「みなさん、フィリピンというと、何を思い浮かべますかー？」
フィリップ先生が聞くと、日本人の生徒がぽつりぽつりと手を上げる。
「フィリピンパブ」
「フィリピンはアジアでもっとも美人とすばらしい音楽があるって言われてるの。それにアラブの石油労働者や香港のメイドとか、フィリピンの経済はたくましい出稼ぎ労働者によって支えられているのよ」
「ダイエットのバナナ」
「みんなの知ってるバナナだけじゃなく、フィリピンには青バナナをゆでたり、フライにしたり、ペーストにしたフフラン・ソースというのも絶品よ」
「ビーチ・リゾート」
「フィリピンは日本の約８割の面積があって、珊瑚礁に囲まれた７０００以上の島からできてるの。これだけバリエーションの豊富な島は世界中探してもないわ。今までバリやタイのリゾートへ行っていた人たちがフィリピンリゾートのすばらしさに気づいてブームがはじまってるの」
「ナタ・デ・ココ」
「フィリピンはトロピカルフルーツの宝庫で、料理やデザートは美食王国タイにも負けないくらいよ」
子豚の丸焼きレチョン。ぱりぱりの皮が最高！「ルソン、ミンダナオなどの太平洋戦争」
「戦争の傷跡はたくさん残っているわ。でもフィリピンの人たちは心が広いから、今はとても親日的なの」
「はい、はい、はい、先生！」
オレは元気よく手を上げる。
「じゃあ、アキラくんにとって、フィリピンといえば？」
オレは大きく息を吸いこむと、自信たっぷりに答えた。
「心霊手術」
ドドドドー、フィリップ先生はＭ字開脚で、生徒たちはイスごとうしろへひっくり返る。
しからずんば断固として、なかんずく頑固一徹として、オレにとっては
「フィリピン＝心霊手術」なのである。
世界中でさまざまなシャーマンに会ってきたが、素手でお腹を切開いて外科手術までしてしまうシャーマンはフィリピン独自の手法である。（ブラジルにもちょこっとあるらしいが）
フィリピンが生んだ心霊手術は、「サイキック・サージェリー」または「スピリチュアル・サージェリー」と呼ばれ、世界的に有名な二大巨匠がいる。
ジュン・ラボとアレックス・オルビトの二人だ。
ジュン・ラボはマニラからバスで８時間ほど北へいったバギオにいるという。
彼の一生は映画にもなり、市長にまで立候補したが、オーストラリアの市民権を取ったために当選を取り消された。（タクシーの運ちゃん談）
もうひとりのオルビトはマニラのケソン市に住んでいるというが、フィリピン全土から世界６０カ国を旅しながら治療をつづけているというので捕まえようがない。
いろんな人に聞きまくった結果、マニラとバギオの間にあるウルタネタ（URDANETA）という町にまだ心霊手術師がいるらしいという確率の低い噂に賭けるしかなかった。
オレはマニラからウルダネタ経由ダグパン行きのバスに乗り込んだ。
６時間ほど北上し、埃っぽくて雑然としたウルダネタに到着するなり、宿も決めずに「心霊手術師を知らないか？」と聞きまくった。
「そんなものはこの現代にはもういないよ」とフィリピン人から嘲笑され、警察も保健所も相手にしてくれない。
絶望の底に沈んでいると、トライシクル（バイクにサイドカーのタクシー）ドライバーが片言の英語で話しかけてきた。首都圏をはなれると貧しさのために学校へ行っていない人が多いらしく、なかなか英語が通じない。
「おれに心当たりがある」
他にすがるものがないから、「なんでもいいから連れてってくれ」とトライシクルにのりこんだ。
北西のマナオアグ方向へ５，６キロ走ると、おかしなところに連れ込まれた。
「PIRAMID OF ASIA RESORT」（アジアのピラミッド・リゾートホテル）
なんじゃこりゃあ、滑り台つきのプールで子供たちが泳ぎ、プールサイドではへたくそなカラオケが鳴り響き、赤いコテージに囲まれた中央には、アルミ屋根のやすっちいピラミッドがそびえている。
神秘的な心霊手術師を求めてきたのに、あまりに見当違いな場所にいる自分がアホらしくて力が抜けた。
「あのな、オレはこんな遊園地みたいなところへいきたいなんて言ってねえぞ」
どうせ金目当てに嘘をついたドライバーをもう怒る気にもならない。
「ちがうんだ、こっちへこい」
なにやら白いイスに説教壇がある教会がリゾート内にある。
ドライバーがガードマンに話しかけると、事務室に案内された。
ん？ 「エスピリティスタ教会」って聞いたことがあるぞ。
「何の御用でしょう？」
施設のマネージャーらしき人物が流暢な英語で話しかけてくる。
「はあ、笑われるかもしれませんが、心霊手術師を探して日本からやってきたのに、なぜかここに連れてこられてしまいました」
「彼に会いたいのですね」
マネージャーが目で示した壁のポスターにオレは腰を抜かしそうになった。
まぎれもない、二大巨匠のひとりアレックス・オルビトではないか！
「まさかここは？」
「オルビト師が世界中からゲストを迎えるために建てた教会と宿泊施設です」
「しかしミスター・オルビトはマニラに住んでいると聞いていましたが」
「今日はマニラにいますが、今週末から８０人のヨーロッパ人をここで治療します」
げげっ、まさか最後の心霊手術師と呼ばれるオルビト本人に治療を受けられるわけはないだろう。
「あなたは彼の治療を受けたいのですか？」
「は、は、はい、もしそれが可能でしたら」
このとんでもない展開の成り行き上、「見るだけでいいです」なんて言えなかった。
「では連絡をとってみましょう。施設を見学しながらしばらくお待ちください」
ほくろから長い毛が飛び出したおっちゃんが案内してくれる。
「プールでカラオケとかやってる人たちもみんなユニオン・エスピリティスタの信徒たちなのですか？」オレが聞く。
「いや、地元や近県の観光客ですよ。通常ここはふつうのリゾートとして機能してます。ただ患者の団体や教会のイベントが優先されますが」
「ピラミッドの中を見ることはできますか？」
なんか安っぽく見えたピラミッドも、オリビトがつくったと言われれば神秘的に見えてきたぞ。
内部に入ると木で組まれた屋根裏が見渡せ、真ん中の丸いテーブルには薬草の束とピラミッドの模型がならんでいた。
「どうですか、この内部にはピラミッドパワーが満ち溢れているでしょう」
言われてみればなんとなくそんな気にもなってくる。
「あなたも教会員ですよね？」オレが聞く。
「はい、わたしもヒーラーでオリビトの甥です」
おーい！ マジかよ。ほくろから毛の生えたおもしろいおっちゃんだと思ってたら、肉親かよ、ヒーラーかよ。
そのとき彼の携帯が鳴った。
「オリビトは明日、あなただけを施術するためにマニラからやってくるそうです」
ありえねー！！
オレはピラミッドの中で気を失いそうになる。
とにかく誰のでもいいから心霊手術とやらを一目でも見たくてきたのに、まさか自分が素手で腹を割かれて治療を受けるとは夢にも思っていなかった。
ましてやオリビト本人からなんて！
つづく
※ ライブスケジュール
4月18日（土）群馬県沼田にて結婚式ライブ
4月26日（日）栃木県南宇都宮「ギャラリー悠日」にてアルバム「PUZZLE」発売記念ライブ
開場18:30 開演19:00 チケット2500円 2階特別席5000円(フリードリンク)
〒320-0838栃木県宇都宮市吉野1丁目7番10号（東武線南宇都宮駅より徒歩１分。地図 ）
電話028-633-6285（10時～18時まで 毎週火曜定休）
4月19日（日）から30日（木）までは「関東県内のライブのみ受け付けます」と書きましたが、ツアーでなく単発（もしくは2日間）なら関東以外でもオッケーです。
5月の連休が終わったら（5月7日以降）、遠方ツアーでも連続ライブでもぼんぼん入れてください。ブッキングは早い者勝ちです。今年5月という遅いスタートの分、新曲を引っさげてじゃんじゃん飛びまわります。
5月30日（土）東京東中野「プリズントーキョー」にてライブ
5月23日（土）静岡県伊豆「一枚の板」にてライブ。ゲスト：アシリ・レラ
6月 6日（土）新潟県新潟市 脳性まひビラザーズとのコラボライブ
6月 9日（火）新潟県新潟市 月乃光司さんとのコラボライブ
6月11日（木）新潟県新潟市 子育て支援「ドリームハウス」にてチャリティーライブ
6月12日（金）新潟県新潟市 「喫茶TEN」にてソロライブ
6月14日（日）新潟県新潟市 Mrピーンのオペラライブ
7月22日（水）～8月2日（日）神戸、岡山、尾道または原田、広島西条、呉、広島、岩国、山口、ライブ予定
7月25日（木）広島県呉にて命日ライブ
8月10日（月）長野県野尻湖にてライブ予定