徳川家康が鯛の天ぷらを食べ過ぎて命を落としたのは良く知られた話だけど、その鯛の天ぷらは榧(かや)の油で揚げたものだった。榧油で揚げた天ぷらは、一般的な菜種油などを使ったものより食感が軽く香りもいいが、いかんせん榧油が貴重で高価な代物。当時はとても庶民の口に入るようなものではなかったらしい。
そんな榧油で揚げた天ぷら、おそらく日本ではこの店でしか食べられない・・・と、こんな情報を入手したら行かないわけにはいきませんよね。
そのお店は東京神田の「天兵」。
いつものようにタイミングのいい東京出張に感謝です(笑)。
かなり年季の入った感じのお店。カウンターは10席、奥に小さな座敷があります。昼の開店10分後くらいに入ったけど、ボクが座るとカウンターは満席。さすが人気がありますね。
メニューは天ぷら定食と天丼が3種類、かき揚げ丼の他、魚介類や野菜の単品があります。
天ぷらのサクサク感を味わうには定食がいいかなとも思ったけど、創業以来70年間つぎ足しで使っているというタレの誘惑に負けて天丼、しかも上天丼を奮発してしまいました(笑)。
作ってるところを見てると、丼に入れたご飯にまずタレを軽く回しかけ、その上にひとつづつタレに漬けた天ぷらを並べていく。そのタレへの漬け方が食材によって違ってるんですね。かき揚げやえびは半分くらい漬けてタレをよく切る、野菜はサッと全体を漬ける、みたいな感じで。丁寧な仕事を手際よくやってました。
天ぷらは、車えび2匹、あなご、きす、ほたて、貝柱と芝えびのかき揚げ、蓮根、アスパラ2本、ピーマン。これになめこ汁と漬け物が付いて2.7k¥也。
早速食べてみると確かに油が軽い、というより油の香りがいい。よくある油臭さは全くなく、仄かに榧油独特の香りがします。これがいい。
衣は色は濃いけど厚さは薄く、軽い油と相まって食材の味を引き立ててるような感じ。そしてタレも色は濃いけど甘みはほとんどなし。出汁の効いた深い味だけどさっぱりしていて、榧油にはこれしかないというバランス。小粒であまり主張しないご飯ともよく馴染んでます。
さらに絶妙なのがタレの漬け具合。必要最小限しか漬けてないので、天ぷらのサクサク感がちゃんと残っててこれは嬉しいですね。
見た目はすごいボリュームで最初はちょっとキツイかな、と思ったけど榧油の軽さと香りのよさ、さっぱり辛口のタレであっという間に完食しました。
天ぷらの素材はもちろん新鮮でいいものを使っているんでしょうが、特筆するほどではないかな。それより榧油の天ぷらを食べられる、というだけでこの店の存在価値は充分過ぎるくらいあります。
それと、一緒に出されたなめこ汁と自家製の漬けもの、これも絶品でした。こういう脇役にも手を抜かずに仕事をしているのは好感が持てますね。
機会があればまた是非訪れたい店です・・・というより、近いうちに必ずまた来るような気がするな。