ブラックホールが見えた『しとやかな獣』 | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

拝啓、ステージの神様。
黒い空間が気になっていたのです。

友人にご縁をいただき、シアターウエストで上演されたHAL&B『しとやかな獣(けだもの)』を観た。

作品によってステージのサイズや形が全く異なるこの場所で、早めに席につくと、ステージ中央が長方形にくりぬかれていた。

くりぬかれているように見えたけれど、それは黒いカーペットが敷かれていてそう見えただけだった。
でもこの黒い部分はほとんど使われることがなくて、観終わった今はそれがとても効果的だったなぁと思う。

『しとやかな獣』は、1962年に、原作・脚本・新藤兼人、 監督・川島雄三で制作された映画。
若尾文子が主演している。

なんとも面白い設定と展開。
舞台は団地の部屋で、そこに暮らす家族がすごい。
息子は横領を働くし、娘は医者の愛人。で、それを父親と母親が承知しているのだ。
いや、そんなもんじゃない、むしろ薦めているのだ。

おかしな家族たちは、金に目がない、でもなんだか呑気で、なんだか明るい。
息子の実は、会社の経理を担当する、三谷幸枝とはいい仲でもある。(映画ではこの幸枝役を若尾さんが演じている)

幸枝は美しさを武器に、実のみならず、社長や税理士とも関係を持ち、大金を手に入れていた。
まともな人が一向に出てこない。
ブラックだけど、なんだかユニークで、
でも言葉づかいが基本的には丁寧で、
不思議なバランスで進んでいった。

あの黒いカーペットは、もしかしたら、人間が簡単に堕ちてしまう可能性がある奈落みたいなものなのかもしれない。
そのギリギリの淵を歩いたり、飛び越えたりしながら、人は生き、暮らしているのかもと。

幕切れは文字通り、幕切れというラストで、
それもまた映画的で、演劇的で、昭和っぽくて、ヨーロッパ映画みたいでもあった。


〈公演日程〉
2019年1月25日(金)~27日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト