リヨンの美しい街並み、街角から姿を確かめることの出来るフルヴィエールの丘
。
丘の麓からケーブルカーに乗って丘の上に向かいます。
何とも緩やかで穏やかな時間の流れ…
駅を降りると、丘の下から眺めていた白亜の聖堂。
濃い青の空を背景にしたその美しい佇まいは圧巻でした。
市街を一望できる聖堂の脇から、眺望を心ゆくまで楽しみます。
Jardinの案内に従って拓かれた丘の道を導かれるように進むと、
どこからとなく耳に届く弦楽器の深い音色が。
「ん???」
人気もしない辺りを見回してみると、聖堂の一角に弓を持つ一人の女性の姿が。
美しい音に途切れはなく、私の姿をみとめた彼女は美しい笑顔を向け、私は手をふり応えました
通り道の途中に配されたベンチに腰をおろし、
木々の間からも見える美しい街並み、心地よく吹く風、そして流れ降りてくるヴィオラの演奏。
そこでどれくらい時を過ごしたのか…
赦しに満ちた静けさに包まれて。
行きかう人も殆どいない、このときだけは私のお忍びの場所、秘密の時間。
そして私だけのリヨンの時間、記憶
。
夕暮れの頃、一度は降りた丘の上に再び戻り、聖堂へ。
導かれるように足が止まったのが聖ヤコブの巡礼を描いたモザイク画の前。
私がとても興味を覚える十二聖人の一人。
荘厳な空気に満ちた聖堂内で祈りを捧げ、昼とは違う町の眺望を再び見つめました。
同じ日の昼、偶然か必然か包まれたあの時間はもうそこにはありませんでした。
再びフルヴィエールの丘に立ち、でも、Jardinの案内に再び歩が向かうことはありませんでした
。
私が最も必要としていたものは既に充分に与えられていました。
悪意に満ちた薄っぺらな善意、打算と計算を働かせ都合良く向けられる好意、
その場しのぎの空々しく虚しいだけの優しさ。
そういったものたちから逃れるように、旅が私をここに導いてくれたのでしょう。
大切にとってある幾つかの手紙があります
。
その内の一通に書かれたこんな言葉が思い出されました。
「まずは人と関わらないこと。
人と関わらないというと冷たいと思われるかもしれない。
けれど、人と関わるということは大変なエネルギーを要する。
だから自分に力が戻るまで、どうか無理をしないように。」




