日本帰省 Part3 東京 | アラスカの自然に囲まれて

アラスカの自然に囲まれて

アラスカ州のアンカレッジは自然がいっぱいで、季節の移り変わりを日々肌で感じる自然に密着したくらしです。このブログでは、ここアラスカでの釣りや山登りなどアウトドアライフを中心に、私の見た事、感じたことなどを独断と偏見で紹介します。

今回東京に行った理由は私の師匠のような存在のZさんに挨拶するためです。4年ぶりです。

 

Zさんは今90歳、私が彼と出会った頃は私20歳、Zさん51歳、あれから39年の月日が流れました。

彼は、もと映画やテレビ番組の製作者で、私が商船学校在籍時に訓練実習で帆船日本丸に乗った時に知り合いました。

彼のチームは、東京からハワイまでの遠洋航海実習の3ヶ月近く、約90名の我々訓練生と船の上ですごしました。彼らは、当時は「現代っ子」と呼ばれた私達が、伝統的な帆船訓練実習によって船乗りになっていく様子をドキュメンタリーにしました。

 

何人かの学生が撮影班と仲良くなり、その後も付き合いを続けましたが、私はその一人。始まりは全くの偶然でしたが、私はZさんから大きな影響を受けました。今でも、読んでみろといって渡された最初の本をおぼえています。ヘンリーデンカーというアメリカ人が書いた、復讐法廷という小説です。主人公は若い弁護士。彼の弁護する被告は、銃で黒人男性をうった白人の老人。彼は自分の娘をこの男性に強姦され殺されたのです。さらには、司法制度の抜け穴のせいで、この黒人男性は裁判で無罪になったのです。司法制度に失望したこの老人は、黒人男性を銃でうって殺し、自主します。そして、司法制度そのものを疑い、弁護をも拒みます。物語は、この若い弁護士が、老人とのやり取りを通じて、黒人男性を無罪にした法律の正当性に疑問をもち、そこから、その法律自体を裁判にかけるという筋書きのなかで、弁護士、老人、判事、そして陪審員の心の動きにスポットライトを当てたドラマです。39年前に読んだ本なので、細かい詳細は間違っているかもしれませんが、いかにも問題満載というような本です。人種差別問題、人種差別を是正しようと制度的に対応した結果発生する2次的なアメリカの社会問題、個人が制度に挑む問題、当時若かった私は若い個人が制度と制度になれきった大衆の考えに挑戦していく冒険の話として読んだ気がします。今読んだらどう思うことでしょう?

 

Zさんは、復讐法廷を始めとして多くの素晴らしい本を私に紹介し、本を読むことの大切さ、流されずに自分で考える事の大切さ、そしてマネをしないことの大切さを色々な場面で教えてくれました。マネについては特にうるさく、自分が過去にやったものを繰り返すことさえもマネだといいました。復讐法廷の一つのメッセージが既存の法律さえも絶対のものとしてとらえずその正当性を精査するべきだということをみても、Zさんが私にどれだけマネをしないで自分で考えろと、うるさく言い続けたのかが、今さらながらにわかります。

 

日本のなかで縮こまっていず、外の世界に出ていくことを勧めたのもZさんです。私が、船会社のサラリーマンをやめて28歳でアメリカの大学に留学したのもZさんの影響です。

 

私もまもなく60歳、色々と経験を積み、少しは知恵もつきました。知らず知らずのうちに、偉そうな口を聞いていることもあるのでしよう。そんなときにはZさんと言い争いになったりして近頃は頑固ジジイだと思う瞬間もありました。「お前いつからそんなにえらくなった!!」と何度も言われました。時としてはこっちも腹が立ちます。いくら師匠と弟子でも男同志、そういうこともあるでしょう。ここ数年はうるさく言われるのを避けて少し距離を置く事もしました。でも、そんなZさんももう90歳、この4年間、コロナで日本に帰れない間、もしかしたらもう会えないかもと思ったりもしました。

 

それで、今回の帰省では、東京に行ってZさんにあい、ちゃんとお礼を言いたいと思っていたのです。

「今でこそ、なんとかアメリカで一丁前の顔をして食べて行けてますが、Zさんと会っていなかったらこんな事にはなっていなかったと思います。私は今大変幸福です。あんまり認めたくはありませんが、Zさんのおかげです。本当に有難うございました。」なんとかちゃんと面と向かって伝えることができました。 Zさんは、「もう1度くらいは会ってちゃんと話ができるよう、俺も頑張るよ。」とこたえてくれました。

 

こう書くとうまく完結したいい話のようですが、そうではないのです。彼は、お土産にアラスカで面白い石ころを拾ってくるようにいいました。私なりに一生懸命探して、面白そうな石ころを3つ4つ持っていきましたが、どうも、彼の目にはまだまだのようです。別れ際に「遠いところを見るのもいいが、足元の石ころにも面白い物がある、ちゃんと見てあるけよ」だそうです。

昔は遠くを見つめて、日本の外へ出ろと促したZさん、今度は遠くばっかりみずに足元をしっかり見ろと言います。

 

私もまもなく59歳、私と会った時のZさんより年上になってしまいましたが、私自身から見ても、知識、知恵、覚悟ともに、あの頃のZさんに遠くおよびません。

 

まだまだです。