さようなら麗しの島 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

8月22日(金)
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毎朝海で顔を洗う。
オレのアパートから海まで徒歩3分くらいなので、まずは海でひと風呂浴びるのが日課だ。
世界一美しい海で毎日泳げるなんて、世界一ぜいたくな暮らしでしょ。
おかげでオレも真っ黒土人に返り、
「ひと皮」むけた。

「I have a dream」(わたしには夢がある)
ランスが言う。
「ここで小笠原のウッドストック・コンサートをやりたいんだ」
ウッドストックとは60年代アメリカでの歴史的な野外コンサートだ。
ランスが車で連れてきてくれたのは州崎(すざき)にある秘密の場所だった。
採石場から丘を登ると海が見渡せる不思議な地形の場所に出る。野球場くらいあるスペースの周りが岩の壁に囲まれ、ミニチュアのコロッセオ(古代ローマの競技場)みたいだ。
ここなら1000人くらいはいるし、音も出し放題、野外コンサートにはもってこいの場所だろう。
「ランス、オレが命名するよ。ウッドストックにかけて、ロックストックというのはどう?」
「おおー、岩に囲まれたこの場所にぴったりじゃないか。ロックは岩とロックンロール(揺らし、転がす)にかかってるしな。ロックストック……いい響きだ」
「ランスの夢を応援するよ」
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ランスの友人サルさんのガラス工房へ連れていってもらった。山のなかにある手作りの素敵な家だ。東京のホームセンターで材木などを買い、貨物船で運び、村人や友人の協力で建てたという。
となりにはフミさんのトンボ玉(模様のついたガラス玉)工房と心地よいテラスつきの小さな家がある。フミさんのトンボ玉はまるで惑星のような小宇宙だ。
小笠原は家賃が高い。オレが泊めてもらったワンルームマンションも1ヶ月の家賃が9万円(1日3千円)だ。町の喧騒をはなれ、こうして山のなかに住むのは理想的な生活だなあ。

お祭り広場でフラダンスの練習風景を見る。美しい山や海に囲まれ、そこはかとない幸福につつまれる。
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海亀の放流を見た。
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小笠原諸島はアオウミガメの繁殖地で、世界最北端の産卵場である。
戦前の乱獲で激減したが、近年の保全活動で少しずつ増加しているという。
小笠原海洋センターでは産卵した卵を孵化させ半年から1年かけて育て、海に返す。
いつもは小亀を放流するのだが、今日は親の海亀を海に返す。浜辺にはたくさんの人たちがカメラを構え、海亀はゆっくりと海にむかって歩き出す。陸の上では重い体をひきすっていた亀が海に入ったとたん、悠々と泳ぎだした。
なにかとても崇高な転換だった。
愚か者と罵られていた人間が、ある瞬間神と崇められるような行動をとる、そんな感覚だ。ウルトラマンやスーパーマンの変身、スポーツや音楽のスーパープレイ、絶体絶命のピンチや愛するものを守るときに、その現象は起こる。
ひとは誰でも神になる可能性を秘めているのだ。

ほとんどアパートで自炊していたが、小笠原のグルメ情報ものせておこう。
海亀の話をしたあとで恐縮だが、小笠原名物はアオウミガメ料理である。もともとはハワイから持ち込まれた習慣だが、小笠原の伝統となる。保護のために年間200頭以下と制限され、さばき方も年長者から男子へ伝授される。刺身は臭みがなくとても食べやすい。煮込みは料理人の腕によって個性が出る。
島の人がいく人気の飲み屋「こも」や「ふくちゃん」で800円くらいで食べられる。
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ピーマカという魚のマリネは絶品である。
ササヨとサヨリがあるが、伝統はササヨだ。タマネギや大根などの野菜と酢であえる。
生協の左窓口で売ってるのが安くて(250円ほど)美味しい。
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写真上はパパイヤの漬物で左が醤油漬け。右がキムチ漬け。(150円)

島寿司はなんとワサビの代わりに洋カラシをつかう。薄く切ったサワラなどを醤油に漬け込むのは冷蔵庫がなかった時代の知恵だ。
寿司屋さんで食べると1500円くらい、生協の左窓口で4個パック(250円)で売ってる。

一番人気の定食屋は「波食波食(ぱくぱく)」だ。ここには30種類以上の定食(800~900円)が用意されている。お勧めは島メガジキのづけ丼(1100円)だ。
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小笠原で唯一ラーメン専門店は「かがや亭」だ。石原慎太郎も食べた激辛ラーメン(800円)。
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街中で唯一ネットがつかえる「ハートロック・カフェ」の「メガ」ならぬ「メカ・バーガー」(島メカジキのバーガー)
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「メカ・カレー」(島メカジキのカツがのってる)
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オレも海亀のように島を去る、フェリーの時間が迫ってきた。
南洋踊りの腰みのをつけたシアリさんから手作りのお弁当、アヤさんから島レモンとレイ、ギョウジさん一家から小笠原オリジナルCD、返還40周年Tシャツ、キクちゃんから自分でつくったぐい呑みグラスなどをもらった。
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最後の記念写真を撮り、最後のハグをして、フェリーにのりこむ。
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恒例の南洋踊りを見おろす。その陽気さがかえって胸にしみる。
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勇壮な和太鼓の演奏がつづく。
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船のデッキから見おろすと、コノミさんやトシさん、カズヤ、ホマレさんなど、たくさんの友人たちが見送りにきてくれている。
船が岸をはなれるとみんな千切れんばかりに手を振ふる。友人たちはアリのように小さくなっても手を振りつづけてくれる。
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10艘ほどのボートがフェリーを追いかけてくる。父島タクシーのボートにのったヨウコとキクちゃんが手を振っている。ボートが止まると、「見送りダイブ」だ。2階のデッキから海に飛びこむ。
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おかしさに笑っていると、いつの間にか涙がこぼれていた。
こんなにまで旅人を受け入れ、愛情をこめて見送ってくれるこの無邪気な人情はなんなんだ。
さようなら、麗しの島、
絶対忘れないよ、みんなの笑顔、
必ず帰ってくるよ、また会うために、
心からありがとう、小笠原!
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