作品の出来栄えに対する感動と好き嫌いの感情に、こうまで開きがある映画はしばらくぶりです。正直ラストシーンまでは、☆ひとつもつけられそうにありませんでした。
音楽を主題にした映画は好きです。音楽自体が素晴らしいことに加え、心洗われるストーリーが多いからです。プリンスやエミネムでもそうでした。ましてやオールドメイドを演じているとはいえ美しいイザベル・ユペールと、才気あふれるスポーツマン風のブノワ・マジメルにシューベルトとくれば、ロマンチックな展開を予想するのが自然でしょう。もちろん、ミヒャエル・ハネケがどんな監督だか知っていれば話は別ですが、あいにくというか幸いというか自分は知りませんでした...
というわけで登場人物たちとともに地獄を見たわけですが、その見せ方が徹底しているのでどんどん引き込まれ、やがて抜け出られない状況に快感を覚え始めます。が異常な快感ゆえ嫌悪感を伴うところが、好き嫌いの分かれ目でしょう。自分を見つめさせる怖い映画でもあります。
少しショック、なのは「若者のすべて」のアニー・ジラルドー。いやよく見れば美しい老婦人ですが、ユペールと狂気で渡り合うシーンの恐ろしさは、並大抵ではありません。「ミザリー」のキャシー・ベイツがかわいらしく見えるほどです。「若者」との落差が大きい(もちろん間を観ていない自分が悪い)からでもあるのでしょうが。
こういう作品にグランプリを与え、主演俳優たちに授賞するカンヌはまさに米国アカデミーの対極にあるわけですが、海外の賞と言えば同列に取り上げる今のパブリシティはそんなことをまったく考えていないなあとつくづく思います。「この作品はカンヌグランプリですから、やたらとはオススメしません」、というスタンスがあってもいいでしょう。怖い物見たさで観る人もいそうだし、期待と違っても文句を言われる筋合いはないでしょうから。
ここまで人間の怖さも脆さも面白さも見せてくれるハネケ。「ファニーゲーム」が観てみたくなりました。