フィリピン、スラムの大騒動 | New 天の邪鬼日記

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またもやフィリピン初日から大捕り物帳である。
比較的平和なアジアにおいて、マニラの治安の悪さは有名だ。
空港から市内にむかうタクシーで強盗団が銃でガラスを叩き割って襲ってきたり、フィリピン女性にナンパされてホテルにしけこんだ日本人男性にその子の親とポリスがやってきて「この子は未成年だ」と数十万円の罰金(賄賂)を払わされたり、フィリピン人の家庭に招かれ賭博でひと財産もっていかれたり、いろんな話を聞いていた。
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オレは超格安チケットなので空港へ着いたのは深夜12時である。ふつうなら初日のホテルだけでも予約するのだが、日本から予約すると高いホテルしかないので、「なんとかなるだろう」と悪名高いタクシーに乗り込んだ。
タクシーの運ちゃんを味方につける方法は「人と人との関係」をつくることだ。
相手の家族や子供の事を聞き、宗教の話へもっていく。フィリピンはアジアで唯一のカソリック国だし、神様の話でなんとなく敬虔な気持ちにさせる。
それからこちらの両親を失った話や貧しい金をやりくりしてどうしても憧れの国フィリピンへきたかったと相手をほめまくる。
こう書くといかにも旅のテクニックぽいが、どんな場合でも「人と人との関係」をつくることは人間の基本である。
これでオレは「カモ」から「人間」に昇格し、運ちゃんはコンビにまでよって、オレがビールを買うのまで待ってくれた。
「このあたりは危険だから気をつけなさい」
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オレが「ペンション・ナティヴィダッド」(ナティヴィダッドというスペイン語は「先住民性」とか「本来的な」という意味)という安宿をとったマラテ地区はキャバレーやらゴーゴーパブやら水商売の店が並ぶ歌舞伎町のようなもんである。コンビニやホテルの門番も拳銃じゃなくマシンガンまでもっている。
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しかしマラテ地区は海も見えるし、どこへ行くにも便利だし、マニラの庶民生活を知るには安全な新市街よっかずっといい。
つーか生理的にこういうところについ惹かれてしまうサガなのよね。
前ふりが長くなったが、事件は初日の朝に起こった。
オレは「市場マニア」である。
その町を知るにはまず市場から訪問するのが礼儀とさえ思っている。ホテルの門番にスリに注意しろ」と言われたが、両替をすませてそのまんまプラプラと歩いていく。
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ド派手な乗り合いバス「ジプニー」や、バイクにサイドカーをつけた「トライシクル」、チャリンコに幌つきのサイドカーをつけたぺディキャブが走り回っている。
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ストリートチルドレンも金をせがみにやってきたり、大人たちもそれぞれの職業をはじめる朝だ。
New 天の邪鬼日記-090401itibaItiba ha kakki ni ahureteru

「サン・アンドレス市場」も奥様たちでにぎわい、オレは小さな屋台に腰掛けた。
10時種類くらいの料理をぜんぶ見せてもらい、「これちょこっとずつぜんぶのせてくれないかなあ?」とおばちゃんに無理難題を吹っかけた。そんな掟破りな客なぞいないのと、おばちゃんがあんまり英語が得意でないので、首をかしげる。
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余談だが小さな島の連合国であるフィリピンには80以上の言語があるため英語教育に力を入れた。学校内でタガログ語を話してるのを先生に見つかると物差しでひっぱたかれたそうであると、マドリッドでいっしょに働いていたフィリピン人セノンが言っていた。
屋台のとなりに座っていたイケメンの少年がおばちゃんにオレの意思を伝えてくれ、ぜんぶのせが実現した。
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うまい、うまい、どれもこれもオレ好みなアジアの味だ。フィリピンはアジアの中でもタイ、ベトナムと並ぶグルメ大国なのである。
豚の血のソースやゴーヤなどの南国野菜もいける。これで150円とはこの少年のおかげだ。
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市場をうろついて堪能したあと道に出ると、少年は街角に座ってバナナを打っているではないか。名前はマークと言う。
もう日本につれて帰ってジャニーズ事務所から「バナナンキッズ」としてデビューすれば人気まちがいなしの甘いマスクでだ。
マークにアジア最大のSMショッピングモールの行き方を聞いていると、チャリンコにサイドカーをつけたぺディキャブがやってきた。5キロくらい先にあるモールまで30ペソ(60円)と交渉をしてのりこんだ。しかし運転手は場所を把握してないらしく、逆にまだかまだかと俺に聞いてくる。結局そこじゃないショッピングモールにおろされた。
オレが30ペソ払うと、「こんな遠くまできたのだから50払え」と言う。
ここで言い争いになって、オレは断固たる態度をとる。ぺディキャブは文句を言いながら帰ていった。
すると…デジカメがない!
料金でもめてるとき、座席に置き忘れたのだ。キャブがいった方向を追いかけたがもうやつの姿はないし、一瞬にして目の前が真っ暗になった。
このカメラにはキューバとジャマイカの写真など1500枚がはいっていたのだ。
ショッピングモールで同じカメラの値段を見ると3万円もする(日本では半額で買った)。
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貧しいドライバーはこれを売って大喜びしているにちがいない。
99%あきらめたが、タクシーでサン・アンドレス市場にもどり、バナナ売りのマークに相談した。
それからが大スペクタクル巨編がはじまりだ。
最近オレのマイブームは落語で、江戸の貧乏人たちがくりひろげる人情長屋の話とそっくりな大騒動だ。
New 天の邪鬼日記-090401kabukizaManile nimo Kabukiza ga atta!

オレのまわりには市場界隈の連中が集まり、すさまじい情報がやり取りされる。そこで運ちゃんの名前や家族もわかり、オレはスラムのカウンセル(役場の支店)みたいなところで、名前や住所、カメラの形や運ちゃんの似顔絵まで書いた。
ぺディキャブのドライバーたちは仕事そっちのけで、その運ちゃんを探しに走り回り、30分後にはついに彼を発見したのだ。
スラム長屋の群集がオレのほうへ押し寄せてきて、その頭上にはなんとオレのカメラが高々とさしあげられている。
ありえねー!!
オレは自分のみに起こった奇跡に呆然とし、みんなにもみくちゃに祝福された。
New 天の邪鬼日記-090401councilHeros of slam

カメラがもどったことよりも、身も知らぬ旅行者を助けてくれた貧乏長屋の人情に驚き、涙が出るほど感動した。
ふつうなら旅行者が近づかないスラムの危険地帯なのに、世界で一番人情にあふれてるやつらはこいつらだったのだ。
あの運ちゃんに思わずハグをした。名前はナチェットという。彼の説明によると、オレが降りてしばらくすると車輪のカバーに何か引っかかっているのを発見した。そのカメラを持って、何人かの客を拾い、市場にもどってみるとすごい騒動になっている。本音は「ちっ、売りそびれた」かもしれないが、とにかくもう返さなきゃいけないことになってる。
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オレはナチェットとマークにに100ペソ(200円)ずつお礼をわたし、2リットルのコーラを10本買い、みんなに振舞う。コップがなかったがみんななれたものでビニール袋にわけてもちかえる。
ジャマイカの警官恐喝事件についで、またも初日から洗礼を受けた。
なぜオレにばっかこんなドラマが起こるのかはわからないが、きっとフィリピン広報大臣かスラム人情噺推進委員会の神様の仕業なのだろう。
オレはこの事件で一気にフィリピンに惚れた。

もともとフィリピン行きはおまけのようなものだった。
毎年3ヶ月は海外を旅すると決めていたが、キューバとジャマイカの宿が高いので2ヶ月で切り上げ、まだいったことのないフィリピンと韓国がセットになった格安チケットが見つかったのがきっかけだ。
しかしおまけと言っても、オレがフィリピンパブ目当てで旅するわけがない。
まだ誰にも言ってない秘密の目的があるのだ。
たとえ言ったとしても爆笑されるか、何よりそんなものがまだ現代に存在するか、行ってみないとわからない荒唐無稽なものだから、実際に自分で体験してから発表しようと隠してきたのだ。
今日詳しい地図を手に入れたので、明日の朝、山奥にある謎の村にむけて出発する。
オレの目的が何なのか予想してみてちょ。(当たるはずないが)
うまくいけば、もどってきたばかりのカメラでレポートを2,3日中にお届けできるかもしれない。