の畳み方は若干コンパクトすぎるかも。もう少し壮大に展開してくれてもよかったのになと思う。