8月21日(木)
photo by DAIZOU
これだけお世話になった島に、なにか恩返しがしたかった。
オレがアメリカでヒッチハイクしていたとき、ある人が20ドル貸してくれた。
「必ず返すから住所を教えてくれ」と言うと、こう言われた。
「わたしに返さなくていいから、いつかおまえよりも貧しい人に返してくれ」
カルチャーショックだった。
恩というのは直接お世話になった人に返さなくてもいいのだ!
それによって世界が一瞬でも幸せになれば、幸せのバイブレーションはめぐりめぐってその恩人にも返っていく。
おとといの昼間福祉センターへいき、何回もライブにきてくれた福祉職員のアヤさんと話した。「ライブにくる機会がないお年寄りたちに歌をプレゼントできないですかねえ」
「ちょっと急なのでできるかどうかわかりません」とのことだったが、そのとき施設長の井上さんも奥に座っていたという。
その夜、井上さんにギョウジさんから「ジャンベを貸してくれませんか?」と電話があり、井上さんはヤンキータウンにジャンベをとどけ、ついでにオレのライブも見ることにする。そこで初めてオレの歌を聴き、感動し、慰問ライブが実現したのだ。
まさに伝言ゲームの「おかげさま(御陰様)」である。
なにか見えない影の力がオレたちを動かし結びつけようとしてるとしか思えない。小笠原の海や空や森に満ち溢れる精霊たち、そしてすべての人の心にも宿る精霊たちが導いてくれたとオレは思っている。
図書館をかねた福祉会館は立派な建物で、小笠原でいちばん大きなお風呂があり、高い天井がある食堂の窓からは海が見える。
10名ほどの職員と、5名のお年寄りと車椅子のゴーちゃんがテーブルに座っている。オレは84歳になる初子さんの手を見ながら歌いだした。
ばあちゃんの手 しわくちゃの手
なにも語らないけど
ばあちゃんの手 ちっちゃな手
時をくるんだ蓮の花
生まれてまもなく
母を求めてのばした手
子供のころには
花飾り編んだ手
少女のころには
恋文をつづっていた手
戦地へゆく兄に
日の丸を振った手
ばあちゃんの手 しわくちゃの手
なにも語らないけど
ばあちゃんの手 ちっちゃな手
時をくるんだ蓮の花
結婚式の夜
浴衣の帯をほどいた手
愛する夫を
ぎゅっと抱きしめた手
貧しい暮らしに
味噌汁のネギ刻んだ手
夫の浮気に
涙をぬぐった手
ばあちゃんの手 しわくちゃの手
なにも語らないけど
ばあちゃんの手 ちっちゃな手
時をくるんだ蓮の花
産まれた子供の
おしめを洗って干した手
両親を亡くして
線香をあげた手
初孫おぶって
うれしそうにあやしてた手
脳溢血で倒れて
ふるえていた手
ばあちゃんの手 しわくちゃの手
なにも語らないけど
ばあちゃんの手 ちっちゃな手
時をくるんだ蓮の花
言葉も忘れて
寝たきりになっていった手
握ってあげると
かすかにほほえむ手
この世を去るとき
家族に別れを告げた手
真っ白な骨になり
はじめて笑った手
ばあちゃんの手 しわくちゃの手
なにも語らないけど
ばあちゃんの手 ちっちゃな手
時をくるんだ蓮の花
きみもいつか年老いて
神様のもとへ返る日
ばあちゃんの手 握りしめて
しわを合わせて幸せって
南無~
1、 ばあちゃんの手
2、 家族(ピアノ)
3、 Happy birthday
「家族」で涙ぐむお年よりもいる。
なんと今日は73歳になるタミさんと職員のさやかさんの誕生日だという。みんなで「Happy birthday」を合唱した。
ライブのあとはタミさんの誕生日会だ。手作りのフルーツロールケーキがむちゃ美味かった。
全員と握手する。「またきてください」、「来年も会おうね」と約束する。
深いしわの刻まれた手を握って。
泣いても笑っても小笠原でのラストライブだ。
10日間で4本のライブにもかかわらず、今日も「J-BOY」にたくさんの人がきてくれた。「J-BOY」はジニーという美人ママがオーナーだ。彼女の暖かい人柄に惹かれ、新ちゃんはじめ常連たちが集まってくる。小笠原返還の年に生まれたジニーは「返還ベイビー」と呼ばれ、返還40周年記念の今年はさまざまなマスコミに取り上げられた。
「あたしだって女性なのに年がバレバレだわ」と豪快に笑っていた。
またすごいギタリストがあらわれた。小笠原最大のスーパー「小祝」のタカヤさんである。オレは小祝のピーマンの肉詰め、ジャンボメンチカツ、エビカツ、などの揚げ物が大好物で、とくにニンニクを効かせたトリの唐揚げは絶品なのである。あんなに美味しい唐揚げをつくれる鉄人が共演してくれるとは光栄のいたりである。
もちろんジャンベは赤ちゃんのようにきれいな心と、老人のように熟練した手を持つギョウジさんだ。
1、 Beautiful(リードギター:タカヤ)
2、 Fragile(リードギター:タカヤ。ジャンベ:ギョウジ)
3、 パン工場の匂い(リードギター:タカヤ。ジャンベ:ギョウジ)
4、 おさない瞳(リードギター:タカヤ。ジャンベ:ギョウジ)
5、 愛を知らない子供たち(リードギター:タカヤ。ジャンベ:ギョウジ)
6、 たったひとつの命(リードギター:タカヤ。ジャンベ:ギョウジ)
photo by DAIZOU
後半はおなじみ「ヤンキータウンバンド」の登場である。
酔っ払うほどイイフレーズを弾く「酔拳」のようなミスターポストマン・トシ、その弟子である20歳の天才ギタリストカズだ。
photo by DAIZOU
7、 Dancing BUDDHA(リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
8、 幸せのアリカ(リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
9、 Happy end of the world(リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
10、 Alone(リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
11、 家族(リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
12、 Born to love(アンコール。リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
13、 Happy birthday(アンコール。リードギター:トシ&カズ。ジャンベ:ギョウジ)
14、 青空のむこう(アンコール。リードギター:トシ。ジャンベ:ギョウジ)
15、 なんくるないさ(アンコール。リードギター:トシ。ジャンベ:ギョウジ)
photo by DAIZOU
嵐のようなアンコール4曲を終え、みんなのセッションタイムがはじまる。
福祉施設長井上さんの弾き語り、ヨウコとジロウのディジュリドゥー、ウクレレシンガー・ホマレさんの歌、ギョウジさんのソロパーカッション、カズの弾き語り、トシ&カズのブルース・インプロビゼーションなど、恐るべきクオリティーだ。
なんかオレ、もうこの島に10年くらい住んでるような気がしてきたわ。
それほどここの友人たちはオープンハートの達人なのである。
みんなちがって みんないい
ちがうからこそ求め合うんだ
ぼくの後をくるな
ぼくは導かない
ぼくの前をゆくな
ぼくは従わない
ぼくとともに歩め
同じ時代に生まれ
ぼくたちはひとつだ
Alone is not lonely(「alone」より)
photo by DAIZOU