The 焼肉ムービー プルコギ ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

焼肉バトル!ときくと勇ましく、主人公の挫折と成長、復活と勝利の感動パターンを連想させますが、実はかなりゆるい、まったりしたムービーです。

焼肉は赤身も白身もそれぞれ美味しそうで、調理シーンはそれなりにみせますが、話の運びがゆるい。スローな展開というだけでなく、エピソードを結論をみせず(特に倍賞美津子のエピソード)につなげていくのは、グ・クーヨン監督の特徴なのでしょうか。
緊迫感が盛り上がらないまままったりと過ぎて行く時間が、しかし実のところ苦痛でも退屈でもなく、なかなか心地よいのです。気に入りの店で好きな酒とさかなを前に好きな人と過ごすリラックスした時間、という感じでしょうか。この心地よさをかもしだしているのがタツジ(松田龍平)とヨリ(山田優)のコンビ。家族で同僚で恋人のぬくぬくした関係が作品のトーンを形づくっています。

しかしそういうぬくぬくからは成長は得られません。そこでやや唐突に保護者である伝説の老人(田村高廣)が死を迎え、精神的に放り出されたタツジは、自らを証明しなければならなくなります。
そこでおよそ盛り上がらない焼肉対決の幕が上がるわけですが、カメオ出演の脇役たちの頑張りとはまったく逆を向いた演出は、わざとだと考えるしかないでしょう。美味しいもの同士で勝ち負けを決めることそのものが、そもそも馬鹿らしいといわんばかりなのです。

楽しいとはいえ盛り上がりに欠ける展開ゆえ、☆ひとつだなと考え始めたところで、田村高廣のセリフに泣かされました。映画の内容そのものなので詳細には述べませんが、何を食べるかではなく誰と食べるかだ、という主張は常日頃自分と相棒が考え、口にし、実践していることなので、ここで☆ひとつ献上。まったりした展開にも納得がいったわけです。
赤身の天才トラオを演じたARATAは、やる気がないのか下手なのかよく分からない芝居で存在感を示し、桃井かおりや田口トモロヲの濃い芝居とうまくバランスをとっていました。こうしてみるとスーヨン監督、かなりの曲者かもしれません。