宝塚歌劇団月組『Eternal Voice/Grande TAKARAZUKA 110!』 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 ヴィクトリア王朝時代のイギリスとあって衣装が豪華が豪華なんですが(派手ではない)、これらを「普段着です!」とばかりに着こなすのが宝塚娘役マジック。洋物のコスプレなのに違和感が全くなく、そんな姿で踊りまくったりもしちゃうんだから大したものです。正塚晴彦の芝居というと「ああ…」とか「うん…」とか「けど…」とか情報量の少ない台詞が多いけれど、今回はトップコンビふたりともかなり饒舌。超常現象×政治物というどちらもマニアックな内容だけど、月組の生徒たちは変に声圧や声の高さを動かさないで発声してくれるのが聴きとりやすくてストレスなく鑑賞できました。

 

 面白かったのが2号セリの使い方。宝塚の2号セリは三分割されているので、セリ上げの時なんかは表彰台みたいにしたり、階段みたいにしたりして使うんですが、今回はあえて三つ分のセリに合わせた櫓を設置。セリ下げ機能は使わず、3号セリのようにセリ上げのみで使用。10m幅の2号セリと、6m幅の2号セリが大小ペアになって使われていて、異空間が同時に存在させたりができていて、これってミュージカルならではの演出手法を装置でも表現していて非常に興味深かったです。ショーでは櫓が取り払われていたんですが、さてのこの櫓の固定はどうなっているんでしょうね。

 

 そして、特筆物なのがオーケストレーション。最近のメンバー小型化により、宝塚オーケストラは弦楽器の薄さが弱点だったのですが(シンセサイザーで補っていますが弦の音って人工では不思議と作り出せないんですよね~)、今回はヴァイオリンとチェロが大活躍。そして、宝塚ではご法度とも言える低音を活かしたアレンジ! さらには、東宝劇場名物「音を外してひっくり返る金管セクション」が今回はしっかり吹けていて、帝劇でミュージカルを観ている感覚でした。このオーケストレーションが、噛みしめるような月城かなとの歌唱法にぴったり合っていて、「ああ、音楽面でさよならを盛り上げている!」とその職人技に舌を巻いたのでした。月城かなとって決して派手な歌い上げはしないんだけれど、男役として低音から高音までむらなく骨太歌唱ができるという意味では稀有の歌役者でしたので、その特性を生かせるサヨナラ作品に巡り合えて、悔いなく退団を見送れます。

 

 

 さて、ショーですが、こちらも現在の月組に合わせた作り。花月雪星宙と五組ある宝塚ですが、中でももっとも”男装の麗人"なのが月城かなと。オラオラでもなく野郎でも現代的でもなく、まるでお手本のようなノーブルさ。ここで中性的だと現実に戻されてしまうのですが、ちゃんと男役トップとして君臨できる位取りができていて「ここまで来れたら退団だよね」と個人的には昇華。多くの生徒に見せ場が与えられていて、トップスターのさよなら公演としては出番が多いわけではないのに主役として存在できているんですから、ディズニーのショーにおけるミッキーみたい!

 

 ショースターが不足しているのが現在の月組ですが、技術に走るのではなく「宝塚らしい品格のある舞台」に特化した作りで、こちらも職人技が光りました。「120%頑張ります!」なショーではなく「技術点80%なので表現で魅せます!」なショーなので、出演者に余裕があるのが◎。月城かなとも踊り狂ってますし、海乃美月も歌いまくってますが「ダンスが苦手」とか「歌が苦手」とか感じさせないんです。ベストの状態で舞台にいられる……「座付きスタッフによるバックアップって良いな」と思わされます。これ、退団後の翻訳ミュージカルや、たとえオリジナル作品であっても「はじめまして」のスタッフだとこうはいきませんもの。そして、完成形として退団するトップとは違って、「まだまだだね」なことも多い下級生は、勢いで乗り切れるナンバーだったり、2人口・3人口にして補いあったり、ちょっとずつ歌い継がせたりと、アラが出ないような配慮も。そして、こんな時に娘役を立てられるのも月組の特徴。ソロを与えられる娘役が多いことといったら! 統一した歌唱法で教育されているのか、個性が出しにくくはなっているけれど、一人で輝ける、場面の中心に納まることができる娘役は貴重ですし、そういうことを許せるってことで男役の株もあがるありがた~い采配!

 

 

 ぶったまげたのが、みんながダンスを踊る中、月城かなとだけが和装束で日舞を踊る場面。そりゃ、宝塚って洋楽で日舞を踊るのが売りの劇団ではあるけれど、みんなが洋舞を踊る中、トップだけが日舞を踊るなんて技に驚きました。斬新なんだけど、違和感がなく舞台が成立しているのにビックリ仰天(@@)

 

 

 最近の東宝ミュージカルだとプログラムが2000円越えが当たり前になっていますが、宝塚は1000円で頑張ってくれている、ありがた~いことです。大劇場公演とちがって東宝劇場公演は作品の微調整も終わっていることですし、台本掲載の復活があるともっと嬉しい。ちょっとした台詞を思い出したり、気になる生徒をチェックしたり、聞き取れない箇所の確認に便利なんです!