乾燥が激しいこの時期の劇場あるあるかもしれません。
この日の座席は、劇場後方の列の通路から2番目だった。一番端、つまり私が座る席の横にはすでにお客様が座ったいた。
若い女性で、彼女は私の座る席を察すると、すっと席を立って入りやすいようにしてくれた。
私といえば、まだコートを脱いでおらず、手にはチケット、購入したパンフレット、そして財布をバッグに入れもせず。
慌てて、「スミマセン、コートを脱ぎますんで(汗)」とその彼女に声をかけて、というか言い訳すると、彼女は「どうぞ、ごゆっくり」と微笑んだ。
なんだろう、この白百合感。
いや、ひょっとしてスミレ感?
品性というものは年齢に関係ないのだなと、感動を覚えていた。
席に座ると、いつものように観劇の準備をする。
帽子を脱いで、スマホの電源を切って、
お茶で軽く喉を湿らせて、のど飴をなめる場合は、この段階で口に入れておく。
(開演前の場内飲食が禁止されている劇場の場合はロビーにて)
眼鏡をかけ、オペラグラス持参の時はカバーから出してヒモを手首にかける。
時間があればパンフレットを少しパラパラとめくり出演者やストーリーをあらためてチェック。
誰かと一緒に観に行ったなら、おしゃべりしながらこの動きを同時進行で。
さあ、そろそろだな。
緊張感のある作品だということはわかっていたので、軽く肩をほぐして体勢を整えたら、思いっきりむせた。
焦る、この時期は特にだ。「こいつ風邪なのか?」と思わせたら気まずい。
客席が暗くなるまでには止まってくれ。
この作品は特にだ。
それより何より、お隣の白百合さんに迷惑をかけたくない……、その一心だった。
実際は大した時間ではなかったが、
暗くなるのはまだ待って!と思いながら。
ふぅーっ、止まった。
そして舞台『暗くなるまで待って』ははじまった。
作品のレビューにつづく。