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最近あまり聞かなくなったが、形式主義で不親切で非能率的な仕事ぶりを「お役所仕事」という。ただ、役所で働く人にも言い分がある。仕事で親しくなったある自治体の役人は「俺たちのやることにはすべて法的根拠が必要で、お前たち民間みたいに自由じゃない」と言った。
適用できる法令がなければ動けないし、有ったとしてもそこに全てが書いてあるわけではない。だから、前例のないことをやろうとすると上級官庁に問いあわせて通達などの形でお墨付きをもらう必要があるというのだ。
法律が有ったとしても、しかるべき手順・手続きを踏まないと具体的には動けないのである。
だから、そういう環境の中で物事をどんどん進めるのは思ったより大変なのだ。
そしてそれは、今回の新型コロナウイルスのような緊急を要する時でも同様だ。
日本人の人命最優先で対応することは当然だが、それは国内法はもちろん、国際法や各国との条約や取り決めなど、さまざまなルールを守ることが前提になる。
つまり、法的な根拠もなく中国からの旅行者の入国を拒否したり拘束したりすることはできないのだ。北朝鮮やフィリピンなら可能でも、世界中に「法の支配に基づく秩序」を訴えているわが国がそんなことをしたらこれまで積み重ねてきた各国の信頼が大きく揺らぐ。
だから、今回の新型コロナウイルス発生を受け、政府は16日午前に官邸に『情報連絡室』を設置して本格的に情報収集を始めた。
後に『官邸対策室』に格上げされたこの組織は24時間体制だ。
そして、21日には『新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議』を開催し、安倍総理はそこで決めた対応策に基づいて具体的に動くように指示したのである。
その中には武漢など中国在住の日本人の安全をどう確保するかという課題もあったはずで、だから前エントリでご紹介したように武漢在住の日本人一人ひとりに問い合わせがあったのだ。
そうしたプロセスを踏んだ結果が26日の安倍総理の記者会見だ。
令和2年1月26日
新型コロナウイルスに関連した武漢市在住邦人対応についての会見
令和2年1月26日、安倍総理は、総理大臣公邸で会見を行いました。
総理は、新型コロナウイルスに関連した武漢市在住邦人対応について次のように述べました。
「新型コロナウイルスに関連して武漢市内の閉鎖が進んでいることから、この週末、武漢在住の日本人への意向確認を随時行うとともに、希望者の帰国に向けた具体的な検討を進めてきました。
その結果、チャーター機などの手当について、目処がついたことから、中国政府との調整が整い次第、チャーター機など、あらゆる手段を追求して、希望者全員を帰国させることにいたしました。
現在、中国政府と様々なレベルで調整を進めていますが、今後、一層加速して、速やかに帰国を実現させたいと考えています。」
http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202001/26kaiken.html
この便は日本からの支援物資を積んで武漢に向かうようだ。
アメリカがいち早くチャーター機を飛ばすと報じられたことで、保守系からも安倍政権に批判が出ていた。しかし、実際に飛行機が飛ぶのは日米同時期になりそうだ。
閉鎖されている武漢にチャーター機を飛ばし、分散している希望者を空港に集めて帰国させるためには中国側の協力が必須だ。そのための根回しや交渉も続けてきたのだろう。
同時に日本側での受入れ体制を整えておかなければならない。
何しろ武漢は中国当局により封鎖されている。
チャーター機を飛ばして、日本人を乗せて帰ってくるだけでも大変なのだ。
その辺りにめどが立ったから、安倍総理が発表した。
さらに、政府はこの新型肺炎を「指定感染症」に指定して、感染が確認された患者を強制入院などさせられるようにしている。
新型肺炎「指定感染症」に 国内感染確認の場合 強制措置可能に
NHK 2020年1月27日 9時23分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200127/k10012260171000.html?utm_int=news-politics_contents_list-items_007
これで、水際対策をすり抜けてきた場合の感染拡大への対応がかなり強化されることになる。
頭の中では簡単にできることでも、実現するには大変なエネルギーと時間が掛かる。
政府は様々な制約がある中で準備を進め、可能なことから順次実施してきたのである。
官邸に設置した『情報連絡室』(26日に『官邸対策室』に格上げ)が司令塔になったことで「お役所仕事」のネックが解消され、総理以下政権幹部の政治的判断のスピードも上がったのではないか。
ジャーナリストの門田隆将氏は安倍政権の対応を次のように厳しく批判していた。
そして、安倍総理がチャーター機を飛ばすことを表明したことを受けて次のようにツイートしている。
サラッとこう言える神経はさすが元週刊誌のトップ屋だ。
他のお仲間もそれぞれの手法で方向転換を図っている。
少々腹は立つが、この程度の大人の事情には目をつぶっておこうと思う。
(以上)
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