ジャンル:一般犯罪/女性が主役
製作国:フランス
監督:ジャック・ベッケル
愛するポイント:コケットで気丈で大胆でもろいイザベル・アジャーニの圧倒的存在感
「殺意の夏」は映画を観ることが少なくなっていた80年代中後半に珍しく前売り鑑賞券(画像)まで買って相棒と映画館に観に行った作品です。
イザベル・アジャーニには「アデルの恋の物語」(1975)で強烈な印象を受けたものの、ハリウッド進出した「ザ・ドライバー」(1979)では雰囲気はありながら今一つ印象が薄かったので、彼女目当てというよりは「シンデレラの罠」(映画は未見)「さらば友よ」(1968年の映画は3つ星)を書いたセバスチャン・ジャプリゾ(「さらば」では脚本も担当)の小説の映画化ということで選んだように記憶しています。
が、観終わってみればジャプリゾ原作・脚本のストーリーも良かったものの、コケットで気丈で大胆でありながらもろさを抱えたアジャーニの存在感に圧倒されていました。
それで「愛する映画」となったわけですが、DVDも配信も名画座に追いかけていく時間のゆとりもなかった当時(多分TV放映もなかったでしょう)には再見かなわず、何年か前にDVDを手に入れたものの順番が回ってこずにようやく最近観なおすことができました。
当時の映画館での上映とは違い、いわゆる"ヘア解禁版"で再見した今回、アジャーニの大胆な官能演技も見ものでしたが、ストーリーを知りつつ細かく観ると、彼女の表情、体の使い方、セリフなど(つまりは"演技"ですが)実にうまいし、目が離せない。まさにアジャーニのための作品と言ってもいいくらいで、間違いなく愛する映画だったと確信した次第です。
とりわけてフランス映画になじみがあるファンは知らず、共演者たちがビッグ・ネームではないことも彼女の存在感を際立たせています。もちろんそれは共演者たちの印象が薄いという意味では全くなく、むしろそれぞれが語り手としてストーリーをつないでいくという脚本・演出(「ピエロの赤い鼻」のジャン・ベッケル)によって、印象的なキャラクター群像を作り上げていました。
さらに「アメリ」で描かれたパリのような人口密集地ではない田舎が舞台であることにより、キャラクターたちが織り成す人間ドラマをまた興味深いものになりました。個人的にはたった一度訪ねたフランスの田舎町を思わせる風景があったことも作品の印象を強めたようです。
当時はあまり意識しませんでしたが、これもまた女性が活躍する映画のひとつです。美貌と度胸と強い意志以外には徒手空拳といってもよい彼女の無謀ともいえる活躍の行きつく先については、ぜひ作品でご確認ください(Amazon PrimeやU-NEXTで観られるようです)。