おすすめ度5
難易度2 読みやすい。けど、問うている問題は深遠。
14歳という自我が芽生えてきて、これからどう生きていこう、この社会ってなんでこうなっているんだろうという問題意識が出てきた年齢にぴったりの哲学読み物。
難解な哲学用語も西洋の偉大なカタカナ人名を特に出すことなく、14歳であれば疑問に思えるところから議論からスタートして、自分が今まで当たり前だと思っていたことが別に当たり前のものでないことに気付かせて、考えるという営み、そう哲学へと誘う。
14歳くらいだと目の前にあるものはリアルにあって、自分は今ここにあって、死んだら自分はなくなってしまうと素朴に思い勝ち。
けど、これは思い込みじゃないって著者は問うてくるわけ。
いろいろ読者に疑わさせて、目の前に「ある」ものって本当に「ある」の、実は「自分」だけが確実にあって、「世界」も「自分」があるから「ある」んじゃないのっていう一般常識から転倒した考えを読者に抱かせるんです。
*哲学詳しい人はここでデカルトやヴィトゲンシュタインの議論を噛み砕いて説明しているのが分かるかと。
*デカルト
*ヴィトゲンシュタイン
*『論理哲学論考』は以前紹介しましたね!これはかなり力作ブログです!
どこまでも自分の意識の中で「ある」を考えているので、他者も「自分にとっての他者」。となると自分がいなくなると「他者」、「宇宙」もなくなってしまう。
*この辺はヘーゲルを意識しているでしょうね。
「理性的なものは現実的であり、そして現実的なものは理性的である。」ヘーゲル『法の哲学』
むむ( -_・)?だと思う。普通自分が死んでも、宇宙、世界はあると思うので。
いやまあ、これは死の議論が厄介であり、それと連動して私が生きている=私にとっての世界が存在するというのが理解するのが困難だから。
変な風に聞こえるだろうが人は自分の死を体験できない。死は「ない」についての話。それゆえ、生きて「ある」人間には「ない」は考えられない。自分の死後のことを考えていても、考えている自分は「ある」のだし、死んで「ない」他人のことを思っても、思ってもいる自分は「ある」。
なんとも屁理屈のように聞こえるかも知れないが、論理的には「死」はない。なんともギリシアの存在論を彷彿させられる話の進め方。
さて、こうなってくると自分はなにゆえに生き、存在しているのか謎になってくる。
まったくもってよく分からない。別に今の親のところに、今の自分のように生まれてくる必然なんかあったのだろうか?
ただの運命のイタズラなんだろうか?でも、運命とは何なのだ?
世界がなにゆえに存在しているのか分からないのだから、自分も訳も分からずいるのではないか?
こうこう根本のところを掘り下げていくと自分が生きようとして生きているから、意味があって、何かしらの「善」を求めることに意味があるんじゃないのって思えてくる。
とまあ、本書の概要を徒然なるままに紹介しているのだが、こんな解説を読んでもホントに分かったことにはならない。
カントが言うように哲学は教えられないのですよ。
「哲学を(歴史的に学ぶ以外には)けっして学ぶことはできない。むしろ理性に関しては、人はせいぜい哲学することを学ぶことができるだけである。」『純粋理性批判』B855
*他の哲学入門の本も同様の趣旨を言っていますね。
トマス・ネーゲル
「哲学理論をたくさん学ぶよりも、その前に、それらの理論が答えようとしてきた哲学的問題に頭を悩ます方がいいのです。そして、そうするための最善の方法は、いくつかの可能な解決策を検討し、それらのどこが間違っているかを調べることです。」(トマス・ネーゲル『哲学ってどんなこと?―とっても短い哲学入門―』昭和堂、p8)
あくまで考えるヒントを与えられたら、あとは自分で考えないとアカンのですよ。あー、たいへん。
*けど、啓蒙はそもそも大変なんですよ。
「啓蒙とは、人間が自分の未成年状態から抜けでることである、ところでこの状態は、人間がみずから招いたものであるから、彼自身にその責めがある。未成年とは、他人の指導がなければ、自分自身の悟性を使用し得ない状態である。ところでかかる未成年状態にとどまっているのは彼自身に責めがある、というのは、この状態にある原因は、悟性が欠けているためではなくて、むしろ他人の指導がなくても自分自身の悟性を敢えて使用しようとする決意と勇気とを欠くところにあるからである。それだから「敢えて賢かれ!(Sapere aude)」、「自分自身の悟性を使用する勇気をもて!」-これがすなわち啓蒙の標語である。」(イマニュエル・カント『啓蒙とは何かー他四篇』岩波文庫、p7)
けど、このたいへんな作業の面白さにはまるとすごく楽しいんです。いい具合に本書は哲学にはまらせてくれるかと。
*本書を読んで哲学に興味を持って、他に何を読んだらいいか分からなかったらこちらを!
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