いのちをうつす 展
参加作家は以下の6名。
小林路子
辻永
内山春雄
今井壽惠
冨田美穂
阿部知暁
東京都美術館で開催中。
東京都美術館は公募展のメッカ。
ということで、公募展に関わってきた作家さんを積極的に紹介するアーティストプロジェクトという企画を行っています。
今回はこれで7回目。
■フライヤー
自然界にある、菌類、植物、動物。
ずっとそれをずっと描き続けてきた作家。そして現在もずっと描き続けている作家さんの紹介です。
もう一度言うけど、すごく心を打たれる、良い展覧会でした。
会期は今日の1月8日(月・祝)までです。
(なお、この記事は作品のキャプションや展覧会の図録などを参考に記述してあります)
■展示風景
辻さん作品の展示風景
辻さんと内山さん以外の作家さんの作品は撮影禁止になっていますので、フライヤーから作品の画像はスキャニングしています。
■作品紹介
●小林路子《アメリカベニイロガワリ》作家蔵
▲小林路子さん
東京都のお生まれの作家さん。
もともと心象風景の作品を作っていたそうですが、1980年代、キノコに関するエッセイ集の挿絵の仕事をきっかけに、キノコの世界にどっぷりハマり、キノコの絵を描く作家として歩み始めます。
地面に見えているキノコは、植物の花のように子孫を残すためのものだそうです。
自然の循環する営みの中で、キノコはどんな役割を果たしているのでしょうね。
そして、キノコの本当の姿は地面の下にもあるそうで、だからキノコの生えている地面などの状況も作品に描きこんでいるそうですね。
キノコにもそれぞれ個性があって、それぞれが懸命に生きていることがわかる作品。
この人の個展があったら絶対見に行きたいですね。
そして彼女の作品は英国のキュー植物園へ寄贈されるとのこと。
世界の人に見て欲しい作品。彼女のキノコへ対する愛情がどっと詰まった作品です。
●今井壽惠《メジロマックイーン優雅に立つ》清里フォトミュージアム蔵
©️Hisac Imai
●今井壽惠《オグリキャップ 黄色い光の中で》清里フォトミュージアム
©️Hisac Imai
▲今井壽惠(1931ー2009)
1931年東京都中野の写真館の家にお生まれになります。
20代には、内面を表す絵画的な作品で日本写真批評家協会新人賞を受賞するなどの活躍をされます。
ところが、1962年に自動車事故によって視力の喪失という大きな事柄が起こり、その視力の回復後、モティーフを競走馬とその周辺の世界へと向けることになったそうです。
ターフを疾走する馬の姿を写した作品も美しいのですが、さりげなく日常の中にいるサラブレッドの姿がなんといっても心にせまります。
走ることを運命づけられて、人間の都合で生まれてきたサラブレッドですが、そこには束の間のひと時を過ごす、安らぎのある本当の彼らと彼女らの姿を見ることができます。
●冨田美穂《701全身像》作家蔵
▲冨田美穂(1979ー)
1979年東京都生まれ
武蔵野美術大学在学中に、北海道の農場でアルバイトをしたそうで、そこで牛と出会ってしまったのですね。
卒業後、一旦は別の道へ進みますが、その後北海道へ移住。
現在は牧場で働きながら20年以上、作家活動をされている2wayの作家さんです。
作品には牛のナンバーがタイトルとなっています。
匿名性に近いですが、それぞれの作品の多くが等身大の木版画として制作されています。
なんといってもその牛柄が表されています。優しい牛、短気な牛、人懐こい牛など、それぞれの牛の個性が感じられる作品。
イメージだけの牛の像ではなく、一頭一頭の個性がはっきりとわかる作品ですので、そのタイトルとの匿名性とのアンバランスが、人のために死んでしまう悲しさとも重なって悲しくなってしまうのですね。
そして彼女が作品を作るのは、その牛を忘れないためだそうです。
●阿部知暁《スノーフレーク》作家蔵
▲阿部知暁(1957ー)
1957年高知県生まれ
現在一陽会の運営委員でいらっしゃいます。
大阪芸術大学を卒業。
作品の制作でスランプに陥ったとき、好きなものを描くようにアドバイスされて、それから好きなゴリラを約40年近く描きつづけているそうです。
ゴリラを訪ねて国内外の動物園はもとより、アフリカの野生のゴリラにも会いに行った阿部さん。
彼女は、ゴリラとは、人と同じように接することができるのでしょうね。
作品を見ていると人の肖像画を見ているようですもの。
画像にある作品は彼女に何かを伝えているのでしょうね、それは阿部さんにはきっとわかるのでしょう。言葉はなくても。
▼ここからの画像は展覧会場で撮影したものです。
●辻永《ひまはり》
●辻永《ひるがお》
▲辻永さん(1884ー1974)
1884年広島県生まれ。その年のうちに茨城県の水戸市に移住。
日展の初代理事長もお勤めになり、文化功労者にもなった方ですね。
本格的な絵画の制作のかたわらに、実際に野山を歩いて、その場でスケッチする作家さん。花が大好きな方らしく、野山をスケッチするばかりではなく、それを自分の家の庭に移して、楽しんだという話。
その自分の庭に、花を切らしたことがないのが自分のひそやかな誇りだと述べている言葉がキャプションにありました。
そんな愛情を込めた花々をその場で、そのまま描いた作品。
作品の花は、臨場感も相待って、一つ一つが別々の個性を表しているようです。
●内山春雄 《アホウドリ》
▲内山春雄(1950ー)
1950年岐阜県生まれ。
日本バードカービング協会の会長さんであり、バードカービング(野鳥彫刻)の第一人者でもあります。
そのリアルな作品は、山階鳥類研究所での研究や、アメリカでの勉強などの裏打ちのされたもの。
さらにそれは進化して、視覚障害者へのタッチカービングというものも作られています。
目の見えない人にとっての鳥というものはとても遠い存在だそうです。
小鳥のさえずりは聞こえても、そのもの自体を見ることができないし聴覚障害者。
彼らにとってアートとはいえ、触ることができるというのは、またあらあ貯めて新しいアートの可能性を示すものかもしれませんね。
というようなことをキャプションには書いてありました。なんてなw.
実際に触れることができる鳥のアート作品のコーナーも設置されていました。
▼カルガモ
▼カワセミ
物事を一筋でやってきた作家さんの作品。
どれも心に残る作品でしたね。
なお、同時開催の「動物園にて」も見どころ満載の展示ですよ。