昨日、兄を見舞いに行って久しぶりに話したときのこと。
「おまえ今、何やってんの?」
「何って、釣り。」 (もちろん冗談のつもり)
「うわ~。気楽やなあ。」
「おやぢが病気してから遊ぼうってうるさいんよ。」
「まあなあ…寂しいんやろ。構ってやれよ。」
「でもずっとこんな事しててもなあ。来週も浜松やで。
ええ加減仕事も探すようにせんとまずい気もするし…」
「おまえ仕事ってどこで探すつもり?」
「あっちやけど。何で?」
「え?そうなん?帰って来るんとちゃうん?」
ここで初めて兄が私がこっちに住民票を移したのを知らんことが判明。
「失業保険をもらう関係であっちに住所移してるねん。
それにこっちよりかは仕事もあるかなと思ってるし。」
「そらそうやなあ。」
「あっちもそう景気がいいわけじゃないけど、こっちよりはマシやろうし…」
なぎとの関係はもちろん「友達」ということで。
ここで兄から相談が。
「なあ、今のこっちの家(実家)どうするんよ?」
「え?どうするって、ぽんちゃんらが引き継げへんの?」
「俺らは多分、家は別に買うか建てると思うで。
あいつのこれからの学校のこととかも考えると、実家じゃ場所が悪い。」
あいつ、というのは甥の「とん」のこと。
兄には4歳の「とん」という男の子と3歳の「いほ」という女の子がいる。
とんは生まれた時こそ身体は大きかったけど、その後の成長が
(特に言葉)遅くて、言語療法に通ったり保育園も少人数で丁寧に
見てくれるところに紹介で入れてもらった。
とんの言葉が遅いことはずっと気になっていたけど、自閉症と決めるには
まだ早いと色んなことを試してきた。
知能には何の問題もない。ただ言葉のキャッチボールができない。
でも兄は、このまま普通に地域の小学校に入れずに、今の保育園と
同じく少人数で、とんの個性を大切にしてくれる小学校を探している。
今の実家をダメだと言うなら、彼はめぼしい所を見つけたのかもしれない。
とんがほぼ自閉症に間違いないと腹をくくったというところか。
「う~~~ん、そうか…とんの通園とか通学のことやんなあ。
確かに、実家じゃ場所が悪いっていうか遠いし、バスもそこまでは
来てくれへんよなあ。」
「うん…そうなんよ…。
多分、おやぢが先におらんようになるとして、おかん一人でいけるやろか?」
「おかんは一人になってもあの家から動かんって言いそうやけどな。」
「確かにな。」
しかしここでまた問題がある。
母にも足に障害があって、ここ数年でだいぶ歩きにくくなってるように感じる。
兄が外に家を構えたとして、父母がいなくなった時、実家はどうなるんやろう?
なぎは今の土地には全く未練がないから、私の地元に来てもいいと言って
くれるけど、それはずっと先の話になる。
なぎが会社を辞めるなんて考えられへんし、今みたいに安定したとこなんか
絶対に私の田舎で再就職なんか無理やし。
なぎが今までコツコツ積み上げてきたものを奪う気もない。
それになぎだって、未練がないとはいえ家を相続してる身やし。
兄は本当は、私が地元に帰って両親の傍にいることを望んでるのか…
おまえの人生やから…と今までは絶対に何も言わんかった人やけど、
心の中では、なんで私がわざわざ出て行ったんやろうと思ってるんかな。
兄も私もあの家に帰らんとなったら、売ることになるんやろうな。
だけどやっぱりそれはいや。
あそこは私がずっと育った場所で、なぎも自分が定年を迎えたら
一緒にあっちに移ろうかとも言ってくれる。
だけど…なぎの定年まではまだ何年もある。
兄は自分の息子の将来と、私のこれからと…気を揉んでるんやと思う。
自閉症って100人に一人の割合で生まれるし、珍しくも何ともない。
それでもやっぱり生きていくには大変な世の中かな。
私はなぎと一緒にいると決めて。
できれば地元で過ごしたいけど、なぎの仕事の都合上、まだここを
離れるわけにはいかなくて。
私が家を相続して、固定資産税を払って週末に手入れし続けるか。
(ってまだ両親は元気やから話が飛躍してるけど)
「もうそういうことをちゃんと考えとかんとあかん歳やなあ…
あるもちゃん、地元大好きやから帰してあげたいし、私もあんなに
ええ環境のとこやったら一緒に行きたいとも思うし…」
なぎがぽつりと言う。
兄も、わたしも、なぎも、みんなそれぞれの気持ちが交錯する。






