遺伝率の意味を考えよう。

 

数学的に論じるのは明日にして、今日はざっと概略だけ書く。

 

身長の遺伝率86%というが、これはこれはどういう意味か?

 

よくある誤解は、

親が高身長なとき、子供も高身長になる確率。

これは違う。

 子は父親から遺伝子50%、母親から遺伝子50%もらう。

 

 精子と卵子が結合して受精卵になって子供の遺伝子は確定する。

 その遺伝子が身長の高さにどれだけ貢献するか、その比率が86%であるとよく解説されることが多い。

 

 こう言うと、残り14%が後天的な影響か

と考える人もいる。

 これもちょっと違う。身長の値でなくて身長の分散への貢献度なのだ。

 

身長Xは、先天的な遺伝子による因子X0と後天的な因子X1の和で書けるという仮定を採用する。

X=X0+X1

性別年齢別人種別などあるグループ内の人間で考えることにより、

(X0の分散)/(Xの分散)

が出る。この値が0.86なのである。

よって

(X1の分散)/(Xの分散)=0.14

なのである。

 

よって線形変換でXの平均を0,標準偏差を1と仮定して、

X0,X1が独立なら、

x0:=X0/(0.86)^(1/2)

x1:=X1/(0.14)^(1/2)

とすれば

x0,x1は平均0,標準偏差1で

X=(0.86)^(1/2)x0+(0.14)^(1/2)x1

=0.927x0+0.374x1

と書いて辻褄があうわけである。理由は明日説明する。(#1)

 

先天的な因子の標準偏差が0.927,

後天的な因子の標準偏差が0.374

全体として身長の標準偏差が1

となるわけである。

 

学力偏差値のように標準偏差を10倍すれば、

先天的因子で平均より10高ければ、

後天的因子が平均でも

トータルで平均より9.27高くなる。

後天的因子が平均でなくて平均より10高ければ、

トータルは平均より9.27+3.74=13.01高くなる。

しかしそんな人は上位9.5%だ。

(過去記事1)の(1)で63.1を入れると9.5%と出る。60なら16%だ。

 

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkou_eiyou_chousa_tokubetsushuukei_h22.pdf

 

18-29才日本男性の身長の標準偏差は5.9cmらしい。

0.374*5.9=2.2cm

だから、上位16%に入れるくらい非遺伝子要因が良いと、遺伝子で期待される身長より2.2cmだけ高くなるということか。

 逆に非遺伝子要因が平均並で、遺伝子要因が上位16%あれば、

平均身長170.8より、

0.927*5.9=5.5cm

高くなるということである。

 

 後天的因子は必ずしも意図的に変えられる因子ではない。ランダムネスも大きい。

 身長が高くなるような食事はだいたいみんなしているだろうが、意図的に高くしたりすることはできない。よほど食事を与えなかったり虐待すれば低くできるだろう。

 

 しかしこの86%は現代の先進国内のデータだろう。

 戦前と今とでは平均身長がだいぶ違う。栄養が違うからだ。だから後天的因子はグローバルな範囲ではもっと大きいはずだ。

現代の日本の範囲ではそれほど大きくないということだ。

 

 先天的要因と後天的要因が独立であるという仮定は乱暴だ。高身長遺伝子を持つ子供は親が高身長である確率が高い。高身長な人が好む食材例えば牛乳が食卓に頻繁に並び、それが原因で高身長になるのかもしれない。

 身長でなく学力の場合も似た話はありそうだ。高学力遺伝子をもつ子の親は学問好きで学術書を家に置く確率が高いかもしれない。その家庭環境が子の学力に後天的に影響するかもしれない。

しかしその可能性は遺伝率計算上は無視する。

 

粗く書いたので分かりにくかったかもしれない。

明日はちゃんと数学的に正確に書くつもり。

 

 具体的な遺伝率を求める際には双子のデータから取るのであるが、それも説明する。

 

続き



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(過去記事1)