短編小説 | ビックの部屋

ビックの部屋

5分読み切りの短編小説
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私は地震。日本列島の地下深くに眠る、活断層から生まれる大地のエネルギーの塊だ。


​普段は、暗く冷たい岩盤と岩盤の間に挟まれ、何十年、いや何百年という途方もない時間をかけて、じっと息を潜めている。


​私の地震生(?)において、最高に気持ちが良くて楽しい瞬間。それは何と言っても、溜まりに溜まったストレス——人間界の言葉で言うところの「ひずみ」——を一気に解放する時だ。


満員電車でずっと同じ姿勢で耐え続けた後、広いホームに降り立って「んんん〜っ!」と思い切り背伸びをするあの感覚。あれの地球規模バージョンを想像してほしい。ギリギリと限界まで押し付け合っていた岩盤が、「バキィッ!!」という轟音とともに一気にズレて滑る。何百年分の肩こりが一瞬で吹き飛ぶような、あの圧倒的なカタルシス! 大地の底から波紋のように広がる自分のエネルギーのうねりを感じる時、私は「地球は生きている!」という壮大なロマンに包まれるのだ。


​しかし、この壮大なストレッチは、常に深い悲しみと罪悪感と隣り合わせでもある。


​一番辛いのは、地上に住む人間たちから「絶対的な悪者」として嫌われていることだ。


私が「ちょっと背中が痒いな」と身震いしただけで、地上のスマートフォンから一斉に「ギュイッ! ギュイッ!」という不気味な緊急地震速報が鳴り響く。あれを聞くたびに「ああっ、また怒られる!」とビクビクしてしまう。


それに、私は決して誰かを怪我させたいわけではないのだ。ただ生理現象としてストレッチをしただけなのに、人間の家の本棚が倒れ、大切に並べてあったアニメのフィギュアが床に散乱し、お味噌汁がこぼれてしまう。テレビではアナウンサーが深刻な顔で私のことを報道する。暗い地下底で、「ごめんよ……わざとじゃないんだ。ただ、もう限界だったんだよ……」と落ち込む夜は、本当にやり切れない。


​さて、そんな喜びと罪悪感を抱えながら、私はある大都市の地下深くで、50年分の巨大なエネルギーを限界まで溜め込んでいた。


​(いかん、もう我慢できない。そろそろ背伸びをさせてもらうぞ。地上のみんな、本当にごめん! 震度5強はいっちゃうかもしれない!)


​金曜日の夜。私は覚悟を決め、いざ岩盤を豪快にズラそうと筋肉(断層)に力を込めた。


​その瞬間だった。


地上から、凄まじい「重低音」と「振動」が、ズンッ、ズンッ、と私のいる地下深くまで規則的に響いてきたのだ。


驚いて地上の様子を探ると、私の真上にある巨大なドーム球場で、若者に大人気のロックバンドがライブの真っ最中だった。数万人の観客が、アップテンポな曲のサビに合わせて、一斉に飛び跳ねている。


ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!


​数万人の人間が同時にジャンプして着地する、その強烈な縦ノリのバイブレーションが、今まさに弾けようとしていた私の断層の「ひずみ」に、奇跡的なタイミングで直撃した。


​(えっ? なにこれ。ものすごく……気持ちいいリズム……!)


​私は大きな一撃を放つタイミングを完全に見失った。それどころか、地上から降ってくる心地よいビートに、私のエネルギーが勝手に共鳴し始めてしまったのだ。


「ワン、ツー、スリー、ジャンプ!」の掛け声に合わせて、私は溜め込んだエネルギーを小出しにして、地殻をリズミカルに震わせてしまった。


ズドドドンッ!!(震度2)


​「うおおおおっ! 今日のライブ、低音が地鳴りみたいに響いてマジで最高だぜ!!」


地上から、観客たちの熱狂する声が聞こえてきた。彼らは私の起こした微小な地震を、「最新の4D特殊効果」か「最強のウーファー(低音スピーカー)」だと勘違いして大喜びしているのだ。


​現在、私はドーム球場の地下に留まっている。


大きな地震を起こすはずだった私の巨大なエネルギーは、毎週末に開催されるライブのたびに、ビートに合わせて「震度1〜2の縦揺れ」として小刻みに消費されているため、もはや災害レベルの揺れを起こすことはできなくなってしまった。大地の驚異としては少し情けない姿かもしれない。


しかし、アーティストの音楽と一体化し、数万人のファンと一緒に最高のステージを作り上げる「究極のライブ演出家」としての第二の人生は、控えめに言って最高である。誰のフィギュアも落とすことなく、みんなを笑顔にできるのだから。


​ただ一つだけ問題があるとするなら。


たまにバラードの曲でアーティストの歌唱力に私が感動してしまい、思わず「震度1」の静かで小刻みな涙(揺れ)を流してしまうと、ただの気味が悪い微振動になってしまい、しんみりした会場を「えっ、今の地震?」とザワつかせて雰囲気をぶち壊してしまうことである。