フィリピン心霊手術体験記3 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

オルビトはとても誠実そうな人物に見えた。
施設マネージャーのロミーに連れられて、教会内にあるヒーリングルームにはいる。ここは6畳ほどの小さな部屋で、紺色の治療ベッドがひとつ置いてあるだけだ。
となりの事務室からはいってきたオルビトはとても70歳とは思えないほど若々しい。80カ国を旅してるほど雄弁家ではなく、かといって厳めしい沈黙家でもない。
「はじめまして、今日はわざわざきてくださってありがとうございます」
数十万人を治療してきた「ゴッド・ハンド」と握手する。骨格のしっかりとした暖かい手だった。
「今日の患者はきみひとりだが、ちょうどここで打ち合わせがあってきたんだ。気にしなくていいよ」
ロミーは「おまえひとりのためにくるんだ」とありがたさを強調していたが、こう言う率直なオルビトにオレは好感を持った。
「きみは見たところ健康そうだが、どこが悪いんだい?」
オレは一瞬にして罪悪感にとらわれる。
本に書いてあった難病の事例を読むたびに、ただの好奇心できてしまった自分が恥ずかしくなる。オルビトは週末には80人のヨーロッパ人を迎るし、余命に残されたすべての時間を治療に捧げている。
「ええ、酒の飲みすぎで胃と、25年ほどまえ麻薬をやっていて肝臓が弱っているんです」
オレが苦心した言い訳に、オルビトは「なあんだ、それくらいか」という感じで、ちょっと微笑んだ。
すべては見抜かれているような気がした。
「それではさっそくはじめよう。そのイスにかけなさい」
オレはおずおずと切り出した。
「あのう、写真は撮ってもいいですか」
「施術中は集中するために控えてほしいが、前後の祈りはかまわないよ」
New 天の邪鬼日記-0904089inori.jpg

オルビトの妻であり、アシスタントのサリー(45歳)が祈りの言葉を唱える。
「愛するわが主よ、
あなたには不可能はありません。
あなたの愛はすべてに満ち、
すべての人々を幸福へと導きます。
あなたはわたしの健康、
わたしの癒し手、
あなたはわたしに言葉を与え、
わたしの病気を癒します。
あなたは神、
わたしのヒーラー。
神の御心がここに降りてくださらんことを。
アーメン」
フィリピンはアジアで唯一のキリスト教国である。神なき国のわれわれにはちょっととまどってしまう言葉だが、オルビトはこう言う。
「わたしがあなたと癒すのではなく、神がわたしという使いをとおして病気を癒してくれるんです」
これは非常に重い言葉だ。世界中のシャーマンに会ってきたが、力のあるシャーマンほど「自分の力で治してやる」などといばらない。
「そして最終的にあなたの病を癒すのは神でなく、あなた自身なんです」
健康を当たり前のように享受してきた自分には、それほどの強い意志が自分にあるのかさえわからない。
好奇心のために神を試した自分を恥じた。
「上着を脱いで、診療台へ横になってください」
オルビトはオレの右横に腰かけ、もう一度無言で祈りの言葉を唱える。オレも横になったまま手を合わせる。
オルビトは治療前にこんな状態になると本に書いてあった。
「患者を前に意識を集中すると、はじめ寒気のようなものが襲ってくる。やがてじんわりとあたたかい感覚につつまれる。それを神がこの治療に賛同してくれている証だとわたしは信じる」
または「ネガティブな感情を発散する患者に対すると、とても疲れてしまう。いつもはつづけて何人も治療できるが、そのような患者のあとはしばらくひとりになってエネルギーをリチャージしなければならない」
長い沈黙があった。
オレはそれを形式的ではないものだと感じた。彼は一人ひとりの患者に対してちゃんと心の準備が整う(彼の言葉で言えば「神が降りてくる」)まで祈るようだ。
New 天の邪鬼日記-090404shujutu

ヘソの右横に圧迫感を感じた。
オルビトはオレの腹を押し、もみ、なにかをさぐっている。
オレはどうしても好奇心にかられて組んだ両手の間からのぞいてしまう。
そこには信じられない光景がおこっていた。
両肩をすぼめたオルビトはオレの腹に思いっきり力をこめる。
鈍い痛みが腹を走った。
次の瞬間肉が切り裂かれるような感覚がぐわっと広がる。
数本の指がオレの腹にめりこみ、赤い液体がわき腹を伝って流れ出す。
赤黒く沈んだ穴から血にまみれた綿(わた)のようなものが取り出される。
小指の第一関節にも満たない小さな綿だ。
New 天の邪鬼日記-090405shujutu1オレの身にこんなことが起こっていたとは!
写真「Born to heal」より

おそらくそれはただの綿かもしれない。メキシコのシャーマンは口から虫を出したが、それはあきらかに用意されたトリックだったし、ほかの国でも体から葉っぱや釘などを取り出すシャーマンを見てきた。
もともと彼らには「トリック」(=だまし)という概念がない。
ショーのごとく人を驚かす手法は、患者に「神に不可能はない」、「あなたに不可能はない」と心と体のブロックをはずす重要な「プラシーボ効果」(偽薬効果=自己暗示力)なのだ。
典型的なシャーマンであるキリストも数々の奇跡をつかってひとを癒してきたのと同じように、フィリピンのシャーマンは心霊手術という手法を使っているだけだ。
ただ実際に胆石や飲み込んだ指輪を取り出したりと、レントゲンで証明された事例も多いので、単なるトリックとは言い切れないのだ。
シャーマンにとって大切なのは理論ではない。
病気が治るかどうかの結果だけなのだ。
たとえ心霊手術がパフォーマンスだとしても、何十万人を癒してきた事実は揺らぎもしないだろう。
オルビトは親指と残りの指で患部をつまむようにして接合する。
しだいに動きはゆっくりとなり、しばらくなでるようにさすると血は止まる。
オルビトは目を閉じて小さなため息をつくと、イスに座った。
なにやらガーゼにアルコールの消毒液をふくませオレの腹をふいている。
「終わったよ」
祈りや集中時間を除けば、施術自体3分もかからなかった。
「はあ」
オレはあまりに一瞬のできごとだったので、あっけにとられたままだ。
「Thank you.for the God」
オレはそうつぶやいてから、上半身を起こした。
へその右上には3センチほどのつめで引っかいたような痕があるだけだ。
腹の皮が切り裂かれたあとには見えない。
オレの腹から取り出された綿のようなものを見たかったが、疑っているように思われると申し訳ないんで、言い出せなかった。
オルビトもスウェーデンの科学者たちに招かれ、体中に電極をつけられて実験台になった。科学者たちは逆に驚いた。オルビトはなにからなにまで「ふつう」だったからだ。
「これでわたしがエイリアンでないことが証明された」とオルビトは笑ったそうだ。
最後にサリーのあとをついでもう一度祈りを捧げる。
ここが西洋医学とシャーマンのちがいだ。手術自体が終われば、「はい、おしまい」ではない。そのあとの「心」が見えないところで体を癒していくということをシャーマンたちはよく心得ている。
「あのう、記念撮影してもらってもいいですか」
おそるおそる切り出すと、オルビトは快くオッケーしてくれた。
New 天の邪鬼日記-090404kinen

ジュンラボも引退したという噂だし、最後の巨人オルビトも70歳なのでいつまでつづけられるかわからない。
サリーがゴーヤの生ジュースをもってきてくれた。
「Gourdといって、苦いけどとても内臓にいいの」
フィリピンは沖縄に似ていると思ったけど、ちょっと細長いゴーヤもあるんだ。
New 天の邪鬼日記-0904089gooya.jpg

オルビトは部屋を出るまえにつつましく威厳ある笑顔で言った。
「体は、
たんなる道具ではなく、
聖なる魂の器だと思いなさい。
きみのヒーラーは世界で君自身だけなんだから」

New 天の邪鬼日記-090404kizuato心霊手術当日の傷跡

New 天の邪鬼日記-0904089kizuato0.jpg2日後の傷跡

New 天の邪鬼日記-090408kizuato1.jpg3日後の傷跡

New 天の邪鬼日記-090408kizuato2.jpg5日後の傷跡

※ ライブスケジュール
4月18日(土)群馬県沼田にて結婚式ライブ
4月26日(日)栃木県南宇都宮「ギャラリー悠日」にてアルバム「PUZZLE」発売記念ライブ
開場18:30 開演19:00 チケット2500円 2階特別席5000円(フリードリンク)
〒320-0838栃木県宇都宮市吉野1丁目7番10号(東武線南宇都宮駅より徒歩1分。地図
電話028-633-6285(10時~18時まで 毎週火曜定休)
New 天の邪鬼日記-090426yuujitupanf.jpg

4月19日(日)から30日(木)までは「関東県内のライブのみ受け付けます」と書きましたが、ツアーでなく単発(もしくは2日間)なら関東以外でもオッケーです。
5月の連休が終わったら(5月7日以降)、遠方ツアーでも連続ライブでもぼんぼん入れてください。ブッキングは早い者勝ちです。今年5月という遅いスタートの分、新曲を引っさげてじゃんじゃん飛びまわります。

5月30日(土)東京東中野「プリズントーキョー」にてライブ
5月23日(土)静岡県伊豆「一枚の板」にてライブ。ゲスト:アシリ・レラ
6月 6日(土)新潟県新潟市 脳性まひビラザーズとのコラボライブ
6月 9日(火)新潟県新潟市 月乃光司さんとのコラボライブ
6月11日(木)新潟県新潟市 子育て支援「ドリームハウス」にてチャリティーライブ
6月12日(金)新潟県新潟市 「喫茶TEN」にてソロライブ
6月14日(日)新潟県新潟市 Mrピーンのオペラライブ
7月22日(水)~8月2日(日)神戸、岡山、尾道または原田、広島西条、呉、広島、岩国、山口、ライブ予定
7月25日(木)広島県呉にて命日ライブ
8月10日(月)長野県野尻湖にてライブ予定