★第2話 春休み《2.入学式前夜》 | あまめま*じゅんのスパンキング・ブログ                        

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第1弾 『海の中のアタシ・空の中のアイツ』
双子の海と空のハラハラ・ドキドキの物語♪
第2弾 『星と月美のいい関係』
星と家庭教師の月美&トレーニングの日々!

    愛情たっぷりのおしおき満載(*'▽')

2.入学式前夜

 

翌日から空と海の悪戦苦闘の日々が始まった。朝に関して言えば、食事の支度は大したことはなかった。主食はトーストかごはん、それに合わせて卵料理や納豆やウインナーなどのたんぱく質、サラダや果物やヨーグルトを加えれば、いつもの悠一が作る朝ごはんになった。ただ、案の定起きるのが大変で、学校に行っているときは目覚ましが鳴ってから布団の中でうだうだしていても、悠一の「朝だぞー起きろー」のかけ声(ときには怒鳴り声)で何とかベットから這い出ることができたが、今回は「自分で起きろ」という約束で悠一は一切声をかけてくれなかった。

 

am7:30全員で朝食をとるという課題をクリアできなかった日は、食後にひざの上に乗せられておしおきタイムとなった。朝から手加減なく、お尻が真っ赤になるまで叩かれた。

「あーあ、朝っぱらからケツ叩く身にもなってくれ。1日のスタートをおしおきから始めるなんて気が滅入る。それにオレは昼間ぐうたらしてられるおまえらと違って、忙しいんだからな。」

ブチブチと文句を言いながらも、まるで朝のラジオ体操効果のように、お尻を叩き終わったあとは頭も体もシャキッとして仕事に出かけた。

 

海は2週間で3回、空は6回もこの災難に見舞われた。要は身から出たさび。早く寝て、目覚ましの音でパッと起きれば何の問題もないのだが・・・。空の当初の計画『徹夜作戦』は、一度も成功しなかった。朝6:00まで起きていることは余裕なのに、そこからさらに1時間半となると途中で睡魔に襲われ、結局大寝坊するという悪循環に陥った。

 

夜ごはんの準備には時間がたっぷりとあった。空はカレーライス、ハンバーグ、オムライス、グラタンなど手の込んだ料理を作り、

「空、いつの間にこんな料理覚えたの?」

と海を驚かせた。空はテレビやネットから情報を得て、それほど苦労せずに料理を作ることができた。悠一もそのクチなので、蓮ケ谷家男子にはそういう才能があるのかもしれない。

 

一方海はもう一度焼きそばにチャレンジしてみたが、水分が多くてベチャベチャしてしまい、空に助けを求めて泣きついた。空は冷蔵庫に残っていた天かすを混ぜてうまく作り直してくれた。それ以降海はスーパーでお惣菜を買ってきたり、レトルト食品や冷凍パスタに頼って自分で作ることは諦めた。それに対して悠一が文句を言うことはなかった。海に料理をさせる機会はまた改めて考えることにして、もし彼氏でもできれば少しは目覚めるかもしれないし。

 

 

4月に入り入学式の前日。

「今夜は病院の歓送迎会で帰りが遅くなるから、オレの分は夕飯いらないから。」

朝ごはんを食べているとき、悠一は空と海に伝えた。どうせ2人だとちゃんとした食事をしないだろうと、冷蔵庫にはレンジで温めればいいように2人分の夕食が用意されていた。

 

夜、久しぶりに食べる悠一のおいしいごはんを喜び、またガミガミと口うるさい主がいない春休み最後の夜を満喫していた。普段悠一がいるときには絶対にあり得ない光景なのだが、夜当番でいないときや、今日のように飲み会で帰りが遅くなるときには、食事中携帯片手に好き勝手ゲームをしたり音楽を聴いたり動画を見たり友達とラインをしたりと、今どきの子供たちがやりがちなだらしない食事の時間を過ごした。もし悠一がいるときにそんことをしようものなら・・・。

 

空が先に食べ終わりソファに寝転んでテレビを見ていると、突然海が

「わぁー!」

と叫び声をあげた。虫でも出たのかと空が飛び起き、

「何だよっ?」

と聞き返すと、

「空、大変!靴下!!」

「は?」

「靴下がない!」

「え?」

「紺の靴下だって。」

海は明日の入学式の通知を見てあたふたしている。

「買ってないのかよ?」

「うん、忘れてた。」

制服を注文しに行ったとき、

「あとでかわいいのを買うから。」

と言って、その場にあった無地の靴下は購入しなかった。

 

海が行く高校はひざ下丈の紺のソックスなら何でもよくて、みんなワンポイントの刺繍やアップリケで個性を出していた。中学時代に履いていたのは白ソックスだったので使えないし、男子のは丈が短いので空のを借りるわけにはいかない。

「兄ちゃんに何回も学校の準備できてるか?足りないものないか?って聞かれてたよな?」

「・・・うん。」

「兄ちゃんが知ったら怒られるぞ。」

「そんなこと分かってるってば。」

「どうするんだ?」

「どうしよう・・・。」

 

友達に借りることも考えたが、中学のとき仲の良かった友達はみんな別々の高校になってしまって、同じ高校に行く子の中に「靴下買い忘れちゃったから貸して。」と前日の夜に頼めるような子はいなかった。だいたい連絡先も交換していなかったので為す術がなかった。

 

今pm8:00。

こんな時間に開いているお店は?と考えてみたが、近所のコンビニやスーパーには売っていないし、いつも買い物に行く洋服屋さんはもう閉まっているし。

“お兄ちゃんがいれば叱られるのは覚悟の上で、まだやっているショッピングモールに車で連れて行ってもらえたのに・・・”

 

「入学式の日から初対面の先生に呼び出されるなんて、おまえ最悪だな。」

海は空の意地悪な言い方にも反発できないくらい焦っていた。

「どうしよう、空・・・。」

「しょうがないじゃん。諦めろ。自分が悪いんだから。」

「何でそんなに冷たいの。双子のかわいい妹がこんなに困ってるのに・・・。」

「だって今さらどうにもならないだろ。」

 

海は今にも泣き出しそうな顔をしている。いつもの海なら「まあいいか」と校則違反もお構いなしに、まわりの子たちとは違うソックスで登校しそうなものだが、さすがに高校生活初日からレッテルを貼られてしまうのは避けたかったのだろう。それとも、高校では心を入れ替えて、問題児キャラを脱退したいと思っていた矢先なのか。

 

「あっ、そうだ。恒先生に泣きついたら、車で買いに行ってくれるんじゃないか?」

「えー・・・でも絶対におしおきされちゃうよね?」

「そりゃそうだろ。兄ちゃんにもチクられるだろうし。」

「そうなるよね・・・。」

「オレが電話してやろうか?」

「えー待って。どうしよう・・・。」

「高校行って初日から怒られるか、恒先生や兄ちゃんにケツ叩かれるか、どっちかだ。」

「それなら絶対に恒先生だよね・・・。お兄ちゃんには言わないでってお願いすれば、お尻叩かれるのは恒先生だけになるよね・・・。」

 

海の決心が変わらないうちに、空は恒の携帯に電話をかけた。何回か呼び出し音が鳴り、留守番電話のアナウンスが流れた。空はメッセージを入れずに電話を切った。

「留守電だ。まだ仕事中かな?」

「どうしよう・・・。」

「もう少ししたら、もう1回かけてみるか。」

「でも早くしないと、お店閉まっちゃうよ。」

「他に頼める人もいないよな。」

 

「・・・私、買いに行って来る。」

「今から?どこに?」

「ショッピングモール行きのバス、まだあるよね?」

「ああ、まだあると思う。オレも一緒に行ってあげたいけど、やらなきゃいけないことが・・・。」

「何?ゲーム?」

「数学の宿題、1冊忘れてた。」

「えー?あれ結構たくさんあるのに、間に合うの?」

「朝までには終わらせる。」

 

「私たちお互いに大ピンチだね。買い物は1人で大丈夫だから、空はちゃんと勉強してて。お兄ちゃん飲み会のときはいつも12時過ぎに帰って来るから、それまでには余裕で戻って来れるから。」

「何かあったら電話しろよ。」

「うん。明日高校初日に双子で叱られないように、頑張ろうね!」

海は財布と携帯を持って、近くのバス停に向かって走って行った。

 

5分ほど待つとバスが来た。15分でショッピングモールに到着し、閉店ギリギリにお店に飛び込んで紺のソックスを買うことができた。しかも海がこだわっていた、かわいいワンポイント付きのソックスだった。

“私ってついてるかも”

嬉しくなってウキウキしながらバス停に向かうと、帰りのバスはたった今通り過ぎて行ってしまい、次のバスは1時間後pm10:20の最終バスだった。

 

海は「あーあ・・・」とため息をついたが、それに乗れば家に着くのはpm11:00前だから大丈夫。

“今日はやっぱりついてる!1時間何して時間を潰そうかな”

 

もう洋服や雑貨のお店は閉まっていて、開いているのは飲食店のみだった。こんな時間に1人で喫茶店でお茶するなんて、今まで経験したことがなかった。中学のころにはあり得ないことだったが、もう高校生なんだからやってもいいのかな?と少し考えてみたが、今日はやめておいた。やっぱり罪悪感というか後ろめたさというか、心の隅に引っかかるものがあった。本屋さんが開いていればそこは安心な場所という認識があるし、1時間なんてあっという間に潰すことができるのに、あいにくすでにシャッターが閉められていた。

 

4月初旬の夜の空気はひんやりしていて、上着を着てくればよかったと後悔した。1人ぼっちで居場所を探し求めるのは、迷子の子猫のような淋しい気持ちがして落ち着かなかったので、車が行き交う大通りを家の方向へ歩くことに決めた。こんな時間に女の子が1人で立ち止まっていたら、何かあったのかと心配する人もいるのだろうが、スタスタと歩いていたら塾や習い事が終わって家路を急いでいるように見えるに違いない。

 

次のバスが来るまでバス停をいくつか通過すれば、微々たるものだがバス代の節約にもなるし、運動不足の解消にもなるはず。コンビニに寄ってジュースとお菓子を買って、これから遠足にでも出かけるような気分で歩き始めた。電車の駅と違って、バス停と次のバス停との距離は短かったので、海は歩いているうちにどんどん楽しくなってきた。1つ制覇するにつれ、妙な達成感を味わうことができた。いつもはバスや車でしか通らない道を、今1人で歩いている。好奇心旺盛な海にとってこの上なくワクワクする体験だった。それはあの喫茶店を探し当てたときの高揚感と同じだった。

 

トコトコトコトコ歩き続け、何個目かのバス停に到着した。そろそろバスが来るころかなと思って時刻表に目をやった。夜になると極端に本数が少なくなるので、時刻表に書き込まれた数字はすっきりしていて見やすかった。海は何度も一番下に書かれた最終バスの時刻を見返した。

 

“何で・・・?”

 

携帯で現在時刻を確認し、頭の中が真っ白になった。

「やっばー・・・」

ショッピングモールpm10:20発のバスは、目の前にあるバス停をpm10:25に通過してしまっていた。お菓子なんか食べながら、浮かれて鼻歌まじりで歩いていたので、背後からバスが通り越して行くのに気づかなかったようだ。

 

“うわぁ・・・どうしよう・・・最悪だぁ・・・”

 

 

つづく