(過去記事1)で粗く書いた遺伝率の定義と性質を
(過去記事2)で用意した数学的準備を使って
厳密に書きなおす.
確率空間(S,p)の確率変数X,A,Bがあり,
AとBは独立でσ[X]>0を仮定し,
X=A+B (*1)
と書けたとする.
(過去記事2)の命題1よりσ[X]=0の場合はXは定数となり詰まらない.
AをXの先天的因子,BをXの後天的因子と呼んだ時,
Var[A]/Var[X], Var[B]/Var[X]
をそれぞれ遺伝率,非遺伝率と呼ぶ.
(過去記事2)の命題3(a=b=1)より,
Var[X]=Var[A]+Var[B]
だから,
遺伝率+非遺伝率=1
である.
以下はσ[A],σ[B]も正を仮定する.
A':=(A-E[A])/σ[A]
は(過去記事2)命題2,3を使う事により,E[A']=0, Var[A']=1
が示せる.
同様にB'も定義できて,
σ[A] A' + σ[B] B'=A+B-E[A]-E[B]=X-E[X]
ここで
X':=(X-E[X])/σ[X]
と置けば
X'=(Var[A]/Var[X])^(1/2) A'+(Var[B]/Var[X])^(1/2) B',
E[X']=0,
Var[X']=(1/Var[X])Var[X-E[X]]=1,
つまり式(*1)は,
X,A,Bをそれぞれ平均0,標準偏差1の確率変数X',A',B'へ線形変換(一次変換)し,
X'=(遺伝率)^(1/2) A'+(非遺伝率)^(1/2) B', (*2)
と書けるわけである.これが(過去記事1)の(#1)の意味である.
Xを身長とし遺伝率を86%とするなら,
Xを平均0,標準偏差1の偏差値X'へ線形変換することにより,
X'=0.86^(1/2) A'+0.14^(1/2) B'
=0.927 A'+0.374 B'
と分解できるわけである.A',B'は先天的因子A,後天的因子B'を線形変換し,平均0,標準偏差1としたものである.
ただし,これでは(*1)という分解がまずありきの話である.
Xを例えば,2010年18-29才日本人男子の身長としたとき,どうやって(*1)を仮定し,それによって86%という遺伝率を計算するか,という話になってくる.
(過去記事1)で予告したように双子のデータを使う.
結論を先に言えば,
(身長の遺伝率)=2*((一卵性双生児の身長の相関係数)-(二卵性双生児の身長の相関係数)) (*3)
になるのであるが,何故,どのような仮定のもとで(*3)がでるのか?
それは次回書く.
続き
(過去記事1)
(過去記事2)