ビック氏は、自分こそがこの時代の「ビッグな支配者」であるべきだと信じて疑わなかった。しかし、大衆というものは気まぐれで、彼の高説に耳を貸すよりも、テレビに映る華やかなスターたちに夢中だった。
「ふん、小っぽけな歌を歌う連中が、なぜ私より注目されるんだ。そうだ、私が『世界一のアイドル』を作り出せばいい。そうすれば、その背後にいる私は、真の王として君臨できるはずだ」
そんなある日、彼の元に一人の怪しげな興行師が、一人の少女を連れてきた。
「ビック様、彼女は『シンクロ・アイドル』です。特定のモデルを持たず、プロデューサーであるあなたの『野心の大きさ』に比例して、その輝きを増していく不思議な存在ですよ」
ビック氏は、無機質なほど整った顔立ちの少女を見て、満足げに頷いた。
「いいだろう。私の野望は、この宇宙よりも大きい。彼女を、人類史上最大のアイドルに仕立て上げてくれ」
育成が始まった。不思議なことに、ビック氏が「もっと金を稼ぎたい」「もっと崇められたい」と強く願うたびに、少女の歌声は神々しくなり、その容姿は見る者の魂を揺さぶるほど美しくなっていった。
彼女がデビューすると、世界中が熱狂した。人々は仕事を放り出し、彼女のライブ映像を食い入るように見つめ、彼女の一言一言を聖書のように崇めた。
ビック氏は、巨万の富を手にし、豪華な執務室の窓から街を見下ろした。
「見たか。彼女が有名になればなるほど、彼女を生み出した私の偉大さが証明されるのだ。私はついに、世界一のビッグな男になったぞ!」
しかし、喜びも長くは続かなかった。
ある時、ビック氏は自分の体の異変に気づいた。鏡を見ると、自分の輪郭がひどくぼやけ、まるで古い写真のように色が薄くなっているのだ。
彼は慌てて興行師を呼び出した。
「おい! 私は成功の絶頂にいるのに、なぜ私の影が薄くなっているんだ。まるで自分が消えていくような気がするぞ!」
興行師は、アイドルのライブ中継を見つめながら、静かに答えた。
「……それは当然のことですよ、ビック様。偶像(アイドル)とは、そもそも実体の輝きを借りて光るものです。あなたが彼女を『世界一のビッグな存在』にするために、ご自身の野心も、存在感も、すべて彼女に注ぎ込んでしまったのですから」
「なんだと? 私は彼女を操っていたはずだ!」
「いいえ。逆ですよ。彼女は、あなたの『自分がビッグになりたいという欲望』そのものが、形を取ったものなのです。欲望が完全に実体化してしまった以上、それを抱えていたはずの『あなた自身』という容れ物は、もう必要ありません」
テレビ画面の中では、少女がかつてないほどの光を放ち、何十億人ものファンが絶叫していた。彼女が微笑むたびに、ビック氏の体からは一滴、また一滴と「存在の重み」が吸い取られていった。
「やめろ……。私はここにいる! 彼女ではなく、私を見ろ!」
ビック氏は叫ぼうとしたが、もはや彼の声は空気を震わせることさえできなかった。
次の瞬間、豪華な椅子の上には、ビック氏が着ていた最高級のスーツだけが、中身を失って崩れ落ちた。
世界には今、たった一人の「完璧なアイドル」だけが存在している。
人々は、彼女こそが世界の救世主だと信じ、熱狂的な歓声を送り続ける。
しかし、そのアイドルの内側が、一人の男が使い果たした「空っぽな虚栄心」だけで満たされていることを知る者は、もうどこにもいなかった。