ほんだながわり -5ページ目

ほんだながわり

「読んだり、観たり、行ったり」だけは、何だかやりっぱなしじゃいけないような気がしたもので…。

実家の本棚の奥から引っ張り出してきた本書。帯文を読んで少し驚く。「『一人』は孤独なのか。『ひきこもり』であると自認する著者が指摘する、社会の嘘、学校の嘘。『集団』は『一人』より強いか」……まるで、「チェーンソーマン・レゼ篇」のコピーみたいじゃないか。表紙は五味太郎さんのイラストである。とりあえず、かわいい。もうこの時点で、だいぶ気分が上がっていた。ちなみに構成を手がけているのは、やなせたかしさんのもとで編集の腕を磨き、その後ノンフィクション作家になった梯久美子さん。これだけセンスが集結すれば、もう信頼度は抜群だ。で、中身はというと、ちゃんと、面白かった。たとえば、「ひきこもることで育つ第二の言語」という話。他人に伝えるための言葉は、あとでいい。まずは、自分の内臓から出てくる言葉を身につけなさい、という主張。読んでいて、「ああ、ほんとうにそうだよな」とうなずく。人と話す前に、世界に向かって何か言う前に、まずは自分ととことん話す。その時間がないまま言葉だけ外に出すと、たぶんどこかで空回りする。「一人」でいることは、黙っていることでも止まっていることでもなくて、ちゃんと、言葉を育てている時間なんだな。とても読みやすくて短い本だったけれど、大事なことがたくさん書かれている良い本だった。

 

 

舞台となる中南米の文化的な厚みが、まず強く印象に残る作品だった。もともと中南米の歴史や文化に惹かれるところがあるので、神話的なイメージと現代社会の暴力が交錯する世界観は、とても面白いと感じた。善と悪なんて、案外あっさりひっくり返ってしまう。その感じが、どこか今の時代の空気とも重なって見える。麻薬ビジネスの世界が、仮想通貨をはじめとする最新のテクノロジーによって下支えされている、という描写も新鮮だった。国家や金融システムの外側にあると思われがちな犯罪経済が、実は現代的な技術と強く結びついているというのは、(これが本当の話だったら、だが)なかなか示唆的で、読みながら引き込まれた。一方で、小児人身売買をめぐるエピソードについては、少し既視感もあった。もちろんテーマや文脈は違うのだけれど、「子ども」「管理」「奪われる未来」といったモチーフの置き方に、感情的に重なる部分があったのかもしれない。とはいえ、重たい題材を扱いながらも、最後まで読ませる力のある一冊だったと思う。

 

 

脳科学だけでなく哲学・AI・意識の本質にも踏み込む、池谷裕二さんの人気シリーズの最新作で、高校生を対象にした3日間の集中講義をまとめた一冊。夢の話、人工内耳の話、AIと人間の脳の違い、「見える」について、どの話も圧倒的に面白くて驚く。読んでいる間はずっと、「私とは何か」や「現実とは何か」について考えるスイッチが入ってしまい、とても哲学な時間を過ごすことができた。

 

 

1930年代の上海と、その後のロンドンを舞台にした、探偵小説めいた小説。主人公バンクスの、どこか信用しきれない一人語りに引きずられながら読み進めるときの、足元の定まらない感覚が、なぜだかとても心地よい。記憶や思い出の尊さが静かに壊れていく様子を見るのは、歳を重ねた身としてはなかなか染みるものがある。けれど、それすらも含めて、「人間ってこういうものだよね」と思わされる作品だ。

 

 

最近、金原ひとみが面白い。といってもまあ普通に考えると、最近というのは誤りで、これまでもずっと面白かったのだろう。あとあまり関係ないけれど、タイトルの付け方も親切でとても好印象である。ちなみに今後、アップデートという言葉について考えることがあれば、そのたびにこの小説のことを思い出すような気がする。