#27 映画に愛をこめて アメリカの夜 La Nuit américaine (1973) | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

ジャンル:ヒューマン・コメディ/自分探し
製作国:フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
愛するポイント:トリュフォーの「愛」が胸を打つ!

フランソワ・トリュフォーは大好きな監督の一人で、「愛する映画たち」248本(2021/3/28現在)にも、ダントツのイーストウッド監督作8本に次いでトニー・スコット監督作に並び、セルジオ・レオーネM・ナイト・シャマランの4本を超える5本がエントリーしています。ただし考えてみるとこれはトリュフォー作品に自分の好物である西部劇(撮っていません)もアクション系の犯罪映画も少ないことがひとつの要因で、実際には最も好きな映画作家です。トリュフォーについて書いた記事が別にありますので、よろしければそちらもご覧ください。

上記の記事にも書きましたが、トリュフォーが好きなのは、作品に「愛」を感じるから。特に社会的には弱い立場であることが多い(個々人が弱いということではない)人々、特に女性と子供に対するまなざしの優しさ、温かさに共鳴と感動を覚えることが多いのです。それは彼が演じた役柄(「未知との遭遇」の科学者など)にも無縁ではありません。

そしてその深い愛が存分に発揮されたのが本作です。映画を作成する現場に起こるさまざまな出来事を、創作者らしい厳しさも交えつつ温かく見守る視線には、映画に対する深い愛が感じられ、映画好きのハートをぎゅっとつかみます。登場人物の誰一人をも、指導することこそあれ人間存在として糾弾することのない描き方は、ほかの作品にも観られる特徴ですが、映画の製作過程における作品、キャスト、スタッフに対する彼の接し方に触れることのできる本作ではより一層際立っています。

主役も兼ねているのでいきおい彼への言及が多くなりましたが、その他の登場人物も好演。ジャクリーン・ビセットは美しく、気高く、かつ脆いリアルな女優の姿を見せ、その他のトリュフォー作品でも必ず少なからずいらっとさせられるジャン=ピエール・レオはそいつも通り救いようがないが許さざるを得ない子供大人ぶりをいかんなく発揮しています。出演作を何本かは観ているはずなのに認識できていなかったヴァレンティナ・コルテーゼも往年の(面倒だけど才気あふれる)大女優の役がぴったりはまっています。

一昔前ではありますが映画を作る話ですので、映画製作現場の雰囲気と「あるある」が興味深く再現されているのも楽しく、特にCG全盛以前の手作り感が映画好きごころを揺さぶります。タイトルの「アメリカの夜」自体、「カメラのレンズに暖色系の光を遮断するフィルターをかけて、夜のシーンを昼間に撮る「擬似夜景」のこと」(Wikipediaから引用)といういわばアナログなテクニックですが、境界があいまいなあわいに良さがある、という主張は(当時あえてそれを狙ったわけではないでしょうが)今だからこそむしろ胸に落ちるのではないでしょうか。

一度観て愛してしまってから長いこと再見することなく、つい最近観返したのですが、愛する映画たちの中でも10本の指に入れたいほど、愛してしまったのでした。

※初見でのビセットのエピソードの印象が強く「自分探し」に分類しましたが、再見して「ヒューマン・コメディ」に分類しなおしました。