(過去記事1)の続き

 

手段として設立されたはずの組織が、大きくなると、組織を維持することそのものが目的化してくる。

 学校も省庁もNASAもみな同じである。


チャレンジャー号爆発事故の調査を行う大統領委員会である

ロジャース委員会

が1986年6月9日にレーガン大統領に報告書を提出した.

委員長がW.P.ロジャース元国務長官

副委員長がニール・アームストロング(アポロ11号船長)

であった.

 

スペースシャトルの発射時,離床から2分間その推力を生む固体ロケットブースター2機一組

SRB(固体燃料補助ロケット)

と言う.

 シャトルとSRBとの接合部を覆っていた二重のOリング(主リング,副リング)の設計上の欠陥が事故の原因であった.

 

 1977年からNASA責任者はOリングの欠陥と大事故につながる可能性に気づいていた.

 

 NASAの責任者が,サイコオール社技術者やロックウェル・インターナショナル社技術者の懸念を知らなかったり理解していなかったことが原因であった.

 

 委員会のメンバーであった理論物理学者Rファインマンは,事故の原因は

1.NASA幹部の科学理解の欠如

2.NASAとATKランチ・システムズ・グループ(サイコオール社含む)の情報共有不足

3.リスクについての意図的な過小評価とその偽りの公表(事故確率10万分の1など)

と述べた.

 

 ファインマンはとても面白い.1965年ノーベル物理学賞をとっているが,決して権威や地位をかさにして他人を説得しようなどとはしない.テレビ放映もする公聴会で,ファインマンは実際に氷水の中にOリングのゴムを入れてみせ,低温下でぼろぼろになることを実演して見せた.

 

 

 ファインマンはロジャース委員会には委員長含めてNASAに積極的な批判が出来る人物が少ないことが問題であると当初から気づいていた.

 ロジャースらは,第10の勧告として,”今後も国民や政府はNASAを強く支持すべきだ”との趣旨を盛り込みたかった.

 ファインマンはNASAの安全文化の欠陥に批判的な23号文案を作成した.

 ファインマンは,第10勧告を削除し,23号文案を報告書に乗せなければ,委員としての署名を報告書から除くと強く主張した.

 この署名拒否騒動はマスコミにも知られたが,その結果,第10勧告は盛り込まれるとともに,23号文案は付録Fとして格下げされながらも報告書に残された.

 

 付録Fでファインマンはこう結んでいる.

 

The origin of the problem is that the acceptance and success criteria used by NASA, and especially their contractors, are not consistently based on the amount of engineering risk involved. There is a tendency to classify things as acceptable because they are supposedly the proven standard, rather than to see whether there is really a reason for the judgment. For a successful technology, reality must take precedence over public relations, for nature cannot be fooled.

 

問題の根本は、NASAおよび特にその請負業者が使用する合格基準と成功規範が、工学的なリスクの程度に基づいていないことである。合格基準が、本当に妥当な理由があるかどうかを確認するのではなく、「証明された標準ということになっている」からという理由で受け入れられる傾向がある。成功する技術のためには、現実が社会との関連に優先しなければならない。なぜなら、自然は騙されることがないからである。」

 

 物理学者ファインマンの真骨頂である.

 

 打ち上げを判断するかしないか,部品の安全性に合格させるか不合格とするか.

 これは科学工学の問題であり,自然を相手にしている問題である.自然を脅したり騙したりすることは出来ない.

 

 いまこの部品をつかって打ち上げを実行することで,事故が起こるか起こらないか,これは科学技術的判断だ.

 

 安全かどうかを議論する時に,一般的な認識に頼って,特定の人間集団の中ではこれで今までも合格されてきているから,とか,そういった事とは関係が無い.

 

 サイエンスは多数決ではない

のだ.

 

 NASA幹部は,自分らの都合を優先させ,現場の技術者の意見を,幹部という地位をもってしてねじ伏せてきた.科学技術的議論では穴だらけなのにである. 

 

 事故が起こる確率の評価は,科学なのである.

 

(過去記事1)