「もの」の「見方」が変わる物理学の講義を紹介しよう!~縁起的見方へと至る現代物理学 | チャンクロブックスー教養人への冒険

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カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学』河出書房。

 

おすすめ度5

難易度3

 

総評

20世紀の偉大な物理学の二大理論、

 

一般相対性理論と量子力学

 

を統合した理論として

 

著者はループ理論を提唱している。

 

本書は物理学の歴史を振り返りつつ、

 

ループ理論におけるものの見方が解説される。

 

著者の古典、文学への深い教養から紡ぎ出される美しい詩的表現は物理への見方を色鮮やかなものへと変えよう。

 

コメント・解説

 

一般相対性理論と量子力学を統一する理論としては超ひも理論が有名だが、本書はそれに対する理論的カウンター。

 

理論的なポイントはこの世界は無限ではなく、最小単位があり、離散的で有限であるということ。

 

*超ひも理論は無限で連続的という立場になります。

超ひもの入門はこちらから。

 

 

 

 

 

それは古代ギリシアにおいて原子論を唱えたデモクリトスへの肩入れにもつながる。

 

*原子論のデモクリトス

 

 

「わたしはよく自問する。デモクリトスの全著作の散逸は、古代文明の崩壊のあとに起こった、人類の知をめぐるもっとも大きな悲劇ではないだろうか。巻末の注に掲載したデモクリトスの著作タイトルの一覧に、ぜひ通読してほしい。古代の科学の広大な思想が失われたことを想像すれば、慨嘆せずにいる方が難しいだろう。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p32。

*引用のページ数は書籍版なのでご注意を。

 

 

 

さて、量子論をベースに有限な最小単位があるとすると、世界の基本は不確定性を帯びた粒の相互作用ということになる。

 

 

 

うーん。

 

 

だから何なのだと人によってはここまで読んでつっこみをいれたくなると思う。いやいや、これは中々「もの」の見方を変えるインパクト大の話だ。

 

 

これは現代の物理学では固定的な「もの」を想定していないということを意味するからだ。

 

 

「量子論は、事物が「どのようであるか」ではなく、事物が「どのように起こり、どのように影響を与え合うか」を描写する。一例をあげるなら、粒子が「どこにあるか」ではなく、粒子が「(次に)どこに現れるか」を描写するわけである。実在する事物から成り立つ世界は、起こりうる相互作用にから成り立つ世界に変換される。現実は相互作用に姿を変え、そして、現実は関係に姿を変える。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p134。

 

 

おいおい、物理って固定的な「もの」を扱う学問じゃなかったのかよと思っていた人にはなんのこっちゃだと思います。

 

 

ループ理論では目の前にある「もの」は固定的なものではなく、

 

わたしたちが見ている

 

さまざまな関係の相互作用の過程

 

の一つに過ぎないと言っているのです。

 

固定的な「もの」を信じて来た人に、

 

それは幻想というんですから、

 

ループ理論は中々の破壊力を持っている。

 

ループ理論はまるで

 

わたしたちの世界は関係の網の目でできているという縁起的世界観

 

へと現代物理学を接続せんばかりだ。

 

 

 

「わたしが思うに、「関係」や「情報」を抜きにしては、現実を深く理解することはできない。現実とは関係の網であり、言い換えるなら、相互にやり取りされる情報の網である。この網が、わたしたちの生きる世界を織り成している。じつをいえば、本書はこれまで、つねにこの網について語ってきたのである。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p254。

 

 

 

「ひとりの人間の性質は、本人の物理的形状によってではなく、その人物が身を置いている、個人的、親族的、社会的な相互作用の網によって決定される。わたしたちを作り、わたしたちを守っているのは、これらの相互作用である。「人間」であるかぎり、わたしたちは、「ほかの誰かがわたしたちについて知っていること」であり、「わたしたち自身について、わたしが知っていること」であり、「ほかの誰かがわたしたちについて知っていることについて、わたしが知っていること」である。わたしたちは、相互にやり取りされる情報から成り立つ、このうえなく豊かな網のなかの、複雑に入り組んだ結び目である。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p257。

 

 

 

世界が縁起的に成り立っていると言わんばかりのループ理論はさらにわたしたちの「もの」の見方に衝撃を与えます。

 

 

 

それは堅い「もの」を信じてきた人には、世界が崩壊せんばかりの勢いをもつ見解だろう。

 

ループ理論ではいわゆる空間、時間は存在しないのだ。

 

「空間は、個々の重力の量子の相互作用から生み出される。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、pp171-172。

 

「あらゆる過程は、身近な過程と手を取り合って、自分のリズムに従いながら自由に踊っている。時間の流れは世界の内側にあり、時間は世界の内部で生まれる。時間の起原は、量子的な事象の関係性である。量子的な事象とは世界そのものであり、各事象がそれぞれに固有の時間を生成する。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、pp.176-177。

 
 

正直、はっ。

 

 

だと思う。

 

あまりに突飛なことを言われたので虚を突かれた気分だろう。

 

なぜこのような見解に至るのかの理論的な解説は本書に譲るが、もし空間・時間が幻想だとしたら、今まで自分は何を見てきたのだと訝しがるだろう。

 

うーん。いい、いい。

 

 

これくらい訳が分からんというカオスを頭の中に抱え込み、自分の「もの」の見方はどうやら根本的なパラダイムシフトが必要だということに気づくという経験は。

 

 
科学が計算まみれのカチコチした学問でなく、よりよい「もの」の「見方」を模索する営みだということを体験できるからだ。
 
 

「科学を単に、「計測可能な予見を実行するための技術」と捉えるのは間違っている。一部の科学哲学者は、科学を数字による未来予測に矮小化している。わたしにいわせれば、これは見当違いな誤解である。この種の学者たちは、手段と目的を取り違えている。検証可能な量的予測は、仮説を精査するための手段にすぎない。科学研究の目的は、未来を予測することではなく、世界の仕組みを理解することである。世界をめぐるイメージや、世界について考えるための概念的な手段を、科学は構築し、発展させようとする。科学とは、「技術」を提示するよりも前に、まずもって「見方」を提示する営みなのである。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、pp.207-208。

 
 
今まで確実にあると思っていた空間・時間についての「見方」を根本的に転倒させられたからといって、絶望を感じる必要はない。
 
 
むしろ、自分の無知を知ることから科学の探究は始まる。
 
 

「自らの無知にたいする確固たる自覚こそ、科学的思考の核心である。知の限界への自覚があるから、わたしたちは今日までに、かくも多くのことを学んでこられた。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p260。

 

正直本書の内容は著者が一般書籍レベルにある程度かみ砕いたものだから、ループ理論の全貌をちゃんと僕は把握しているわけではないし、またループ理論がどこまで普遍的な理論なのかはよく分からない。

 

ようは、自分もまだまだループ理論について無知だということ。

 

だが、無知を認めた上で最適な解を求める科学の探求は続けたいものだ。

 

「科学が信用に価するのは、科学が「確実な答え」を教えてくれるからではなく、「現時点における最良の答え」を教えてくれるからである。わたしたちは科学をとおして、差しあたっての最適解を手に入れる。科学という鏡には、さまざまな問題と向き合う最良の方法が映し出されている。科学はつねに、知に再検討を加え、知を更新していこうとする。こうした性格があるからこそ、わたしたちは科学を信じ、科学が「目下のところ利用可能な最良の解」を示していると判断できる。」カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出書房新社、p262。

 

このブログが何かささやかな学びのきっかけになれば幸いです。

 
 
 
*著者の別の本も以前紹介しました!
やはりものの見方をどうシフトするかが重要かと思います!
こちらは中高生でも読めるかと思います!

https://www.instagram.com/p/B5iZVzul1jH/

 

 

 

 

 

 

 

*科学は無知を自覚するゆえに進歩したとは、『サピエンス全史』に通ずる話ですね。

 

 

「科学革命はこれまで、知識の革命ではなかった。何よりも、無知の革命だった。科学革命の発端は、人類は自らにとって最も重要な疑問の数々の答えを知らないという、重大な発見だった。」ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』下巻、河出書房、p59

 

 

*こちらの記事で『サピエンス全史』の振り返りをしています!

『サピエンス全史』を読んでみよう!第4部科学革命前半の振り返りだよ!
 

 

 

 

 

 

 
 
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